借り
センスが目覚めてから2日後。
いまだにベッドの上から、トイレ以外は動いていないセンスは、フェルに看病されながら、寝ていたのだが、
「なんか目がおかしいんだよなぁ」
と、呟いた。
「おかしいって、どうおかしいの? 確かに右眼の瞳が黒いけど、見えてはいるんでしょう?」
と、聞いてきたフェル。
「え? 黒いの?」
と、センスが聞き返すと、
「うん、はい鏡」
と、手持ち鏡をセンスに手渡すフェル。
受け取った鏡を覗き込むと、センスはフェルに、
「誰? コレ?」
と聞いた。
「セインス君だよ!」
と、何を言ってるんだという感じで、フェルが答える。
「なにこの悪役っぽい傷痕に、黒い瞳と半分黒い髪の毛!」
と、センスが言った。
今のセンスの顔は、右眉の上から頭髪の生え際より少し上まで、クッキリとした傷痕が有り、髪の毛は右半分が黒に染まり、右の瞳が不気味な黒の瞳に変わっていた。
「ヴェガ騎士が、出来るだけ毒を絞り取ってくれたらしいんだけど、毒を出し切るために皮膚を剥いだんだって。その傷痕は、毒の影響なのか、ポーションでは消えなかったんだって。髪や瞳も毒の影響なのかな?」
と、説明してくれたフェルに、
「そうなんだ。あ、目だけどさぁ? 左眼は今までと同じなんだけど、右眼が遠くの物が近くに見えるんだよ。で近くのものがよく見えないの。だから両眼で見ると、視界がブレてるように見えるんだよね? なんでだろ?」
と、自分の目の状況を説明したセンス。
「見えてはいるのよね?」
と、聞かれたので、
「うん」
と答えると、
「なら、職人に眼鏡を作らせるわ!」
と、センスの状況の解決案を出したフェル。
「眼鏡なんて高級品、俺には払えないよ!」
と、センスが言う。
この世界の眼鏡は、かなりの高級品である。
一般人はまず買えない。眼鏡=貴族の図式が成立するくらいには、高級品である。
「大丈夫! お母様かデービットに払わせるから!」
と、ニコニコしながら言うフェルに、
「いいのかなぁ?」
と、首を捻るセンス。
「このさい、いっぱいおねだりしよう! 多分買ってくれるよ!」
と、フェルがニヤリと笑う。
そして会話をしていた日の夜、フェルに抱き枕のように抱きかかえられて、ベッドに横たわるセンスは、頭部の痛みが少し和らいてきたことから、色々考え事をしていた。
まあ、動けないので、考えるしかやることがないのだが。
(遠くまで見えるって事は、遠くまで狙えるって事か? いや、そんな遠くまで矢は届かないしなぁ。あ! 粘りのある金属で弓を作れば届くのか? 馬車に付いてる板バネとやらで作れば、弾力あるだろうし。だが、金属製の弓を俺の腕力で引けるのか? 体を鍛えればいけるか? やってみるか!)
と、思っていた。
さらに三日後、なんとか歩けるまで回復したセンスは、国境国軍の宿舎に居る騎士達に、礼を言って回っていた。
センスが寝かされていたのも、戦場に一番近かった国境国軍の宿舎だったのだ。
「アウス騎士様、私が不甲斐ないばかりにお手数おかけ致しました。もっと早く発見出来ていれば……」
「何を言う。お前が矢を防いでくれなければ、我らは目の前でデービット王太子殿下を殺された、間抜けな騎士となるところだったのだ。礼を言うのはこちらの方だ。一個借りだ。いつか返すぞ!」
「バウ騎士様、お手数をおかけし、申し訳ございませんでした」
「いや、礼を言うのはこちらだ。完全に油断していて、警戒を怠った。何か困った事があれば、いつでも言ってきてくれ!」
「ジュンス騎士様、私の為に動いてくださったと、聞きました。ありがとうございます」
「礼を言うのはこちらだよ。借りが増えたな。いつでも力になるぞ!」
アウス、バウ、ジュンスの各騎士達と、センスとの会話の抜粋である。
センスは、東の騎士達の人柄の良さを、改めて実感したのだった。




