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星海の光  作者: ZEXAS
第三章 魔界を震わせる小動物
48/50

魔力制御はイベント必須スキルです


─チリークロワッサン城

─客用の寝室

視点 ライト




…………あは、あははははっ……♪

く、くすぐったいっ……♪

……なんだ、あたまがぽわぽわするっ……これはゆめ? なでられてるみたい……へんなかんじ……。


……んん?


「……ん」


夢から醒めたみたいだ。でも体の違和感は消えて無くて、夢と現実の狭間みたいな……朝の気だるい感じ、まだ夢の中に居たいという甘えがオレを支配している。

夢の世界へ帰りたいからまた意識を落とそうとしても、身体の違和感がそれを邪魔する。


「…………?」


流石におかしいと思って重い瞼を開けて見ると、ぼやけた視界の中に人影が2つ、3つ……。内2人の手がベッドの中に潜り込んでいるように見える。


「……えぇっ?」


少し湿った程良く暖かいタオルがオレの身体をなぞれば、その後で乾いたタオルがそこを通る。

視界が良くなっていき、綺麗な女性がそれをしていることを知る。片方が湿ったタオル役で、もう片方が乾いたタオル役、最後の1人が湿ったタオルと乾いたタオルの交換をしている。


「お目覚めになりましたか。申し訳ありません、私共の技術が足りず、ライト様を起こしてしまいました」


タオル交換の女の人がそう言ってくる。淡々と語るその口調からは、この人達がオレの身体を拭いている事に関して後ろめたさというか、悪いことをしている感を抱いているようには思えなかった。……多分メイドの仕事的なアレだろう。


オレが何も言えないでいると、2人の女の人の動きが止まった。そしてみんな一様に不安そうな表情を浮かべてオレを見つめてきた。


「……触られるのには慣れてないんです。だからその……あんまり気にしないで下さい」


咄嗟に出た言葉はフォローになってるか微妙だと思ってたが、メイドさん達の表情が和らいだのを見て安心した。


「ありがとうございます。それでは最大限気をつけながら再開させていただきますね」


「う、うん……」


元々メイドさんの手つきは相手を気遣った優しいものだったが、それが更に優しくなれば……


「……っ……ん」


くすぐったいというよりもどかしい。じんわりと撫でられるせいでピリッとした何かが触れられている所から走る。その度にオレの身体はほんの少しだけピクリと動き、身を捩りそうになる。


「…………ひ……ぁ……」


……一言で言うと、エッチな感じになってる。


ソウイウ経験はじっくり時間を掛けて『自分で致す』か『気に入った人にしてもらう』とか決めてから実行しようと思ってたのに……なんて考えていると、ふとエイルの事が気になった。


「……はぅっ」


チラッと横目でエイルの方を見ると、オレと同じ事をされているのに全く気にせず寝ていた。……多分エイルはまるっきり初物なオレより踏んで来た場数が違うんだろう。でなければ、こんな事されて平然と寝ていられる訳が無い。


──とまぁ真面目に何か考えて気を逸らしていると、身体に走るピリピリが止んでいた。コトが終わるまで何とか意識を反らすことに成功したようだ。

寂しい感じと不完全燃焼な感じがまだ身体に残ってはいるけど、抑えられないレベルではない。しばらく放っておけば落ち着くはずだ。


「それでは私共はこれで失礼します。朝食の用意はもう少し掛かるので、準備が出来次第お呼び致します」


「ごくろうさま」


メイドさん達が部屋を出ていくのを見送ってから、オレは寝ているエイルの方を見た。エイルは本当に何事も無かったかのようにぐっすり寝ていた。

少し悶々(もんもん)としながらエイルを見ている事に気付いたオレは、エイルに背を向けるようにして目を瞑った。……愛刀アレが無いとやっぱり辛いなぁ。




★ ★ ★




─身内用食堂




オレとエイルが食堂に来ると既にチェリスとレンシーが居た。……まぁメイドさんが呼びに来てからここへ向かったんだから当たり前だけど。

軽く挨拶を済ませ、スープにパンという普通にさっぱりめな朝食を頂いていると、チェリスがオレの事を呼んだ。


「ライトちゃん」


「……んくっ、……むぅっ!?」


まずい! パンが喉に詰まった!!

