壁
好き。そう想っても届かない。
「弘美、高田先生だよ!」
友達が私に囁く。廊下を歩いていると、ちょうど職員室へ高田先生が入っていくところだった。
友達に言われなくてもわかっていた。私の視線はいつも高田先生を追っている。でも私は友達にそんなところは見せない。
「あ、ほんとだ」
「もう、弘美ったら、高田先生のこと好きなくせに~」
「あはは、相手が中学生じゃ無理でしょ」
私は努めて明るく冗談のように友達に話す。
私が本気だなんて誰も知らない。友達には冗談半分で言っているだけだ。
そんな日々が流れて、あるイベントがやってきた。それはバレンタインデー。
女の子から告白するチャンスの日。
「弘美、チョコレート、高田先生に渡すんでしょ?」
「うーん、どうしようかな~」
私は明るく友達と話しながらも、心臓は口から飛び出しそうにドキドキしている。渡したい!少しでもこの想いを伝えたい!
バレンタインデー当日。
私は小さな紙袋を持って登校した。
「弘美~!高田先生、今職員室にいるよ」
「そう。じゃあ渡して来ようかな」
「楽しみだね!」
「何が?」
「高田先生の反応だよ!」
「だって義理チョコだし」
友達とそんなことを話しながら、職員室へ到着してしまった。友達の手前、私は職員室に躊躇いもなく入った。しかし心臓は破れそうだ。
私は高田先生の席へ近づいた。
「お、林、どうした?」
「義理チョコです」
私はぶっきらぼうに袋を差し出した。
「本気じゃないのか~」
「義理に決まってますよ」
とその時、高田先生の足元の紙袋の中にチョコレートがたくさん入っているのが見えた。高田先生はもてる。それは知っていた。でもこうして現実を突き付けられると……。皆私と同じように高田先生が好きなんだわ。
そのあとのことは覚えていない。いつの間にか家にいた。そして私は泣きじゃくった。
先生と生徒の壁は高い。いつになったら女として認めてもらえるのだろう。その頃には高田先生は独身ではないかもしれない。ううん、きっと結婚してる。
私は自分が中学生であることを不甲斐なく思った。そして涙は止まらなかった。




