仇
最終回です。
セインスが、城壁の上にいる弓兵の指揮官らしき男を、器械式弓で狙撃する。
矢は、指揮官らしき男の胸を正確に捉えて、深く刺さると、倒れた男に駆け寄る兵士達。
「逃げりゃいいのに、応援に駆けつけるから死ぬんだよ!」
そう言って、セインスが次々と矢を放つ。
城壁の上の指揮と士気を完全に削いだセインス。
「師匠〜!そろそろいいんじゃないですか?」
そう声をかけたセインスに、ニヤリと笑い返したオークスタ中将は、
「よし! ポチ軍団達よ、門を叩き潰せぇ!」
と命じると、地響きのような音をさせ、オーク達が走る。
その数50匹……増やし過ぎだろう……
門が破壊され、騎兵が突入していく。
騎兵により、門の警備兵達が蹴散らかされると、いまだに城から放たれる矢の雨と、決死の覚悟で槍を構えて走る迫るアストン兵士。
その兵士を槍で刺すレイリス王国兵。
血で血を洗う殺戮の応酬。
その中に、セインスの姿ももちろん有るわけだが、セインスの瞳にとある人物が映る。
それは城のテラスで、兵士達に指示を出していたパイドだ。
「パイドォオオオ! もうすぐお前のところに行くから、首を洗って待ってろおおお!」
矢が届く距離ではなかったため、大声で叫ぶセインスに、
「やかましいわ! お前如きにワシの首が取れるものかっ!」
大声で叫び返すパイド。
「必ず殺すっ!」
セインスの顔には、憎しみが見てとれた。
城門に続き、オーク達が城の入り口をこじ開ける。
すぐさま突入したセインス。
槍兵がそれに続くと、アストン国城内に喧騒が響く。
セインスも器械式弓を持ち、城内の長い廊下にて殺戮を繰り返している。
廊下を埋め尽くす、アストン国の兵士の屍を飛び越えつつ、レイリス王国兵が進む。
セインスの周りには、国の東側で世話になった者達が居た。
アウス、バウ、ジュンス達である。
貴族同士の貸し借りは、キチンと返しておくのが望ましいからだ。
借りを返すには、もってこいの状況だ。
そうして、アストン王城の謁見の間に辿り着くセインス達。
そこに待ち構えていたのは、王を護衛する騎士達。
当然激しい戦闘に突入。
その戦闘の中、隙をついて逃げようとしたアストン国王に向け、
「逃がすかっ!」
と言って、セインスが矢を放つ。
アストン国王の右太腿を、セインスの放った矢が貫く。
腰の短剣を抜き、アストン国王に首に、刃を突きつけて、
「アストン兵士よ!王の命が惜しければ剣を引け!」
そう叫ぶと、
「卑怯者めっ!」
とアストンの騎士が喚くが、
「卑怯者? 戦争で何を綺麗事言ってやがる。多数で少数を迫害しているほうが、卑怯だと思うがな?」
睨みつける様に騎士を見つめ、セインスが言うと、
「人はこの世で一番高貴な生き物なのだ! 他種を支配して何が悪い! 強い者が弱き者を支配するのが自然の摂理だ!」
と偉そうに言うので、
「ほう。ならば強い我がレイリス王国が、弱いアストン国を支配しても問題ないよな?」
と馬鹿にした様な笑みを浮かべて、セインスが言い放つ。
「うぐっ」
と言葉を無くすアストンの騎士。
「アレン、この城にいる者達を拘束していけ。非戦闘員に偽装した王族や貴族達が居るかもしれんから、誰一人として逃すな! それとこの城にレイリス王国の旗をたてろ! 城が落ちたと兵士達に知らしめろ!
無駄な抵抗をさせないためにもな!」
そう指示すると、セインスは城の中で生きている者達を捕らえて回る。
「城に居た者は全てメイドや調理番なども捕らえました!」
アレンの報告に、
「パイドは?」
と尋ねたのだが、
「それが見当たりません」
そう返されたセインスは、
「そんなはずはない! 居たはずだ! この眼で見た!」
と声を荒げる。
アストン王城にて、王族全てを捕らえたがパイドが見つからなくては、セインスの目的は達成できない。
「どこだ……どこに隠れやがった……」
戦闘の終わったアストン城のテラスで一人、セインスが呟いた時、
「ん?」
アストン城から離れようとしている馬の上に、鍛えられた肉体を持つ茶色の頭髪を持つ者を発見する。
眼鏡の右レンズを跳ね上げ、確認するセインス。
馬上の男は、セインスが見間違える事のない男だ。
レイリス王国兵士の鎧を着ているが、セインスの眼は誤魔化せない。
「あの野郎!」
セインスは眼鏡の右レンズを跳ね上げたまま、手に持つ器械式に矢をつがえる。
「逃すかよ!」
そう言って器械式弓にて、パイドに狙いを定めて矢を放った。
緩やかな弧を描き、セインスの放った矢は、吸い込まれるように馬上の男の首の後ろに刺さった。
「うっ! ク、クロームのガキか……奴の弓の腕を忘れていたとは、不覚……」
パイドはそう言いながら馬から崩れて落ちた。
落ちたパイドは、ピクリとも動かない。
パイドの死を確信したセインスは、
「父さん、母さん、皆んな、仇は撃ったよ……」
セインスの右眼から一筋の涙が流れる。
こうしてレイリス王国の、アストン国への侵攻は終結した。
レイリス王国王太子、デービッドのアストン城到着を待ち、デービッド王太子の手により、アストン国の王族の首を全て斬首し、アストン国滅亡を宣言。
滅んだアストン国の国土は、レイリス国に編入され、エルフやドワーフ、獣人達の奴隷は解放される。
レイリス王国は、デービッド王太子がアストン国王の首を取った功績により、ヨハネ王が退位し、デービッド新王が即位する。
オークスタ中将は、レイリス王国軍指揮官を勇退し、自らテイマー達を集め創設した、レイリス魔物使役隊隊長となる。
空白になったレイリス王国軍指揮官には、セインスが就任することになる。
クローム子爵家は、戦果を上げたことによりクローム伯爵家となる。
その後セインスは、大陸の西では大国となったレイリス王国のため、そして義兄であるデービッド王のため、生涯を捧げることになる。
フィリアとの間に出来た二人の子の他に、ティアとの間に二人の息子、フェルとの間に二人の娘をもうける。
セインス、70歳の天寿を全うし、永遠の眠りにつく。
クローム伯爵家の子孫は、レイリス王国の軍にとって、なくてはならない存在となり、代々国軍指揮官を歴任することになる。
セインスがこの世を去る時の遺言は、
「家族や仲間に知られて、恥ずかしいと思う事だけはするな。あとは自由に生きろ」
であったという。
完
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