お見合い
最近他社から派遣されてきた男がいる。どうやらイケメンのようだ。給湯室では女性陣がその話に花を咲かせていた。
「田口さんって本当に素敵なのよ~。外見だけじゃなくて優しいの!」
「同じ部なんて羨ましいなあ」
女性陣はそのイケメン田口さんにご執心のようだ。わたしは給湯室の隅で、噂話を聞いていた。そんなに完璧な人っているかなあ。
私は給湯室を出て仕事に戻った。噂好きな女性陣はまだ給湯室に残っていたが。
いつも通り仕事から帰ると、家の留守電が点滅している。また勧誘かな、と思い聞いてみると、母からだった。いつまで独身でいるのとの小言の後にとんでもないことを言った。明後日の二時にセントラルホテルに来いとのものだった。いつもの事だが、母は突然私を呼び出しては、食事やお茶を楽しんでいた。またかと思ったが、予定がないときは母に付き合っている。これも親孝行だ。
日曜日、約束のセントラルホテルへ行くと、母だけでなく伯母がいた。はて?と思ったら、男性とその母親らしき人が立ち上がり、私を待っている。まさか、これって……。
「晴美ちゃん、久しぶりねぇ」
伯母が話しかけてきた。
「……お久しぶりです」
私はやっとのことで声を出した。
「晴美、よく来たわね」
「お母さん……」
「まあまあ、まずは座って。紹介させてちょうだい」
伯母は張り切っている。どう考えても、これはお見合いだ。とにかく早く帰りたい。と思った時に、伯母から男性を紹介された。
「こちら、山内証券の田口さまよ」
田口?私は初めて男性の顔を見た。切れ長の目に、すっと通った鼻筋。これはイケメンだ。ん?田口?どこかで聞いたような……。
伯母は紹介が終わると、後は若い方たちで、なんて言っている。仕方がない。とりあえず話して断ってもらおう。きっと母は伯母に逆らえなかっただけだろう。それに、こんなにイケメンなら、お見合いなどしなくても相手がいそうだ。
「晴美さん、とお呼びしてもよろしいですか?」
「え?ええ、どうぞ」
「その様子だとわかってないみたいだね」
男は急に口調を変えてきた。何?
「君と同じ会社に勤めてるんだけどな」
「え?でも山内証券って……」
「そこから派遣されてるんだよね」
田口ってみんなが噂してたイケメン!?だったら余計に何故お見合いなんて?
「どうしてお見合いなんて引き受けたんですか?」
ついとがめる口調になってしまった。
「君に接近するチャンスがなかったからさ」
「はあ!?」
「だから、君と話したいんだ」
男は真面目に話し出した。
「会社では部も違うし、話しかけるなんて不自然だろう?だから、この席を設けてもらった」
「どうして?」
「わからない?」
男は不敵に笑った。
それからだった。彼からのアプローチが始まったのは。ただ、会社ではあくまでも知らんぷりだ。しかし、私はわかってしまった。これが彼の優しさなのだと。彼と話したりしたら、女性陣からつまはじきにされてしまうから。彼はきっとわかっている。
これからどうなるのかはわからない。ただ、彼は優しく、少しずつ私を絡めとっていくかのようだ。




