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勇者の魔王討伐後のセカンドライフ日記 ~おお、勇者よ、だらけてしまうとは何事か~  作者: 通りすがりの冒険者


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《聖伝の章⑤ 古の地図を求めて……》中編

聖剣の手がかりは先代勇者の墓に……!?

歴史学者モリブソンが聖剣の手がかりを語り始める。


 「聖剣の手がかりは勇者の墓の下に……!?」


  驚く一行にモリブソンが頷く。


 「ちょ、ちょっと待ってくれ。先代勇者の墓はノルデン王国のどこかにあると言ったな? 王様からはそんな話聞いてないぞ」


 タオのもっともな疑問にモリブソンが答える。


 「わしがあのガキの家庭教師だったころに、歴史の勉強は嫌だとぬかしおってな。挙げ句の果てに城を追い出されて、ここでひとり研究をしているというわけじゃ。じゃからあのガキは先代勇者のことはおろか、この国の歴史などまるっきり知らん」


 歴史を学ぶことで良い国づくりも学べるというのに……とぶつぶつ呟く。


 「そ、それで先代勇者様のお墓はどこにあるのでしょうか? 確かに羊皮紙に書かれた『手がかりは我とともに眠り』は墓のことを指していると思いますが、となると町の大聖堂でしょうか……?」とセシル。


 「じゃから今から話すと言うとるじゃろが!」

 「言うてへんがな!」とライラが突っ込む。

 「大聖堂に墓があるのではないかというのはわしも当然考えた。じゃが、城下町にある大聖堂は最近建てられたばかりじゃ。よって先代勇者は別のところで眠っているとわしは考えている」


 こほんと咳をひとつしてから続ける。


 「良いかの? まず先代勇者の墓を探すには地図が必要じゃ。そこには先代勇者の墓が記されておる、とわしは睨んでおる。そしてその地図はノルデン王城の図書室にあると思う……いや絶対にある! そこでじゃ、城を追い出された身としては図書室に入れん。じゃが、あんたらと一緒なら嫌でも入れてくれるじゃろう」

