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ひとりぼっちの魔王と分からず屋の勇者  作者: にわとりぶらま


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第09話 会話

「そうだ、培養器だ… そして、中にいるのが私の成果だ…」


 そう言って魔王は培養器の中を指し示す。

 その中には、半透明のボールにつぶらな瞳を持つ、短い手足の生物が一匹漂っていた。そして、その生物は魔王の姿を見つけると主の姿を見つけた子犬が喜ぶようにパタパタと手足を動かして培養器の中を魔王の側まで寄ってくる。


「そ、その培養器の中の…かわ…いや…奇妙な生物が魔王の成果というのか?」


 勇者は培養器の中の生物に興味をそそられたのか、少し好奇心に満ちた瞳で培養器の中の生物を見る。


「そうだ…他者の命を奪う事しか出来なかった私が、ただ一つ…ただ一つだけ生み出すことが出来た命だ…」


 魔王はまるで愛しい我が子を愛でる様に生命体の入った培養器に触れる。


「命…命だと? 魔王であるお前が新たな生命を生み出したというのか!?」


 勇者は驚愕して目を大きく見開く。


「私は…私を慕う民を誰一人…赤子一人すら守ることが出来ず…人族を滅ぼし、それだけにとどまらず、この星に息づく全ての命を死に追いやってしまった… 私は何人にも許されない大罪を犯した大罪人だ…」


 魔王は培養器から手を離し、勇者に向き直る。そして、言葉を続ける。


「勇者よ… 其方が言ったように命は命でしか贖えぬ… だから、私は贖罪の為… この星に新たな命を芽吹かせようと考えた… その贖罪の結果がこの生物なんだよ… まぁ…失敗に終わったがな…」


 そう言って魔王は勇者から目を逸らす様に項垂れる。


「失敗!? どうして失敗なのだ! 現にその中に新たな命がいるではないか」


 勇者は困惑しながらも魔王に尋ねた。


「確かにこの中に新たな命がある…だが…この命は…『この中』でしか生きられないのだよ…」


 項垂れながら語る魔王に培養器の中の生物は、甘える子猫の様に魔王の側で動き回る。


「勇者よ…知っての通り、この星は人族と私の破壊の影響で、生物が存在することを許さない死の瘴気が生まれた… 私や勇者の様な存在以外の普通の命ある者では、この星の上では一分の間も生きることは出来ない… だから、私は古代の遺物を拾い集めて、この生命の揺り籠―培養器を作り上げたのだ…」


 そして、魔王は両手を胸の高さに上げてその手のひらを見る。


「だが他の培養器を作り出す遺物も残されてはいないし、私の手で新たな遺物を生み出すことも出来ない… 培養器の材料である古代の遺物を作ることの出来る者は皆、一万二千年前に私自ら殺してしまっていたのだよ…」


 魔王は手のひらの上をすり抜けてしまったものを、もう無いと分かっていても捕まえる様に握り締める。


「だが…だがっ! この星に蔓延する死の瘴気を何とかすれば、その生物を培養器から出すことが出来て、この星を…再び命溢れる星にすることができるのではないか!?」


 勇者は魔王に訴えかける様に言葉を掛ける。すると、魔王は顔を上げ、少し嬉しそうな眼差しで勇者を見る。


「勇者よ…初めてちゃんと私の言葉に耳を傾け、まともに言葉を返してくれたな…」


「い、いや…わたしは…」


 魔王とは話す口など持たぬと言っていた勇者が、魔王と話をしていることをその本人から指摘され勇者は少し赤面する。


「まぁいい… 私に勇者を困らせるつもりは無い… で、死の瘴気についてだが、私も原因を生み出した責任者として、この死の瘴気をどうにか出来ないかと考え研究した…」


 魔王はそう言うと空中に手を翳して魔法を使い始める。


「そして、この様に一時的ではあるが、死の瘴気を浄化できるようになった…」


 魔王の魔法により死の瘴気が中和され、辺りに清浄な空間が広がっていく。


「こ、これは!! 凄い! 凄いではないか! 魔王! この魔法を使えばこの星は浄化されるではないかっ!」


 勇者は興奮気味に声を上げる。


「いや、勇者よ… 一時的と言ったであろう? 魔法を使っている間は死の瘴気を浄化するが、使うのを止めると…」


 魔王が浄化魔法を止めると、清浄さを保たれていた空間がすぐに死の瘴気に浸食され、再び元通りの生命の存在を許さない空間に戻る。


「あぁ…」


 その状況に勇者は希望を折られて悲壮な顔をする。


「何度も何度も浄化魔法を掛けて死の瘴気を薄めていくことや、清浄な空間を作っている間に何かでその空間を保とうともした…だが死の瘴気は薄まること無く、また古代の遺物以外の物では清浄な空間を保つことは出来なかった…」


「死の瘴気は…それほどまでに凶悪なのか…」


 勇者も魔王の様に首を項垂れる。


「死の瘴気と清浄な空間は表裏一体の様なもの… 死の瘴気を裏返して清浄な空間にしたとしても死の瘴気がある限り再び裏返される… この星から死の瘴気を取り除く為には一度で死の瘴気を完全に浄化しなければならないのだ!」


 力強く力説する魔王であったが、すぐに力なく首を項垂れる。


「だが…私にはこの星を一度に浄化するだけの魔力は無い… 精々、半分程度であろう…」


「魔王の力をもってしても… 半分なのか…」


 勇者は死の瘴気の恐ろしさを改めて認識して拳を握り締める。


「勇者よ…」


 そんな勇者に魔王は顔を上げ穏やかな顔でゆっくりと声を掛ける。


「何だ…」


 勇者は項垂れた顔でチラリと目線を魔王に向ける。


「最初の話に戻ろう…」


「最初の話?」


「あぁ…私の質問に応えてくれるのであれば…死んでもいいという話だ…」


 自分の命のことなのに、何でもないようなことの様に話す魔王に、勇者は項垂れていた頭を上げて魔王に向き直る。


「…この様な状況を見せつけて…私に質問とは何だ? 魔王よ…」


 勇者は、勝負の敗者に試合の感想を聞かれるような気持ちで尋ねる。


「勇者は…いや、人族は… この星に蔓延する死の瘴気を払い、そしてこの星に再び命を芽吹かせることは出来るのか?」


「そ、それは…」


 勇者は質問の内容に目を見張る。


「出来るのであれば… 私は…この命を差し出そう… そして、人族と魔族の一万二千年に及ぶ争いに終止符を打つがよい… 私は喜んでその結果を受け入れよう…」


 勇者の頭…いや体に衝撃が走る。


 その言葉に勇者はようやく魔王の意図や意思を理解したのだ。


 魔王は…真摯にこの星の復活を望んでいたのである。


「答えてくれ…勇者よ… 再びこの星を命溢れる星に戻すことが出来るのかを…」


 魔王の意思を理解し、困惑する勇者に魔王は続けざまに声を掛ける。


「わ…分からない…」


 勇者は顔を伏せ呟くように答える。


「分からない…今は…分からない…だが!」


 勇者は顔を上げ、真っ直ぐな目で魔王を見る。


「今度は…私に考える時間をくれないか…魔王よ」


 その顔は決意を秘めているものの敵意のない穏やかな顔であった。



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