突破する必要
その日の昼過ぎ、アストン国との戦闘地域に、ヴェガ騎士軍は到着する。
そこは山間の森の手前。大型馬車が唯一通れる街道があり、アストン国は当初、そこから侵攻してきたのだが、今は国境付近まで押し返して、戦闘中である。
国境国軍の拠点となる宿泊施設の周りに、他の騎士軍やロローシュ伯爵領軍、中央国軍などが入り乱れてテントを張り、簡易的な拠点を作り、国軍の統率者が全体の指揮をとっている。
各騎士軍がテントを張る場所は、なんとなく決まっており、前回ヴェガ騎士軍がテントを張っていた場所が、ポッカリ空いている。
「よし! テント設営班は、作業かかれ! その他の隊は、装備の点検のあと、兵装にて待機!」
と、ヴェガ騎士が大きな声で指示を出す。
兵装とは、武具を身にまとい、背中に携帯の保存食や飲水を背負い、戦をする状態の事である。
いざ戦闘になれば、拠点に戻って来れないことなど、ザラに有るからだ。
「ヴェガ騎士様、ここの戦況を教えて下さい」
と、センスはヴェガ騎士に聞く。
「あ? ああ、そういや最初だし分からんだろうな。では簡単に説明するぞ。国境はここから約1キロ先で、敵であるアストン国は現在、森を抜けた先で簡易砦を築いておる。我らは森から出て、敵陣を突破することが出来ずにこう着状態。突破口が見つからず、アウスやバウが無理矢理進軍しては、返り討ちにあってる現状だ。前回はジュンス騎士軍もそれに参加して、多数の被害が出たという感じだ」
と、簡単に説明してくれたヴェガ騎士。
「森から出にくい地形ですか?」
と、センスが問いかけると、
「森を抜けると草原でな。奴らの簡易砦から丸見えなんだ」
と、言ったのだが、
「森から簡易砦までの距離は?」
と、さらに問いかけるセンス。
「およそ500メートル」
「という事は、森を出てすぐに攻撃されるわけではないのですよね? なんでそんなに被害が出るのです?」
と、疑問をぶつけると、
「簡易砦に突っ込むからだが?」
と、明快な答えが返ってきた。
「敵は簡易砦から出てこないのですか?」
「もっぱら、簡易砦から弓矢での攻撃だな」
「ならこちらも、簡易砦を作ればいいのでは?」
とのセンスの言葉に、
「ん? センス上等兵、どういう事だ?」
と、ヴェガ騎士がセンスに聞き返す。
「こちらも簡易砦を作って、弓兵を配置すれば、被害出ませんよね?」
「それでは敵の砦を突破できないぞ?」
と、言われたセンスは、
「突破する必要ありますか? 侵攻してきたのはアストン国だし、領土を守れば良いのでは? そもそもアストン国は、何故我が国を攻めてきたのでしょう?」
と、ヴェガ騎士に確認する。
「え? あ! なるほど! アストン国はおそらく食糧目的! ほっておけば飢えるか! ちょっとエイブラム中佐に進言してくる。お前達はここで待機だ!」
そう言って、ヴェガ騎士が慌てて走り出した。
ここで、この国の軍の階級の説明を。
兵士の最底辺は二等兵である。
数度の戦闘を経て一等兵になれる。
その上に、上等兵、兵長、軍曹、曹長、少尉、中尉、大尉と上がって行く。
騎士は、国軍で言うところの、大尉と位置付けられている。
つまり、騎士軍も国軍の一部であるという事になる。
所属は寄親の貴族であるが、貴族も国に所属している訳で、全ては王の下で国を守るという制度である。
貴族の領軍も、基本は治安維持だが、他国との戦闘に配備された時は、領軍での官位がそのまま適用される。
ちなみに領軍の指揮官は少佐と決まっている。
さて、ヴェガの口から出た中佐であるエイブラムは、国軍所属であり、この戦線の指揮を任されている。
中佐の上は、大佐、少将、中将、大将とあり、その上の元帥が軍の最高責任者でもあり、国王でもある。
まあ、少将から上は上級貴族であるが。
大将は公爵、中将は侯爵、少将は伯爵だと思って間違いない。この地の領主である、ロローシュ伯爵は少将である。
大佐は子爵、中佐は男爵であることが多いが、王家に直接仕える者は、貴族でなくても佐官に任じられる事がある。
まあその後、貴族に任じられる事が多いのであるが。




