第29話 責任の所在
シャルの問いに対し、最初に反応したのはトールだった。
しかし、スミヤがそれを手で制する。
「シャルロットさん、貴方の推理は概ね正しいですが、トールの独断というところは否定させていただきます」
「じ、爺様……」
「別にお前を庇うワケではないぞ、トール。保護者には、監督責任というものがあるのだ。それに私は、トールが何か良からぬことをやっていることに気付いていながら、止めようとしなかったのです。保護者として、これ程罪深きことはありますまい」
実際、スミヤがトールの保護者なのであれば監督責任自体は発生するだろう。
ただ、だからといって全ての責任が保護者にあるというワケではない。
「止めなかったのは確かに悪いが、トールだって善悪の区別がつかない歳でもあるまい。気持ちはわかるが、責任は免れないぞ」
スミヤはトールを庇うワケではないと言ったが、自分から監督責任という言葉を出してきた時点で庇う意思があることは明白だ。
しかし、スミヤは少し勘違いをしている。
そもそも監督責任とは、保護対象を庇うための法律ではない。
罪を犯した場合、その責任はあくまでも加害者本人にある。
それは、たとえ子どもであっても変わらない。
ただ、子どもが未熟な場合は十分な判断能力がないことも多く、そういった場合は保護者が代わりに賠償責任を負うことになる。
それが監督責任というものだ。
逆に言えば、ある程度判断能力がある場合は子どもであっても責任能力があると認められる――ということでもある。
「あら? もしかしてマリウスって、民法にも詳しかったりする?」
「いや、単純にガキの頃から働いてたから知っているだけだ」
「あ~、なるほどね」
俺はガキの頃から軍に所属していたこともあり、その辺の知識は親父から教え込まれていた。
民法は国により結構な差があるが、子どもが罪を犯した場合、大体10歳から12歳程度で責任能力があると認められる。
ただ、成長には個人差があるため明確に何歳からという規定は基本的に存在しない。
特に、俺のようにガキの頃から自分で金を稼いでいると、年齢に関係なく責任能力があると見なされることも多かったりする。
つまり、トールがまだ未成年だったとしても、開拓者として活動しているのであれば賠償責任は免れない可能性が高いということだ。
「ま、その辺の判断がどうなるかについては専門家じゃなきゃわからないけど、個人的に情状酌量の余地くらいはあると思ってるわ」
「ほう?」
シャルはガチガチの真面目君というワケではないが、守るべきルールはしっかりと守るタイプである。
そのシャルが情状酌量の余地があると言うのであれば、少なくともグレー判定に持ち込める何かがあるということか?
「フフン♪ 聞いて驚きなさい、マリウス? トールの年齢はね――――、なんと13歳なのよ!」
「っ!? なんだと!?」
年寄りのような雰囲気を放っている割に顔立ちは若いし、かなり年下だとは思っていたが……、13歳だと?
シャルが嘘を言うとは思わないが、それでもにわかには信じ難い……
「ビックリでしょ? 私もギルドのデータベース見て吹き出したわ」
開拓者協会の専用ページでは、所属している開拓者の簡単なデータが閲覧できるようになっている。
個人情報なので当然詳細な情報は閲覧不能だが、年齢やランクについては公開情報であるため確認することが可能だ。
それはつまり、トールの年齢は公式の情報ということでもある。
絶対に情報が正しいとは思わないが、所属する際に身分証を呈示しているハズなので、恐らく詐称の可能性は低いだろう。
「登録された日付は4年前だから、開拓者になったのは9歳ね。開拓者は登録だけなら6歳からできるから年齢的にはそこまで珍しくないけど、私より若くてDランクまで上がってるのは中々ね」
シャルが開拓者になったのは11歳と聞いてるので、登録時期だけならかなり近いのではないだろうか。
軍では一番の若手だった俺だが、開拓者業界を見ていると自分なんて本当に大したことなかったのだな思わされる。
「いくらなんでも老けすぎでしょって言いたいところだけど、まあそれについては事情がありそうな気がするから一旦置いておくわね。で、この依頼が発行されたのが3年前だから、当時トールは10歳ってことになる。責任問題については残念ながら免れないでしょうけど、本当にガキだったんだからガキの発想なのは当然っちゃ当然よね」
「確かにな……」
10歳以下とは言っても、良識がある子どもはいくらでもいる。
ただ、それはしっかりとした教育を受けていればという条件になるし、受けていたとしても悪ガキとして育つ子どもは少なくない。
子どもはそもそも人生経験が少なく、物事を深く考えるのが基本的に苦手だ。
それゆえに、悪いことをしてもバレなければ平気という発想に至りやすいのである。
もう少し思慮が深ければ、隠し通すことが難しいことも、バレたあとにどうなるかくらいわかるだろうに……
これについては俺も自覚があるので、トールのことを責める気持ちは大分薄まってしまった。




