《第二十二章 令嬢姉妹の憂鬱》⑤
シンシアがガトー姉妹の豪邸への潜入に成功した頃、ミカは勇者の手を引いて部屋へと案内する。
程なくしてドアの前まで来ると、ミカが勇者に向き直る。
「ここですわ。勇者様」
そして頬に朱を差しながらもじもじする。
「あの、殿方を部屋にお連れするのは久方ぶりなので……よければ目隠しをお願いしても構いませんでしょうか?」
やはりこの娘は良い子だ、と勇者は首を縦に振る。
「では……」と目隠しが施され、勇者の手を握る。
カチリと鍵が外れる音がしたかと思うと、ドアが開き、勇者は部屋の中へと招き入れられる。
「勇者様、こちらへ……」
ミカに手を引かれながら勇者は歩く。と、ミカが立ち止まったので勇者も止まる。
「勇者様、この壁に立ってください。それと両手をあげて……そうですわ。そのままお待ちください」
目隠しされたまま状況が飲み込めない勇者は言われたとおりに手を上げる。
すると手首に何かが巻かれる。同時にじゃらりと鎖の音がした。
「ちょ、これは……?」
だが、目の前にいるであろうミカは何も答えない。代わりに衣ずれの音がする。次にぱさり、と衣服が落ちる音がした。
コツコツと踵で床を突くようにこちらへと歩いてくる。
ぴたりと足音が止んだかと思うと、次の瞬間、勇者の衣服がたくし上げられ、左右にぱらりと開く。
「……ッ!」
おそらくナイフか刃物のようなもので切り裂いたのだろう。
勇者は今になってこのミカという娘に不安を覚え始める。
「ああ……なんてだらしない肉体……」
ぐにっと腹を掴まれる。
「ンひっ!」勇者の口から頓狂な声が漏れる。
その口に球が押しつけられると頭の後ろでぱちんと固定される。球には呼吸出来るよう穴が空いているので、そこからひゅーひゅーと音が漏れる。
「静かに、睦言のように……」
ミカがそう言うと、ひゅんっと空を切り裂く音と同時にばちんっと肉を叩く音。
「ひゃィイイイイっ!!」
悲痛な叫びを上げると、その拍子に目隠しがずれ、目の前の光景が露わになる。
壁には様々な拷問道具が並び、隅には鉄の処女が、そして勇者の前には黒く艶めかしい衣装に装いを変えたミカが鞭を手にして立っていた。
「見てしまいましたわね……」
ミカがびんっと鞭を張る。勇者がごくりと唾を飲む。
勇者は悟った。本当に危険なのは姉、ショコラではなく、この妹ミカのほうなのだと――。
「久しぶりに殿方と遊ぶ機会が訪れるなんて、それも勇者様と……」
ぺろりとミカが舌なめずりする。そこにはおよそ清楚と呼べるようなものは消え失せていた。
「さぁ、まだまだ時間はたっぷりありますわ。私と楽しく遊びましょう♡」
勇者はぶんぶんと首を振るが、それでミカの鞭を振るう手が止められようはずもない。
「んぁあアアアアアッ!!」
拷問部屋にまた悲痛な叫びが響く。
シンシア……たすけて……!
⑥に続く。