ス、スープで対応をっ……。


「ずじゅるっ、ずぞぞぞぞーー!! んぐっ、んぐっ……んー。…………はぁ」


スプーンも使わずスープ皿を両手で持って口を付け、あろうことか下品な音もたてて飲み干す。爽やかでお上品な朝食がオレのおかげで見事にぶち壊しだ。


落ち着いたところで周囲を見渡せば、心配度より呆れ度の方が高そうな表情のエイルに申し訳なさそうなのにどこか笑みを浮かべたチェリス、見たこともないモノでも見るかのように目を見開いてるレンシー。


「ご、ごめんねっ」


顔の前で両手を摺り合わせで少しお茶目にゴメンチャイ。これやれば多分乗り切れるって思ったんだ。


「ね、寝不足か何かで意識が半覚醒なのか?」


「……はぅっ」


レンシーの何とも言えないフォローにオレは変な声を漏らしながら肌を赤く茹だらせた。……この年になって咄嗟に『はぅっ』って出ちゃったし、レンシーの推察は外れてないのかもしれない


……なんかこう落ち着かない。イライラじゃなくてモヤモヤじゃなくてよく分からなくて、ただ無性に暴れたいというか、何もかもぶっこわしたくなる感じ。


ストレスなのか? 多分違うような気もするけど。

溜まってるのか? 発散出来ない何かが。


「ちょうど良いのかもしれないね」


チェリスのその一言にオレは話を聞く姿勢を整えた。多分、最初にチェリスがオレに声をかけた事と関係がある筈だ。それはきっと重要な事なんだろう。


「前に本の持ち主について心当たりがあるって言ったことあったでしょ?」


「うん」


「どうやら当たりみたいなの。確信は無いけど。でもそこまで来たらもう行って確認するのは決まったようなものでしょう?」


チェリスの情報網はどうなってるんだろう。あの取引してからまたそんなに日が経ってないんだけど……。


「ふふ、私も出来る限り確信を持ってから伝えたかったんだけど、それ以前に奴に近づくには時間が掛かるからね。前もって伝えて、ライトちゃん達にはじっくり準備をしてもらいたかったの」


「……準備って?」


準備がいる。それ即ち面倒な相手だということだ。面会の手続きがいる高位の者だったり限られた人しか会ってくれない秘密組織の云々だったり。

オレの知ってるヤバい組織だと、凄く下ネタにしか聞こえない名前の孤児院のイジワル婆を殺したら会える末期のカツカツ殺し屋集団とかがある。


……あ、人殺しが準備とかそういうの無いよね? いやここだと魔族殺しの確率の方が高そうだけど、人間がいないとも言い切れないし……。


「やるべき事は沢山あるけど、今ライトちゃんにして貰いたいのは魔力の制御。推測だけど貴女、魔力を抑えたこと無いでしょう?」


「……? たぶん、無いかな」


無意識でやった事あるかもとかそう言うんじゃなくて、意図的にやったことは無いから頷いておいた。……魔力を抑えるとかコントロールとか知らないしね。


「それじゃあしばらくは魔力を抑えるトレーニングを優先しなさい。私達もサポートするわ」


「もしかして、魔力を抑えてない今の状態って凄く不都合?」


「ええ、ライトちゃんは意識してないかもしれないけど、魔界こっち側の人は魔力の探知に優れているの。貴女みたいに膨大な魔力を撒き散らしてるのが居たらみんな嫌でも意識しちゃうわ」


魔力を撒き散らしている……つまりオレは無意識に魔力を漏らしてて、その量が異常なもんだからどうしても変な目で見られる。

チェリスが目を付けた本の持ち主も魔界人だから、オレをそのまま連れてったら威圧か何かと思われてみんな不幸になる。だから魔力を漏らさないように練習しようということか。


「魔力は満タンになると漏れてくの。魔界人は各々の方法で魔力を漏らさないように工夫してるけど、人間はそういうことをしてないのか皆見合った量の魔力を漏らしてるの。それが人間と魔界人を見分ける材料の1つにもなっているんだけど、ライトちゃんから漏れる魔力量はとてもじゃないけど人間の量じゃないわ。自分達の魔力量をあっさりと超える程の魔力を常に放出してる人間を見たら……まぁ異常な者と思われない訳がないわよね」


やってることは人間のそれ。でも規模が規格外。……よく今まで誰にも指摘されなかったな。ダークSUNは『その程度なら昔は沢山いた』とか言いそうだけど、エイルさんあんた……ちょっとポンコツ?


