ロローシュ伯爵
さて、場面は変わって、国境付近の森を前にして、
「ではセンス曹長達は左側から。我々は右側から測ることにする」
と、ヴェガ騎士に言われたセンスは、
「了解であります!」
と言って、森の左手に向かって歩き出した。
2人の部下を連れて。
「ねえ? これ何です?」
と、センスに聞いたのはローレライ。
「距離を測る道具ですよ」
と、センスが答えると、
「ただ2本の杭に、ロープを結んだだけですよね?」
と、言われてしまう。
「2本の杭の間のロープを、きっちり10メートルにしてあるんですよ」
と、センスが説明すると、
「きっちり10メートルって言ったって、森の中で測ると木が邪魔して、真っ直ぐ測れないでしょう?」
と、言われたので、
「それでも、だいたい真っ直ぐ測れればいいんですよ。草原に立てる柵の距離が分かればいいんだし、多少の誤差はどうにでもなりますよ。柵を少し多めに作ればいいんだし」
「ああ! なるほど! 足りないって事にさえ、ならなければ良いわけか!」
と、納得したローレライ。
「そういうことです」
「しかし、曹長、よく思いついたね、こんなの」
と、アレンが言うと、
「昔、父さんと陣取り遊びしてたときに、コレの小さなやつ使ってたんだ……」
と、センスが懐かしむように言う。
「良いお父上ですね……」
と、アレンが言うと、
「ありがとう……」
と、センスが言った。
「あ、ヴェガ騎士様達だ。て事はやっと終わりかぁ」
と、森の右側からスタートした、ヴェガ騎士の姿を見つけた、ローレライが疲れたとばかりにそう言った。
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ロローシュ伯爵家。
国の東側に領地を持つ上級貴族であり、当主は女性のエルフである。
そして、この家はまだ代替わりしていない。
つまり、当主の女性エルフは、初代国王に仕えていた部下であり、この国の貴族当主の中で初代国王と面識のある、唯一の人物である。
当時、大陸の西側は混乱を極め、地方豪族があちこちで国を立ち上げ、戦を繰り返していた。
とある豪族の長男が、友人が他の部族に殺された事により、友人達を引き連れ、その部族を急襲し、その地方を支配下に納めた。
その後、周りの部族を話し合いと戦で統合して、建国を宣言する。
これが初代の王である。
その友人として、戦場にて王の戦略の参謀として活躍したことにより、ロローシュという名の女性エルフは、建国時に伯爵に任命される。
現時点では、ロローシュ少将という立場であるが、それは本人が昇進を頑なに拒んだためであり、代わりとして、王家の相談役という役目を引き受けている。
見た目は人族でいうなら30代後半といったところか。
銀色の長髪に、少し垂れた青い瞳をもつ眼に、細い体付きにエルフにしては大きめの胸。身長は170センチほどだろう。
そして、このロローシュ伯爵は、この国のエルフ族の長でもある。
「ロローシュ閣下、エイブラム中佐が戦の事で相談があると申して、屋敷に参りましたが、いかが致しましょう?」
屋敷の執事が、そう問いかけてきた。
「エイブラムが? わかった、通せ」
と、ロローシュ伯爵が指示する。
「は!」
と、答えた執事が、部屋を出て行く。
数分後、エイブラム中佐を連れて戻ってきた。
「ロローシュ伯爵、いえ、ロローシュ少将、突然の訪問に応じて頂き、ありがとうございます」
と、部屋に入るなり、頭を下げて挨拶したエイブラム中佐。
「よいよい。で? 戦の件で話があるとか?」
と、エイブラム中佐に尋ねるロローシュ伯爵。
「はい。新たな作戦のご認可を頂きたいと思いまして」
と、来た理由を述べるエイブラム中佐。
「新しい作戦とな? 申してみよ」
「は! 実はとある兵士からの進言なのですが……」
と、経緯を説明するエイブラム。
「ふむ。なるほど……確かにその兵士の言葉は、もっともなものだ。奴らを倒しても我が国に利は少ない。いや飢えた国の面倒を見る事にもなるやもしれんし、面倒事の方が多いように思えるな」
と、作戦の内容を聞き、考えるロローシュ伯爵。
「はい。我が国の国境を守れば良いだけだったのです。すっかり頭から抜け落ちていました」
と、エイブラム中佐は、反省をみせる。
「私も耄碌したものだ。攻め込まれて頭にきて、打ち倒す事ばかり考えておったわ」
と、こちらも反省するロローシュ伯爵。
「では、作戦を決行してもよろしいでしょうか?」
と、許可を求めるエイブラム中佐に、
「うむ! 人夫や木工職人に支払う賃金の方も、国に掛け合ってやるし、国がダメと言っても、私が資金を出すから、安心しろ。領地の安全のためには有効な手段だ。お主の担当地域で成功したならば、他の地域にも同じ作戦をとらそう」
と、許可をしたロローシュ。
「ハッ! ありがとうございます」
と、頭を下げるエイブラム中佐に、
「この作戦を思いついた兵士とやらの、素性が知りたいものだな。物事を違う眼で見れる者は、何事においても使える。その兵士の情報をもっているか?」
と、ロローシュ伯爵が、問いかけてきたのだが、
「いえ、ヴェガ騎士軍に入った、センスという名の少年兵としか。容姿は会ったのでわかりますが、詳しくは戻り次第、ヴェガ騎士に聞いて報告させて頂きます」
と、センスの容姿を、大体説明したエイブラム中佐。
「では、色々よろしく頼むぞ」
と、ロローシュ伯爵が言うと、
「はい! では急いで戻って作戦の準備に取り掛かりますので、これで失礼致します」
と、頭を下げるエイブラム中佐に、
「うむ、ご苦労じゃった」
と、労いの言葉をかけたロローシュ伯爵。
エイブラム中佐が去った部屋で、
「守り切れば勝ちか……その兵士に会うて見たいのう……」
と、ロローシュ伯爵が呟いた。




