待ち人来る
それから2日、弓の訓練場に通う日々だったが、センスに教えを乞う兵士が、センスの周りに溢れかえるようになった頃、ようやく待ち人が城に到着する。
「セインス!」
と、大きな声で呼ばれ、振り返って見たセンスは、
「ノードス閣下!」
と叫んで、ノードス伯爵のほうに駆け寄るセンス。
「髪の毛や瞳や傷跡とか、色々聞きたい事はあるが、よくぞ生きていてくれた! ロローシュから話は聞いている! パイドに罪を償わせる為に色々やらねばならん事があるが、やり遂げて見せるぞ!」
と、ノードス伯爵がセンスに言うと、
「その事で相談がある。父を交えて話し合うから、父の執務室の方に行くぞ」
と、デービット王太子が、センスとノードス伯爵を訓練場から連れ出す。
「父上、デービットです」
と、豪華な扉をノックして、デービット王太子が言うと、
「ん? デービットか。入れ」
と、中から声が返ってくる。
「失礼します」
と、扉を開けたデービット王太子に続き、
「陛下、ご機嫌麗しく。ノードスでございます」
と、ノードス伯爵が部屋の中に入って膝を突く。
「陛下、ロローシュでございます」
と、ロローシュ伯爵も挨拶をする。
センスは、
「初めて御尊顔を拝見致します。セインス・クロームと申します」
と、名乗って膝を突いた。
「ノードスは少し痩せたか? ルーシーおばさまは変わらないな。クロームと申した者は、初めて見る顔であるな。ヨハネ・ディス・レイリスである。まあ、名乗らなくても知ってるだろうがな。で? デービットよ、大勢で来た理由は?」
と、この国の王である、ヨハネ・ディス・レイリスが声をかける。
ちなみにディスというミドルネームは、男の王の事であり、もし仮に、女王が即位した場合は、ミドルネームはメルとする事に決まっている。
まだ女王が即位した事はないのだが。
「父上、ご相談がありまして」
と、話の概要を説明したデービット王太子。
「なるほどのぉ。ノードスよ? そのパイドという騎士、それほど強いのか?」
と、ヨハネ王がノードス伯爵に問いかけると、
「はい。個人の武力は北では一番秀でているかと」
との、ノードス伯爵の答えに、
「ふむ。戦力としてはアテになるか」
と、ヨハネ王が思案する素振りをみせると、デービット王太子が、
「しかし父上! 仲間に剣を向ける者を味方に抱えていては、安心して戦えません」
と、訴える。
「デービットよ。わかっておる」
と、デービット王太子を制したヨハネ王は、
「セインスよ」
と、センスの方に顔を向けて声をかけてきた。
「はっ!」
と、短く応じたセンスに、
「まずは、息子の命を助けてくれた事に礼を言う。大儀であった」
と、センスを讃える。
「勿体ない御言葉です」
と、応じたセンスに、
「で、セインス本人として、何を望む? 一騎討ちでの己の手による復讐か? 法に則った采配か?」
と、センスの望みを聞いてくる、ヨハネ王。
「私個人としましては、我が手で両親の仇を取りたいとは思いますが、まだそれだけの力は私にはありませんし、クローム家としてならば、陛下の采配に異議を申す事は望みませんので、陛下の決定に従います」
と、ハッキリした口調で、伝えたセンス。
「ほう。個人の感情は抑えるか」
とのヨハネ王の言葉に、
「レイリス国在ってのクローム家です」
と答えたセンス。
「ふむ、気に入った。では、これよりデービットとノードス、ロローシュと今後の事を相談するゆえ、パイドの件はワシに一任してくれるという事で良いのだな?」
と、確認したヨハネ王に、
「はっ! 陛下の御心のままに」
と、膝を突いたままのセンスの頭が、さらに下がる。
「若いのに、よく出来た子だ。デービットよ。セインスをフィリアに会わせてやれ。年も同じだし、弓が得意というのであれば、話も合うだろう。テラスで茶会でも催してやれ。あ、デービットはすぐに戻ってこいよ?」
と、ヨハネ王がデービット王太子に指示する。
「父上、良いのですか?」
と、聞き返したデービット王太子。
「お前を命懸けで守った男だろう? ワシとしては文句無い。お前はどうだ?」
と、デービット王太子に尋ねるヨハネ王。
「フィリアが気に入れば、文句はありません」
と、答えたデービット王太子に、
「だな」
と、頷いたヨハネ王だったが、
「ヨハネ陛下、えっとセインスは私の娘と」
と、ノードス伯爵が口を開くと、
「ヨハネ! うちのフェルが」
と、ロローシュ伯爵も口を開く。
「デービット、二人が煩くなりそうだから、早く連れていけ!」
と、デービット王太子を急かすヨハネ王。
「はい、父上」
と、デービット王太子は、センスをその部屋から連れ出した。
センスが王に退室の挨拶をしたが、 はたして聞こえていたのだろうか。