なんか色々不安になった。ここに厄介になってる内に魔力を抑えるのをマスターしないとダメだな。


「エイルはどうやって魔力を抑えてるの?」


「私ですか? 私は漏れる魔力をこれに溜め込んでます」


エイルはそう言って如何にもクリスタルな六角形の宝石を見せてきた。


「魔力晶石です。魔界人なら誰でも持ってる魔力吸収用の石です。漏れる魔力を吸い取って貯め込んでくれるんですよ」


「……あ、もしかしてそれを大量に持って魔力無限! みたいな事できちゃう?」


魔力晶石収集家みたいなのが本を持ってたら厄介そうだなぁなんて思いながらそう言ってみると、エイルは首を横に振った。


「魔力晶石は魔界の魔法医学協会より、個人の魔力量を測定した上で適したものを与えられます。便利なアイテムな上にみんな1つずつしか持ってないので、集めるのは大変です。殺して奪うなり医学協会にコネがあれば譲ってもらうなり、絶対に無理ってことはありませんが」


魔法医学協会……魔界なもんでそんな知的っぽい団体にどうしても違和感が出るけど、ここまで会ってきた魔界に住む人達と照らし合わせるとそんな変な事でもない気がしてきた。


「とにかく、これを身につけていれば魔力漏れを気にすることはありません。でもこれは自分の力で魔力を抑えている事にはなりませんね……」


「……ふーむ」


オレも魔力晶石を医学協会から貰えばいいんだけど、多分それでも解決しないかも。

みんなが異常だと感じる程の魔力がオレから漏れてるって話だから、それだけの魔力量を吸収出来る魔力晶石じゃなきゃダメって事になる。そんな物があったとしても持ち運びできる大きさじゃないと困るし、ホイホイくれるとも限らない。


他の方法を探す方が良さげかな。でも魔力のストックとかできる便利アイテムだろうし、手に入りそうなら手に入れるって方向でいこう。


「あっ、そうだ! レンシー、レンシーはどうやって抑えてる?」


本と一体化してるレンシーは最大魔力量が劇的に増えてる筈。身体で作られる魔力量も最大魔力量に見合うように増えて、漏らす魔力を抑えるのに何かしらの技を使ってると考えて、オレはレンシーに聞いてみた。


「そうだな……要は気合いだ。まずは自分の魔力の漏れを感じ取れるようにする。これを達成したら後は気合いで漏れを抑え込む。これだけだ」


「え、えぇ~……」


感覚派の意見は参考にならん!

魔法に関してはそれが正しいような気がしないでもないけど、見様見真似で出来るほど簡単とは思えない。ラーニングスキルなんて天才の持ち物だ。

……まぁでも、やるだけやってみようかな。ダメだったら他の方法を探せばいいさ。


とはいえ、闇雲にやったって出来る訳が無い。暇な時はトレーニングしたり魔力晶石の代わりの物でも探すのがよさそうだな。


「ライトちゃん、私は貴女に要は作戦の為に人間に見えるようになってもらいたいの。まずは魔力漏れを抑えられるのと、漏れている量を感知出来るようになったら教えて。大変かもしれないけど、これは今後の貴女の為にもなる筈よ」


「……あ、はいっ」


考え事に没頭してたせいでチェリスの言葉は『魔力漏れを抑え~』の辺りからしか聞き取れなかった。何とも微妙な返事をすると、チェリスはちょっと拗ねたような顔をした。……かわいい。


「吸血鬼で領主の私じゃこんな返事をされる経験なんて無かったわ……。ライトちゃん、貴女人間と言い張るには少し肝が据わりすぎよぉ……」


……うーん、やっぱり人間は人間らしく魔族の前ではビクビクしてるべきなのかなぁ。でもオレ、演技下手くそだしなぁ。


「ライト様は私が吸血鬼と分かっていて買うような変人です。仕方ありません」


エイルが微妙にチクチク刺してくるもんだから、最近エイルと上手くやれてるのか不安になってきた。最近と言ってもエイルと会ってからまだ2週間くらいしか経ってないんだけど。

まぁ2人きりの時はちょっと柔らかくなるから大丈夫……かな?


