20.ホテルマン、民泊オープンしました ※一部お客さん視点
あれから俺は毎日ピザを作っている。
牛島さんが作った美味しいピザがシルとケトの大好物になったからだ。
カップラーメン以外の好物ができたのは良かったが、そこからが大変だった。
「んー、ちがう!」
「まずくはないけど……」
生地の材料も色々と変えたりして試行錯誤しているが、納得いくものが完成していない。
そんな状況でもついにこの日がやってきた。
「あっ、早く準備しないと!」
今日は初めて我が家に泊まるお客さんが来る予定になっている。
接客に関しては事前に牛島さんと練習したから大丈夫だろう。
結局俺達は牛島さんの料理を食べていたけどな。
せっかく来てくれるなら、牛島さんの料理を食べたいからな。
完全に餌付けされた若者と妖怪達だ。
民泊は届出を出して受理されれば、すぐに可能となった。
ただ、180日と決められた日数しか営業できないため、週に3~4日と調整が必要になる。
今回のお客さんは牛島さんが作ってくれたサイトを見て予約してくれたらしい。
もう我が家に牛島さんは必要な存在だ。
最近では牛島さんが俺の親のように見えてしまう。
小さい頃には養護施設にいたから、親の記憶は全くないんだけどな。
――ピンポーン!
玄関のチャイムが聞こえてくると、俺達は急いで向かう。
「民泊〝笑福亭〟にようこそ!」
「ああ」
扉を開けるとそこには髪の毛がボサボサな男性がいた。
どこか反応も薄く、虚な表情で俺達を見ている。
ちなみに笑福亭はみんなの笑いで、福が訪れるところにしたいという意味合いでつけた。
それにシルはどうしても〝福〟か〝幸〟って文字を入れたかったらしい。
さすが座敷わらしだね。
「こちらのスリッパをお使いください」
スリッパを出して家の中に案内していく。
「お部屋は二階の手前になりますね。荷物をお運び――」
「俺のことは気にしなくていい」
それだけ言って、男は部屋に荷物を置きに行った。
どこか妖怪のシルやケトよりも陰気臭く、湿っぽい人のようだ。
ホテルでもサービスを断る人は多かったが、基本的には快く受けてもらえる。
むしろそれを望んでいるようにも感じていたからな。
だが、民泊だとそこまでは求めていないのだろうか。
「ふく、だいじょうぶ?」
「ああ、びっくりしただけだからな」
何か用があったら声をかけてくれるだろう。
そう思いながら夕飯の準備をみんなでしていく。
って言ってもピザ以外はほぼ完成しているからな。
ほぼ盛り付けたり、焼いたりするだけで良いから簡単にできる。
「この辺で何か良さそうなところはあるか?」
準備が終わったタイミングで男性が声をかけてきた。
その手にはカメラを持っている。
何か撮影がしたいのだろうか。
「景色が良いのと少し行ったところに農場があるぐらいですね」
牛島さんにも聞いてみたが、この辺に観光スポットになるところはなかった。
だから捻り出したとしても、これぐらいのことしか言えない。
「ありがとう。散歩に行ってくる」
それだけ言って彼は出かけてしまった。
もうそろそろ夕暮れ時になるから、夕日でも撮りにいくのかな?
「ごはんは?」
「あやつ食べない気か?」
普段は早い時間に夕飯を食べているため、シルとケトはお腹が減ったのだろう。
「もう少し待ってみようか」
せっかくお客さんが来たのなら、同じ時間に食べた方が良い気がする。
一人だけ別でご飯を出すのも申し訳ないしね。
「かっぷらーめん?」
「おやつ?」
「ご飯が食べられなくなるからダメだよ」
シルとケトが好物を持ってくるが、俺はそれを取り上げる。
「「えー」」
お客さんが帰ってくるまで、俺はしばらく睨まれることになった。
♢
私はカメラを持って民泊を営んでいる家を出た。
部屋の掃除も行き届いており、店主も若いが優しそうな人だった。
今まで民泊を利用したことはなかったが、民泊としてはとても良いところなんだろう。
ただ、問題が一つだけあった。
「本当になにもないな……」
今日は世界の写真コンテストに応募する題材がないかと思ってこの町にきた。
偶然ネットで見たホームページに惹かれたのだ。
すごく魅力があるわけでもなく、初心者が作ったようなホームページ。
そんなものに少しでも惹かれた私がバカだったと、今頃になって後悔している。
「夕日とか一般的だよな」
レンズ越しに写る夕日にシャッターを押す。
結局撮れたのはどこでも撮れそうなただの夕焼け。
山の中に家があるため、ここまで来るのにもタクシーでお金もかかった。
せっかく遠出をするなら、観光地があるところに行けばよかったな。
『ンモォー!』
遠くから牛の鳴き声が聞こえてきた。
きっと遠くに見えるのは、店主が言っていた農場なんだろう。
「おっ、兄ちゃんのところに泊まりに来たお客さんか?」
牛の世話をしているおじさんが声をかけてきた。
一度カメラを構えるが、汚れたツナギ姿が目に入り写真に残すのをやめた。
私は小さく頷く。
「ははは、きっと初めてのお客さんで張り切っていただろうな」
「初めて……?」
「ああ、君が民泊の第一号のお客さんだからな」
それを聞いてさらに後悔する。
私の反応を見て、彼のやる気が削がれなければいい。
世の中期待した反応と違えば、自然と落ちていく。
私がそうだったからな……。
「せっかくだったらあの子達を撮ってくれないか?」
「へっ!?」
「君が来るために毎日頑張って用意をしていたんだ。記念に残しておきたいだろ?」
「まぁ……気が向いたら……」
「おう、よろしくな! ちなみに俺はモデル料を――」
やっぱり田舎は変な人が多いな。
私は絡まれる前に急いで宿泊先に戻ることにした。
「⭐︎評価、ブクマをしない人達は――」
「「呪うよ?」」
シルとケトはニヤリと笑ってこっちを見ていた。
| |д・)ωΦ^)ジィー




