83.ホテルマン、現地人に疑われる
「ははは、ポチが僕以外に懐くのは珍しいね」
笑いながらソウと呼ばれている男が近づいてきた。
「俺は懐いちゃいねーよ!」
そんなソウの言葉にポチは再びバタバタと動き出した。
俺が頷くと矢吹はゆっくりと手を放す。
すると、ポチはすぐにソウの後ろに隠れた。
無理やりに触ったのがいけなかったのか、少し嫌われてしまったようだ。
「おっ……お前! そんな顔をするのは反則だぞ!」
どうやら顔に出ていたのだろう。
見た目は人間だけど、触り心地は犬と変わりないから不思議だった。
また触れるならもう一度撫でたいと思うほどだ。
「ほら、ポチも正直になりなよ?」
「おっ……俺は……仕方ないから触らせてやるだけだ!」
そう言ってポチは俺の前に来ると、頭を下げて押し付けてきた。
俺と似たような背丈だが、思ったよりも年齢は若いのかもしれない。
「よーし、よしよし!」
せっかくだからと俺は再びポチの頭を撫でる。
口では嫌がっていても、撫でられるのは好きなんだろう。
本当に狼男は犬そっくりだな。
「あっ、ふく!」
「オイラたちをほったらかしにして、何を――」
声が聞こえたと思い振り返ると、ジビエのダンジョンの中からシルとケトが出てきた。
戻ってくるのが遅くて心配になったのだろう。
「それは浮気ってやつだぞ! オイラがいるのに最低だ!」
ケトは地面を何度も蹴るように怒っていた。
あれだけいつも触らせてくれないのに、嫉妬はするようだ。
ただ、シルとケトを見た瞬間、ソウとポチは離れて警戒を強めた。
「ふくだけずるい! シルもさわりたい!」
「あれだけオイラのことが好きって言ってたのに、やっぱり犬派だったんだね? そうやって、オイラは捨てちゃうんだ。あー、ふくは薄情者だ」
両隣から引っ張られながら声をかけられる。
その姿を見て、ソウとポチは少しずつ警戒を解いていく。
「君はふくと呼ばれているのかい?」
「ああ、俺はふく――」
話そうとした瞬間、俺は矢吹に口を塞がれた。
「今名前を聞かれたか?」
ソウに聞かれないように耳元で呟いた。その言葉に俺は頷く。
俺の言葉は矢吹には普段と同じように聞こえているようで、それで会話の内容を想定して判断しているらしい。
「本名は言わない方が良い。呪われたりしたらどうする」
そういえば、真名を知られたら魂が抜かれたり、力を奪われると聞いたことがある。
目の前の人たちがそういうのを狙っているのかもしれない。
「あー、俺がコウでこっちはリューだ」
幼い時の呼び名を使うことにした。
俺は名前の幸治から〝こーちゃん〟、矢吹の名前である竜二から〝りゅーちゃん〟と呼んでいた。
少し幼い頃に戻ったような気がして、背中がムズムズしたが今は仕方ない。
「コウとリューね。それでその子たちは……」
ソウはシルとケト、俺を交互に何度も見る。
「コウは妖精使いなんだね」
何のことを言っているのかわからないが、俺は頷くことにした。
どちらかといえば、妖精使いというよりは妖怪使いの方が正しいだろう。
「コウとリューには他に仲間はいるのか?」
「あー、エルとサラは?」
「よんでくる!」
シルはジビエのダンジョンに戻ると、サラとエルを連れてきた。
エルは恐る恐るダンジョンの外に顔を出した。
「精霊とエルフか……バランスが良いパーティーだね!」
特に気にすることなく、ソウはどんどんと勘違いをしていた。
それにしても精霊ってサラのことだろうか?
シルとケトは妖精って言ってたけど、カッパのサラは妖精じゃないのか?
まるで精霊って……幽霊……いや、考えるのはやめよう。
背筋がゾクゾクして全身が寒気に襲われる。
「犬に浮気……やっぱり呪うべきか。んー、でもオイラの体をあんなに触っておいて犬が好きって……ここは呪うしかないのか……」
寒気がしたのはケトがずっと呟いていたからかもしれない。
知らない間に呪っていそうだしな。
俺はケトを抱きかかえると、驚いた顔をしていた。
「……呪うよ?」
「やっぱり呪うんかい!」
つい突っ込んでしまった。
それでもケトは嬉しそうに目を細めてニヤニヤしていた。
「楽しい人たちですね!」
それがソウにも伝わっているのだろう。
「ただ――」
急にソウの雰囲気が変わった。
それに警戒した矢吹やシルたちが俺を守ろうと前に出てくる。
ジビエのダンジョンの中では散々囮役だったのに、こういう時は頼もしい。
できるならジビエのダンジョンでも、同じ扱いをして欲しかったな。
「封鎖されたダンジョンには何のために入ったんだ?」
「封鎖された……?」
「知らないとは言わせない。このダンジョンのせいで何人の人たちが死んだと思ってるんですか? コウたちは何をするつもりだ!」
明らかにソウの様子がおかしい。
まるで抑えていた感情がコントロールできていないようだ。
「オイラ、何もしてないよ?」
チラッとケトを見たが、どうやらケトの仕業ではないらしい。
ってことは呪ってはいないし、精神がおかしくなったわけではないようだ。
ここはちゃんと話した方が安全だろう。
俺は前に出て、ソウのもとへ近づいていく。
「大丈夫!」
矢吹は妖怪たちは俺を止めるが、そっと手に触れて微笑んだ。
なぜか俺にはソウが悪いやつとは思わなかった。
それになぜか初めて会う気がしない。
「俺たちは知らない間にあの中にいた。外に出てきたらここにいたんだ」
「そんな嘘は――」
「本当です。だから、ここがどこかわかっていないですし、封鎖されたダンジョンが何かも知らないですよ」
少しだけ嘘を混ぜつつ、事実を伝えた。
本当に俺たちはここがどこだかわからないからね。
「ソウ、この人たちはたぶん嘘を言ってないぞ」
ポチは俺の目をジーッと見つめていた。
青色の瞳が澄んでいて綺麗だ。
まるで海のように吸い込まれそうな気がする。
「なっ、また俺を誘惑するつもりだな! 瞳が綺麗だって言っても騙されないぞ」
俺は思っていたことを口にしていたのだろうか。
ただ、本当のことを言っただけだし、できるならもう一度頭を触らせてほしい。
「くっ……仕方ないな」
そう言って、ポチは俺に頭を差し出した。
俺が手を伸ばそうとしたら、後ろから大きな声が聞こえてきた。
「にゃー! またそうやってオイラから乗り換えるつもりだな! ふくはオイラのだ!」
「ちがう! ふくはみんなのものだよ!」
そこにケトとシルも混ざって、俺はもみくちゃにされた。
何が起きているのかはわからない。
ただ、幸せな気持ちになったのは確かだ。
新作を投稿してますので、よかったら読んでみてください!
下にリンクがありますので、そこをタップお願いいたします!