「とにかく、ライトちゃんには魔力の制御をマスターしてもらうわ。当たり前のように制御できるようになれば上出来ね。もちろん、難しかったらちゃんと周りを頼ること。いい?」


「はーい」


チェリスの方が小さいのに、なんだかオレの方が子供みたいだ。実際、精神的にはオレの方が子供なんだろうけど。なんたってチェリスは長寿の吸血鬼だし。

……あれ? もしかしてオレ、この4人の中だと一番幼い?


「……エイル、ライトちゃんって何歳くらいなの」


「聞いたことが無いので分からないけど、人間で言うと十代後半程度には成熟しているように見えるわね。見た目よりはずっと大人よ」


そ、そんな……オレ、30歳手前なんだけど……。30歳になる前に魔法使えるようになったんだけど……。そ、それが十代後半だと……!?


あぁ、思えばオレは精神が成熟してなかったのかもしれないな。

人は人とどれだけ関わったかで云々とよく聞くし、多分ただ関わったたけではその云々は無いだろうし、そうだとしたら人と上手く出来てなかったオレは年だけ取ったダメ人間

……言わば大きなお子様だったのかもしれない。

それがこんなに小さくなっちゃったのは、割と都合が良かったのかもしれない。子供だから許されて、可愛い女の子だから良く思われる。……それはきっと良いことだ。……うん。


「ライトちゃんが人間だとしたら本当に恐ろしい才の持ち主って事になるわね……。ん、ライトちゃん? 目が虚ろよ?」


「浮き沈みが激しい人だけど、ここまで沈んでるのは見たこと無いわね……。ライト様、ライト様、大丈夫ですか? ライト様?」


みんなの呼びかけでハッとなって辺りを見回した。誰もが例に漏れず、心配そうな顔を向けてくれている。


オレは久しぶりにロクデナシになっていたみたいだ。始まると止まらない負の感情のスパイラル。何処までも自分を否定だけする意味のない自問自答。一言でいうと、凄く病んでる状態。

嫌な気分になるだけで何にもならない。だからオレはロクデナシにならないように空元気でも良いから明るく振る舞おうって、この世界に来てから決めたんだ。

立ち止まらない為の力だってもらった。オレの進む道を邪魔する奴はきっと誰でも倒せる……そんな力。


……やめよう! 面倒な考えはやめ! 一体どんな思考が負の感情のスパイラルに繋がってるか分かったもんじゃない。

ちょっと最近思考しすぎたのかもしれない。思考が少しズレたらすぐこれだもの。


本当は思考を深めていきたいけど、やっぱりバカでマイペースで……あまり考えない方が気軽でいい。


「……ごめん、ちょっと疲れてるのかも」


「ライトちゃん、もしかしてホームシック?」


「えっ?」


チェリスの発言に、オレは疑問を持ちながらも何か今の現象を起こした正体を掴みかけたような気がした。


魔界ここに来た人間の大体は起こすのよ。空気でも違うのかしらね? それとも向こうにあって魔界こっちに無いもののせいで寂しさを覚えるとか? 私にはよく分からないわ」


確かに、ゲートを通ってこっちに来た時は嫌な感じはしたけど、今は感じない。でも本当は少しずつ感じてたりして、毒のようにじわじわと精神を蝕んでいたりするのかな。


「これはライトちゃんが魔力の制御をできるようになってきてから言おうと思ってたんだけど……、実は作戦の為に一度ライトちゃんを人間の世界へ送ろうと考えてたの」


一旦人間界へ帰れる……その言葉に心が少し浮ついた気がした。

きっと良い気分転換になる。そう思った。


「やっぱり鍛錬には励みになるものが無いとね。タイミングにもよるけど、ライトちゃんの頑張り次第では何日か人間界むこうに居られるかもしれないわ」


「ありがとうチェリス。オレ、少し元気になった気がするよ」


「ふふ、何度も言うけど、困った時は周りを頼ること。いい?」


「……ありがとう!」


チェリスは顔の裏に何を隠しているかは分からない。作戦も全容を話された訳ではない。……けれど、今は信用できるような気がした。









最近ライトさんいじめが多くなってきてますね。

なんだか作者に気に入られてる筈なのに作中で滅茶苦茶不幸な目にばっかりあってる子がいる……みたいな話を思い出しました。

いわば歪んだ愛情ってヤツですね!


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