幼き頃の恋心
ヴェガ騎士家が去っていくと、デービット王太子は、
「ルーシーおばさん」
と、隣に座っていたロローシュ伯爵に声をかける。
「なんじゃ?」
「あのミシェルと言う娘、私をチラッとしか見ませんでしたね」
と、デービット王太子は、ミシェルが自分をチラリとしか見なかった事を、ロローシュ伯爵に言う。
他の家の娘達は、ジロジロと頭の先から足元まで見たりする者や、ひたすら顔を見つめる者、なかにはウインクしたりする者までいたというのに。
「あの子は少し変わっておるからのぉ。あの家は出世欲もあまり無いから、他の家に恨まれるのも避けたいだろうしの。ワシが準男爵に推薦したから、陛下が正式に許可して下されば、他の家から羨ましがられるし、居座って揉めるのを避けたんだろう」
と、ロローシュ伯爵が言うと、
「それでも娘ならば、多少売り込みしませんかね? 刺繍が得意とか、お花が得意とか言ってくるのが普通でしょう?」
と、腑に落ちないという感じの、デービット王太子。
「まあな。刺繍は得意らしいぞ」
と、ミシェルの事をフォローした、ロローシュ伯爵の言葉に、
「ふーん」
と、気のない風を装ったデービットだが、その目は会場の端で、家族と笑い合っている、ミシェルを追っていた。
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さて翌日、朝早くからデービット王太子一行は、最初に簡易砦を作った、エイブラム中佐が指揮する戦線に向かっていた。
既に砦までの道も、綺麗に整地され、馬車の揺れは心地よい程度になっている。
砦に到着すると、盾を持った護衛と共に、柵や堀を視察するデービット王太子は、見張り櫓を見て、
「アストン国側は、あそこからよく見えるのか?」
と、エイブラム中佐に聞くと、
「敵の砦も門までは見えます。使者が出てくれば、見張りが連絡しますゆえ、ごゆっくりと」
と、エイブラム中佐が答える。
「そうか。堀の外側で調印の席を設けるから、その準備を」
と、デービット王太子が指示を出し、
「御意!」
と、答えたエイブラム中佐に、
「この砦を作ることを進言した、センスという兵士に会いたいのだが?」
と、さらに指示を出すと、
「ヴェガ騎士軍の作戦参謀の、センス曹長ですね。ヴェガ、センス曹長を連れてきてくれ」
と、エイブラム中佐は、自分の後ろを歩いていたヴェガ騎士に、命令する。
「は! 直ちに!」
と、見張り櫓に走っていくヴェガ騎士は、櫓の下で待機していたセンスを連れて戻って来た。
「お呼びと聞き、参上致しました。ヴェガ騎士軍作戦参謀、センス曹長であります。王太子殿下」
と、デービット王太子の前で、片膝をつき頭を下げるセンス。
「ふーん、お前がセンス曹長か。顔を上げろ」
と、デービット王太子が言い、
「は!」
と、センスが顔を上げる。
「ふん、かなり若いな。姉さんの好みは、こういう顔なのか」
と、少し不機嫌な声で、デービット王太子が言う。
初恋の女性が惚れた男。
声が不機嫌になったデービット王太子を、誰が責められようか。
一方、センスはというと、デービット王太子が言った姉さんとは誰なのか、センスには全く分からないが、王太子にそれは誰かと問いかけるなど、不敬かと思い黙っていると、
「お前、作戦を進言したんだから、最後まで見届けろ。交渉の場にヴェガ達と共に、私の後ろに控えておけ。いいな!」
と、命令したデービット王太子に、
「は! 拝命致しました」
と、答えるしかなかった。
「では、下がれ」
と言う、不機嫌そうなデービット王太子に、訳がわからないと思いながらも、
「失礼致します」
と、早々にこの場から退散したセンスであった。