 「では図書室へ!」勇者が扉を開ける。



 ノルデン王城の玉座の間にて若き国王スノーデンは勇者一行がやって来たとき、快く迎えたが、モリブソンの顔を認めると「げっ」と顔を曇らせた。

 モリブソンが事のあらましを説明し、スノーデン王は「聖剣の手がかりを探すのなら……」と図書室に入ることを許可した。


 ぎぃいと木造の両開きの扉が開かれると、そこには書庫らしく背の高い本棚には古今東西から集められた蔵書が並び、図書室独特のかび臭い匂いが漂っている。

 ひさびさに訪れたモリブソンが懐かしい匂いをすーっと鼻から吸い込む。


 「さて、地図の探索開始じゃ!」


 勇者一行が手分けして、本棚からそれらしき本をモリブソンとセシルに手渡す。

 これではない。あれでもない。それでもないと机の端にどんどん本が高く積まれていく。


 「まだ見つからへんの……?」


 ライラが何十冊目になるかもわからない本を運ぶ。


 「すみません。まだ地図らしきものは見つかっていません……」


 本の内容を調べ終えたセシルが申し訳なさそうに言う。


 「いい加減くたびれてきたぜ……つうか手がかりはホントにここにあるのかよ?」タオが棚から本を取り出すと下にいる勇者へと渡す。


 「先生を信じるんだ。手がかりはきっとここにある」

 「そうは言うてものぅ……頭の悪い俺ぁにゃ、本に囲まれているだけで疲れてくるわい」


 がりがりと頭を掻くと、どすんと本棚にもたれる。


 「もうおっさんなんだから無理すんなって。アンさん」とタオが茶々を入れる。

 「俺ぁまだおっさんって言われる年じゃねぇって言ってるだろが!」


 アントンがどんと本棚を拳で叩く。その拍子にか、棚にしまわれた巻物がどさどさっと音を立ててドワーフの頭に落ちる。


 「なんだこりゃ?」と頭をさすりながら巻物を広げる。

 「なんか四角いのがいっぱい描いてあるぞ」

 「ちょっと見せてくれ!」と勇者がひったくる。

 見ればなるほどアントンが四角いのと表現したのはどうやら建物を記したものらしい。


 「間違いない! 地図だ!」

 「なんじゃと!? 見せてみなさい!」


 勇者の言葉にモリブソンが飛びつき、地図をひったくると机の上に広げる。


 「間違いない! これはノルデン王国の地図じゃ!」


 じゃが……と首を振る。


 「たしかにこれはノルデン王国の地図じゃが、年代が違う。この時代には勇者はまだ没しておらん。おまけにこの地図はまだここが村だった時じゃ」


 勇者一行がすぐさま床に散らばった巻物を拾い上げ、モリブソンに手渡す。

 広げられた地図は年代を重ねるうちにだんだんと村から街へと発展していく。

 窓の外はすでに日が傾き始めていた。セシルが蝋燭を持ってきて明かりを灯す。


 「これじゃ! この地図じゃ!」


 モリブソンが探し求めていた年代の地図を天を仰ぐようにして広げる。

 勇者一行がモリブソンの下へと集まる。


 「よいか? この大きな四角いのがノルデン王城じゃ。この時はまだ大聖堂は出来ておらぬ」


 モリブソンが地図の上で節くれ立った指を這わせる。


 「勇者の墓は……」


 つつつ、と指が地図の端へと向かい、ぴたっとある箇所で止まった。

 そこは墓を表す象徴(シンボル)の十字架とともにこう記されていた。


 『魔王を滅ぼし英雄、勇者ここに眠り』


 現在の地図と照らし合わせて、所在を確かめる。勇者の墓があるところには教会があった。


 「崖の上の教会、勇者の墓はここじゃ」

 「じゃあ、そこに行けばいいんだな!」


 タオがばしっと拳を掌に叩きつける。

 モリブソンがうむと答える。そして顎髭を撫でる。


 「じゃが……あの羊皮紙にあった『地図は風と共に消える』の意味がまだわかっておらん」

 「とにかく、その崖の上の教会に行ってみよう!」


 勇者が地図上の先代勇者の墓を指さす。



 崖の上の教会は文字通り、打ち寄せる荒波が断崖にぶつかってしぶきを上げる崖の上にぽつんとあった。

 木造の教会は建てられてから、かなりの年月が経っているため、今にも崩れそうに見えた。

 屋根にある十字架がなければ、ただのあばら屋にしか見えない。

 びゅうびゅうと吹きすさぶ海風のなか、勇者一行と歴史学者は教会のなかへと入る。

 礼拝堂――そう呼ぶのを差し支えなければだが、長年潮風に晒されたおかげで腐った木組みの礼拝堂には、穴が空いた屋根から瞬く星の光の下、長椅子がばらばらな位置に、奥には錆びて変色した十字架が。その手前にはかつては上質なビロードだったであろう布がボロボロに朽ちて祭壇にかけられていた。

 祭壇の裏、ちょうど十字架の下に当たるところ、そこには柩があった。

 聖櫃(せいひつ)――。聖人や英雄の遺体が納められた柩である。


 「これが、勇者の墓……?」


 松明を手にした勇者が呟く。


 「地図によれば、確かにここなのじゃが……」

 「ほんまにここで合うとるのん? 英雄様が眠るところには見えへんけど……」ライラがきょろきょろと見回す。

 セシルが柩のところへ駆けよるとじっくり観察する。


 「妙ですね……柩には必ず、故人の名前が彫られているものなのですが、この柩にはそれが見当たりません……」


 英雄、勇者様なら名前があって然るべきなのに……と首をかしげる。


 「あの羊皮紙には墓って書いてあったよな? だけどこれは墓じゃねぇよな?」とタオ。

 「墓の下に手がかりがなんとかとも書いてあったな」タオの隣でアントンが言う。

 「つまり、これは勇者様の柩ではない、と……?」


 セシルが錫杖をしっかり握りしめる。


 「とにかく、開けてみよう。タオ、アントン、手伝ってくれ」


 セシルのほうを見て「構わないな?」と聞き、セシルが「世界を平和にするためですから……」とこくんと頷く。

 勇者、タオ、アントンが柩の蓋の端を持つ。


 「せーの!」


 同時に掛け声を出すと、蓋が、ず……と開く。

 さらに力を込めると蓋は拍子抜けするほど容易に動き、ごとりと柩の横に置かれる。

 モリブソンが近づいて松明で柩の中を照らす。

 勇者の遺体、いわゆる聖骸があるであろうそこには……


 「ない! なにもない! もぬけの殻じゃ!」

 「なんやて!?」


 勇者一行が柩の中を見る。やはり中はなにもない。髪の毛一本さえも。


 「どういうことだ!?」タオが柩の中を探るが、当然手応えはない。


 「場所が違っていたのでしょうか……?」


 セシルがモリブソンに尋ねる。


 「それはない! たしかにここのはずなのじゃ!」


 勇者がモリブソンが広げた地図を確かめる。


 「やれやれ、とんだ無駄骨じゃったのぅ……」


 アントンが巨体を柩のそばによっこらと座ると腰に下がった水筒を取る。

 蓋を外して喉に流し込もうとするが、手が滑ったのか、落としてしまう。


 「おわっ、もったいねぇ……」


 水筒を拾おうとすると、零れた水がじわりとあたりに広がる。


 「いま、なにか聞こえなかったか……?」


 勇者が地図から顔をあげて言う。


 「別になにも聞こえへんけど?」


 勇者がしっ、と指を口に当てる。一行も静かに耳をかたむける。



 ――――――――ぴちょん。



 微かにだが、水滴が落ちる音が聞こえた。それもごく近くで。


 「おい! これ見てみろ!」


 タオが柩の下を指さす。見ると零れた水がじわりじわりと柩と台座の間に染みこんでいる。


 「この下、空洞じゃないのか?」

 「柩をずらせ!」勇者の一声で皆が柩を動かし始める。

 ずずず……と地滑りのような音を立てて横に動かすと、柩があったところにはぽっかりと穴が空いており、そこから階段が下へと続いている。

 松明で照らしても先が見えないほど暗く、闇の底から怪物の呻き声のような風の音が聞こえてくる。


 「本物の墓がこの下に……?」とセシルが覗き込みながら言う。


 「間違いない。この教会も柩も恐らくは盗賊や魔物の目を欺くためのもの。聖剣の手がかりはきっとこの下にある……!」


 勇者がモリブソンに向き直る。


 「先生はここで待っててください。もし、日が昇っても我々が戻らなかったら、城にこのことを伝えてください」

 「うむ。気をつけて行くのじゃぞ」と歴史学者が頷き、勇者も頷く。


 「さぁ、地下に行くぞ」


 松明を持った勇者を先頭にして仲間たちが後に続いて階段を下りる。





後編に続く。

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