《第十五章 明日に賭けるギャンブラー》その②
スペードと名乗る男は勇者たちにゲームを挑む……!
スペードと名乗る男を前にして勇者一行に緊張が走る。スペードは相変わらず不敵な笑みを浮かべている。
「どうしましたかな? まさか怖じ気ついたわけではないでしょうな? もちろんそのままお帰り頂いても結構ですよ。もっとも、お仲間を置いていける度胸があればの話ですが……」
ひらひらと手を小馬鹿にしたように振る。これに若者ひとりが切れた。
「今度はおらだ!」
「Good! で、種目は?」
勇敢に挑んだ若者はバーカウンターへ行くと水差しとグラスを拝借する。グラスをテーブルに置き、そこに水を注ぐ。グラスの縁ぎりぎりまで注いだところで止める。スペードは興味深そうに見つめる。
「表面張力って知ってるか?」
「なるほど……これは初めて見るゲームだが、面白い!」
♤コイン入れ♤
水の入ったグラスに互いにコインを入れて、水が溢れた方が負けとなる。使用するコインはカジノのコインとする。
なおコインは1回で何枚入れてもよい。
コイントスで先攻は村の若者だ。
「残念だが、おらは村ではこのゲームで負けたことがないんだ」
そう言うとコインを一気に4枚入れる。コインがすべて底に沈むと少し溢れそうになるが、ぎりぎりで持ち堪える。
これがおらの必勝方法! 4枚入れられたら、後がないと思うだろうが、実際はまだ余裕がある! 相手はコインを少なめに、1、2枚入れるだろうから、次のターンの限界枚数で決める! 何度も何度も練習して編み出したこの必勝法は絶対破られない!
「ひとつ聞いても良いですかな? 貴方の村というのはどこの地方で?」とスペードが聞く。
「グラン地方だ!」
若者が誇るように言う。
「Good!」
スペードが三枚のコインを掴むとゆっくりと、慎重にグラスに入れようとする。
勝った! 勝利に急ぐあまり、冷静さを失ったな! 3枚入れたら確実に溢れる!
「この勝負、おらの勝ちだな!」と若者が勝ち誇ったように言う。
「静かに! 揺らさないでくれたまえ!」
スペードの額に汗がつぅっと垂れる。コインが水面に触れると、そのまま静かにコインを沈める。だが、溢れるはずの水は辛うじて持ち堪えていた。
「ば、バカな……っ! 3枚も入れたら確実に溢れるはずだ!」
若者がグラスをよく見ようと顔を近づける。だが、いくら確認しても水は溢れてもいなければ零れてもいない。
「貴方のターンですよ」
スペードの声が無情に響く。
「うう……」
グラスは素人目に見ても1枚入れただけで零れそうだ。慎重に慎重にと頭では分かっても手が、指が震える。
水面の上まで来ると、指が滑ったのか、コインがぽちゃんと音を立てる。当然グラスの周りに水しぶきが散った。
「私の勝ちですね」
スペードが勝ち誇ったように唇の端を歪める。
「ひ、ひとつ教えてくれ。なぜ負けたんだ……?」
フフフとスペードが笑うと、カジノのコインを目の前に差し出す。
「貴方の地方で使われている硬貨と比べてみなさい」
「?」
「まさか!」と勇者が硬貨を取り出して比べる。
見るとグラン地方の硬貨よりカジノのコインのほうが幾分小さい。それに重さも違う。
小さい分だけ水嵩を減らせたのだ。
敗因を目の当たりにした若者はテーブルにくずおれる。
スペードが指を鳴らすと、別の鉄仮面が現れ、勝負に負けた若者を羽交い締めにする。
「さて、夜はまだまだ長いですよ? 次はどんなゲームですかな? 勇者殿!」
スペードに名指しされた勇者はごくりと生唾を飲む。
「いいだろう。俺が勝ったら仲間を解放しろ」
「Good! 良いでしょう。それでゲームは?」
勇者がすぅっと息を吸う。
「モンスターポーカーだ!」
ほぅ、とスペードが髭を弄りながら不敵な笑みを浮かべる。
「Good! ポーカーは私が得意とするものだ! 受けて立とう!」
To be continued……




