出会い
今日は終電になってしまった。やってもやっても仕事が終わらない。私ってトロいのかなあ。
今日は平日の終電だから人もまばらね。さあ早く帰って寝ようっと。私の前を歩いてる人が一人、また一人と脇道へと入っていく。私の前には一人だけになった。
とそのとき、私の後ろで物音がした。私が振り返ると、男性が鞄からマフラーのようなものを手にした。そして私を見ている。
私は直感的に感じた。逃げなければ!でもどこへ?あ!前に歩いている人が一人だけいた!
私は前に歩いていた人に走りよった。
「助けてください!」
その男性は驚いて振り向いた。
「あとをつけられてるんです!」
男性は私の後ろを見ると、一緒に歩き出した。
「家はどこ?」
「この道を左へ曲がったところです」
「じゃあ帰らない方がいいね」
「え?」
私は驚いた。すぐにでも家に駆け込みたかったからだ。
「家を知られる可能性があるから、一度駅に戻ってタクシーで帰った方がいいよ」
あ!そういうことか!私は納得した。その男性は道を右へ曲がり、駅へと歩き始めた。私の速度に合わせて。私は後ろが気になりそっと後ろを見ると、男が私達についてくる。そして、また駅へ向かう同じ道へ出た。すると後ろの男は植え込みへと消えていった。
「後ろの男、いなくなったね」
「はい」
それでも男性は私をタクシー乗り場まで送ってくれた。
「じゃあ、気をつけてね」
「あの!お名前と連絡先を教えていただけますか?改めてお礼を……」
「気にしなくていいよ。あ、でも帰りついたか連絡くれる?これ、俺の連絡先」
『高田雄二』
彼の名前だった。
私はタクシーで家に帰り、彼に電話した。
「あの、長峰です。今日はありがとうございました。家に帰れました。あのお礼をしたいので、ご住所をお伺いしてもよろしいですか?」
『無事に帰れて良かったね。お礼なんていらないよ。当然のことをしただけだからね。じゃあ、おやすみ』
彼はそう言うと電話を切ってしまった。
どうしよう……。でももう一度電話するのは失礼だと思うし……。とりあえず今日は寝よう。
翌日、また仕事だ。私はいつもの満員電車をホームで待っていた。すると、後ろから声が聞こえた。
「長峰さん?」
「はい?」
とっさに振り向くと、昨日私を助けてくれた彼だった。
また会えた!
「高田さん、昨日は本当にありがとうございました」
「いや、気にしなくていいよ。無事で良かったよ」
そう言うと高田さんは、はにかんだ笑みを浮かべた。
「美里、何笑ってるんだ?」
「ふふ、何でもないわ」
『高田美里』
これが今の私の名前。




