大丈夫か?
堀より少しアストン国側の、草原の下草をかなりの範囲で刈り取った場所に、テーブルと椅子が置かれ、後はアストン国側の使者が来るのを待つだけとなって数十分。
「砦より、10名ほど出てきましたぁ!」
見張り櫓から、大声で兵士が叫ぶ。
「ふむ。ではこちらも動くか。エイブラム、先程決めた通りに、ここを頼むぞ」
と、デービット王太子が言うと、
「御意! 殿下の護衛騎士団員と各騎士は、先程決めた通りに! 配置につけ!」
と、エイブラム中佐が命令する。
「はっ!」
と、皆が動き出す。
3人ずつ座れるように配置された、テーブルの真ん中に座るデービット王太子。
その両側に、デービット王太子が連れて来た、護衛の騎士団員を座らせ、その後ろにアウス、バウ、ジュンス、ヴェガの四人の騎士が立つ。
ヴェガ騎士の横に、場違いなセンスが居るのだが。
そしてその場に到着した、アストン国側の人数は、9人。
そのうちの一人が、
「お待たせいたした、こちらがアストン国、第二王子、ダニエル・アストン殿下でございます」
と、一人の巨漢の男を紹介した、アストン国兵士。
「ふん! わざわざ来てやったのに、女の出迎えは無しか。不敬な奴らだのう。獣もおるとは、臭くてたまらんな」
と、デービットの護衛の一人が、狼人であるのを見て、嫌そうな表情で言うダニエル・アストン第二王子。丸い輪郭の中央にある、少し上向きの鼻から、フンスと音を鳴らして呼吸音が聞こえる。
「ブタが何か言っておるが、一応名乗ろうか。レイリス国王太子、デービットだ。人の言葉を理解できるか?」
と、座ったまま、デービット王太子が言うと、
「ききき、貴様! 我を侮辱するのか!」
と、ダニエル王子が叫ぶ。
「先に我が騎士を侮辱したのは、お前だろう? そっちが和平を言い出したのに、挑発するとか、本当に和平する気があるのか?」
と、馬鹿にした眼を向けて、ダニエル王子に言うと、
「急造の砦を作って、引き篭もった癖に」
と、ダニエル王子が言い返したのだが、
「国境を守っただけだが? 侵略してきた癖に、砦に引き篭もっていたのはそちらだがなぁ? そのうえ、負けそうだからって和平を言い出した国の王子は、そんな事もわからんのか? ああ、ブタには理解できんわな。ブタの横にいるジジイのほうが交渉役だろうが、このブタの発言、交渉に不利になるって思わなかったのか?」
と、ダニエル王子を見た後に、横にいた老人に眼を向けて言う、デービット王太子。
ワアワア喚くダニエル王子を、
「王子、とりあえず今は席につきましょう。私が話を進めますゆえ!」
と、横にいた老人が、ダニエル王子を落ち着かせる。
「ふん!」
と、言いながら、どかっと椅子に座るダニエル王子を、デービット王太子は、
(コイツと真正面で座るとか、何かの罰かな?)
と、思いながら、ダニエル王子を睨みつけた。
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「では、5年の不可侵条約と、年間、金貨3000枚を五年間、それと一部地域の領土の割譲が条件だと?」
と、交渉役の老人が、デービット王太子が言った条件を、復唱して確認する。
「金貨3000枚は、かなり安くしてやったのだぞ? 食糧を我が国から買うしか、生き残る道は無いのだろう? その金までむしり取ろうとは思ってないのでな」
と、譲歩してやったんだと、デービット王太子が言うと、
「金貨3000枚など、我が国の税収の1割以上ではないか! そんなに払えん!」
と、ダニエル王子が横から口を挟んでくる。
「では交渉決裂という事でよいか?」
と、デービット王太子は、ダニエル王子の方を見もせず、老人に確認すると、
「お待ちを!」
と、デービット王太子に言った後で、ダニエル王子に、
「王子。交渉は私がしますので!」
と言ったら、ダニエル王子が席を立って歩き出す。
「王子? どちらへ?」
と、老人が尋ねると、
「小便だ!」
と、草むらの方に歩きながら、ダニエル王子が言う。
「あのブタ、頭大丈夫か?」
と、デービット王太子が、老人に問いかけると、
「ご心配いただき、痛み入ります。普段は城から出ないお方なもので、人と交渉などした事ないのです」
と、老人がデービット王太子に、頭を下げて詫びた。




