毒矢
草むらの中に立ったダニエル王子は、
「準備はいいか?」
と、草むらに向かって小さな声で言った。
「はい、これくらいの距離なら、充分狙えます!」
と、草むらの中で、伏せていた兵士が言う。
「よし! 中央に居る生意気そうな男だ。外すなよ? 殺れ!」
と、命じたダニエル王子に、
「はっ!」
と、兵士が言うと、素早く立ち上がって、弓に矢をつがえる。
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デービット王太子の横にいる騎士団員は、交渉役の老人の後ろにいる兵士に目を配っていた。
後ろに控える騎士達も同じであった。
完全なる油断だろう。
だれも一人で小便するために、草むらに入っていったブタ、もとい、ダニエル王子の事を見ていなかった。
ダニエル王子のすぐ横の草むらから、男が立ち上がり矢をつがえた弓を構えた時、それに気がついたのは、何故こんな場所に連れて来られたのか、意味がわからないと思いながら、草原をボーッと見ていたセンスだけだった。
(ん?)
と、センスが思ったとき、飛んできた矢が見えた。
「殿下危ない!」
そう叫んだセンスは、慌てデービット王太子の方に飛びかかり、デービット王太子を突き飛ばした。
デービット王太子が突き飛ばされて、地面に倒れる。
「貴様殿下に、なにをっ」
と、アウス騎士が言いかけたとき、センスの右肩の革鎧に、ビシッと音を立てて当たった矢が弾かれ、センスの右眼の眉の上から額にかけて、かすめていった。
「うっ」
と、センスが声を漏らし、そのまま倒れた。
それを見たアウス騎士は、
「矢だと? 貴様ら!」
と、テーブル近くに居る、アストン国の兵士達を殴りつけてから、矢が飛んできた方向に走りだす。
騎士団員は、倒れたデービット王太子に覆い被さるようにし、デービット王太子を守る。
バウ騎士やジュンス騎士は剣を抜き、その場に居るアストン国の者達を取り押さえたのち、さらに伏兵が居ないか警戒する。
そして、ヴェガ騎士は、
「センス! おい! 大丈夫かっ!」
と、矢がかすめた傷を両手で押さえながら、のたうち回るセンスに声をかけている。
「じ、状況は⁉︎」
と、デービット王太子が護衛を立ち上がらせてから、聞いてきた。
「殿下、ブタは身柄を押さえました! 矢を放った兵士は斬りました!」
と、アウス騎士が叫ぶ。
「センス曹長は?」
と、デービット王太子が言うと、
「マズイです。傷口あたりがどんどん黒ずんでいきます。おそらく毒矢です」
と、ヴェガ騎士が答える。
「私が持っているポーションを使うか?」
と言ったデービット王太子に、
「今ポーションを使えば、毒が体内に残ったまま傷が塞がるので、死んでしまいます!」
と、ヴェガ騎士が答えると、
「では、いったいどうするのだ! 私を助けた男だ! なんとしても命を助けたい!」
デービット王太子の声が大きくなる。
「傷口の皮膚を裂いて、毒を出来るだけ体内から搾り出します!」
と、ヴェガ騎士が案を出す。
「アウス! 斬った兵士かそのブタが、解毒剤を持っていないか探せっ!」
と、デービット王太子が、アウス騎士に向かって叫ぶと、
「無駄だ! たまたま見つけたツリーバイパーの毒だ! 解毒剤などないわっ!」
と、ダニエル王子が、笑いながら言い放つ。
「くそっ! そのブタの口を封じておけっ!」
と、デービット王太子が、忌々しそうに言う。
「ツリーバイパーか、マズイな。即効性がある上に、神経毒なので、下手すると一生ベッドの上だ。出来るだけ絞り取らないと! おい誰か綺麗な布と水を!」
焦るヴェガ騎士が、誰ともなく言うと、
「任せろ!」
と、ジュンス騎士が走り出す。
「センスを押さえてくれ、今から傷口を切り裂く!」
と、続けて言ったヴェガ騎士に、
「では、俺が押さえる!」
と、バウ騎士が近づいてくる。
「頼みます! センス! 今から傷口を切り裂くが、我慢しろよ!」
と、バウ騎士に体を押さえつけられた状態のセンスに、ヴェガ騎士が言いながら、懐から出したナイフで、額の傷の部分を切り裂いていく。
「ガァ! ウガァァァアアアッ!」
と、叫ぶセンスの額からは、大量の血液が流れ出る。
傷の近くの皮膚を、ヴェガ騎士が血液を絞り出すように押し、血液と一緒に毒を出そうと、指を動かす。
「布と水だ!」
と、言って、ジュンス騎士が戻って来ると、
「先に布を!」
と、言ったヴェガ騎士に、ジュンス騎士が布を渡す。
布で血液を拭き取ると、センスの額の皮膚の黒ずみが広がっていた。
「マズイ。皮膚の黒ずみが広がっていく……仕方ない。こうなったらある程度皮膚を剥ぎ取るかっ!」
とヴェガ騎士が一か八かの賭けに出る。
傷の周りの黒く変色した皮膚を、ナイフで剥ぎ取っていくと、先程よりも大量の血液が溢れ出る。
「よし! 毒の混じった血を拭いて、あとは水で洗い流してと、殿下! ポーションを!」
と、ヴェガ騎士が、デービット王太子に手を出すと、
「うむ! 使え!」
と、デービット王太子が小さな小瓶を、ヴェガ騎士に手渡す。
小瓶の蓋を開け、皮膚の無い、一部頭蓋骨の見えたセンスの額に、ポーションをかけるヴェガ騎士。
半分ほど額にかけると、残りのポーションを、今も喚き続けるセンスの口の中に、無理矢理流し込む。
突然流し込まれたポーションに、センスはむせてしまい、ほとんどのポーションは吐き出されてしまう。
「ほとんど吐かれたが、多少は体内に入ったはず! とりあえずこれで毒は出来るだけ排除できたはず! あとはセンスの生命力次第です。おい! 誰か担架を! 暖かい部屋で寝かせてやってくれ!」
と、ヴェガ騎士が言うと、ジュンス騎士が水や布を取りに行って戻って来た時に、一緒に連れて来た兵士達が、担架を取りに走り出す。
「頼む! 死なないでくれよ! お前には礼と詫びを言わねばならんのだ」
と、デービット王太子が、未だバウ騎士に押さえられたままのセンスの手を握り、眼を閉じて祈るのだった。
あらすじの毒矢回収です^ - ^




