第28話 ガキの発想
これは恐らく、一種の違約金詐欺というやつだ。
詐欺というものはあの手この手と複数の手口があるため同じ違約金詐欺でも様々なパターンが存在するが、これはその中でも古くからあるシンプルなパターンと言っていいだろう。
……ただ、妨害工作をして依頼の達成を阻んだり、タレントや商品の価値を落とすことで意図的に契約違反を発生させるというかなり強引な手口であるため、近年ではあまり聞かなくなっている。
当たり前ではあるが、そんなことが続けば得をする側は確実に疑われるし、本格的に調べられれば隠し通すのはまず不可能だからだ。
「……なんとなく察したが、一ついいか?」
「いいけど、どうせ、何故そんなことをギルドが認めているんだ? でしょ?」
「ん……、まあ、そうだな」
厳密には違約金がどこから支払われているか確認したかったのだが、最終的にはそこに行きつく内容であるため否定はしなかった。
「それも説明するつもりだったけど、ギルドの内部情報まではわからないから半分くらいは推察になるけど、いい?」
「納得するかどうかはわからないが、少なくともシャルの知識と頭脳については信用している」
「そ、ありがと♪」
シャルの知能は年齢不相応であり、明らかに普通の努力では到達できない域にある。
天才という言葉は軽々しく口にしたくはないが、シャルは間違いなくそちら側の人間だ。
「こういうケースは大抵の場合大きな要因ではなく、複数の小さな要因が重なることで成立しやすいんだけど、まずは短期契約の仕組みから説明するわね。スミヤ村長もトールも、どうせ詳しい内容は知らないんでしょ?」
「え、ええ……」
スミヤは頷きながらトーヤに目配りするが、トーヤは俯いて黙ったままだ。
「じゃあ簡単に説明するけど、開拓者ギルドの依頼における短期契約っているのは、言ってしまえばギャンブルみたいなものよ」
「ギャンブル?」
「ええ、そのまんま博打って意味だけど、どちらかと言うと利益よりも娯楽性を重視したシステムね」
そう言ってシャルは端末を操作し、ギルドの管理サイトを表示する。
流石のシャルも、規約や制度の細かい数値までは暗記していないらしい。
「わかりやすい例としては速達なんだけど、流石に知ってるわよね? 要するに通常よりも速く物を届ける代わりに代金を多く請求するサービスのことだけど、仕組みはアレと同じ。ただ、ある程度の確実性がなければ、それはもうただのギャンブルと言えるわ」
俺もこの1年である程度世俗に染まりつつあるので、通販の速達くらいは利用したことがある。
中々に便利なサービスではあるが、確かに何らかの要因で届くかわからないような状況であればサービスとしては成立しない。
そういう意味では、確実性の全くない依頼内容で早期達成を条件にしている短期契約というシステムは、ギャンブルと言われても仕方がない気がする。
「そんなことは開拓者ギルドだって百も承知だから、短期契約はちゃんとギャンブルだと認識されたうえで存在しているシステムってこと。そもそも開拓者自体が一攫千金狙いのギャンブラーみたいなところあるから、他にも似たような制度はいくつかあるわ。ランクの飛び級だってそうでしょ?」
そう言われてみると、報酬に影響が出るような飛び級を正式に採用しているのはレアケースかもしれない。
競技などの段級位制は、基本的に安全性の確保や公平を期すために存在しているようなものなので、あまりにも突出した実力を持っている者は特例として飛び級が認められることがある。
しかし、金銭などの報酬に影響するような環境――具体的にはプロの環境ではほとんどの場合認められていない。
そんなことをすれば、逆に公平性が欠けてしまうためである。
飛び級が認められるのは、あくまでもプロになるまでのあいだだけだ。
だから賞金のかかった大会では格上や格下と当たることもあるし、大番狂わせなんてことも起こり得る。
その点、開拓者は競技ではないしプロ制度もないが、ランクが上がれば報酬額の高い依頼も受注できるようになるため格差は生じることになる。
もちろんそれに見合う実力があれば問題ないだろうが、俺のような初心者が飛び級などすれば幸運だとしか思われないだろう。
俺の過去についても一般には公開されていないため、ほとんどの開拓者は俺のことをギャンブルに勝ったラッキーボーイとしか見ていないだろう。
「しかし、ギャンブルを好むとはいっても違約金を払うとなると話は変わってくるだろう?」
人は自分の意思で何かを賭ける分にはある程度の覚悟を決められるが、罰則として何かを支払わなければいけないとなると途端に及び腰になるものだ。
実質的には同じ損であったとしても、自分で払うのではなく払わされるというだけで印象が大きく変わるためである。
「ええ、だから違約金とはいっても、失敗した開拓者がそれを支払う必要はないの」
「っ!? それでは、ギルドが大損することになるだろう」
「普通はね。ただ、開拓者ギルドは元々利益を目的とした組織じゃないってことと、そもそも違約金自体実は大した額じゃないのよ。せいぜいが手数料の返還と、多くてもバイトの時給くらいね」
確かに開拓者ギルドは非営利目的の組織だと謳っているが、そんなことをしていれば普通は組織として成り立たないものだ。
つまり逆に考えれば、利益度外視のサービスや遊びが行えるほど潤沢な資金がある――とも取れる。
世界各地に存在する開拓者ギルドは国営ではないが、やはり国や強大なスポンサーの援助があるのかもしれない。
「……短期契約の概要はわかった。つまり、被害額が小さいから見逃されていたワケだな」
「理由の一つとしてはね。ただ、もちろんギルドだって馬鹿じゃないし、調査だってちゃんとしているわよ?」
調査…………?
っ! そうか、Aランク開拓者が出張ってきたのがそれか。
ただの興味本位で受注したのだと思っていたが、確かに冷静に考えれば割に合わない依頼だし、多忙なAランク開拓者がわざわざ時間を割くような内容ではない。
ギルドからの依頼で引き受けたと考える方が自然だし、納得もできる。
「要するに被害額も小さいし、調査しても割に合わないから結果的に見過ごされている状態ってことね。でもそれは、裏を返せば詐欺側もリスクとリターンが釣り合ってないってことでもある」
「……そうだな」
詐欺事件として見ればかなり小規模なうえに、控えめに言っても発想が低レベルだと思える。
「正直言ってくだらないと思うし、あまりにも考えが浅いし、小さい。……で、こんなガキの発想みたいなマネ、仮にも村の長を任されているスミヤさんがすると思う?」
「それはつまり、これはトーヤの独断だと?」
「私の推理ではね。……さあ、答え合わせをしましょう? スミヤ村長、そしてトーヤ」




