戴冠本番
戴冠式の会場全体は騒然とはしたものの、テロ行為もあっさりと対応していく。
ジェロも≪飛翔≫で近くに行ってジェムスの周りに≪結界≫を発動することを考えたが、どっしり構えるように以前に言われていたので、様子見をしていた。おかげで≪飛翔≫での物理だけでなく比喩の意味でも浮いてしまうことがないまま、騒動がおさまっていく。
「お騒がせしました。このようにユニオール皇国の行く手には様々な問題があると思われますが、皆様の協力も仰ぎながら前に進んで行きたいと思います」
再び風魔法によるジャムスの声が拡散されると、会場全体から大きな拍手と、皇国万歳という声が上がる。
『あれ?あれって武闘派ではなく、式典を盛り上げるための演出?』
ジェロが思ってしまうほど、誰かが描いたシナリオのようである。
その後は、何事もなくジェムスが冠の置かれた反対側に到着すると、その付近だけが迫り上がっていく。
そして観客席から見下ろされる感じではなくなったところで動きが止まる。
「新皇帝の戴冠です」
案内の声が響き渡ると、ジェムスが置かれている冠を自ら手にして、それを頭上に掲げる。
そしてそのまま少し止まり、まるで写真撮影タイムを用意していたかのような時間の後、ゆっくり自身の頭に乗せていく。
遠くから見ても金色に光り輝いているのだが、おそらく宝石類もたくさん付いているのだと思われる。流石にここで光魔法の≪望遠≫を使ってみるのは不敬と叱られそうなので我慢する。
そしてジェムスが冠を被ったまま、観客席に向かって右手をあげて、その場でゆっくり一回転する。
観客席からは再び大きな拍手と万歳の歓声があがる。




