45.
そんなことを思い出しつつ、もう一度大木を見上げた。
木登りするにはちょうどいい枝がたくさんある。
木登りしたい衝動にかられた。
下から数えられるほどの枝にのぼるのだったらいいかも、なんて考えてしまう。
実際、腕まくりをし始めていた。
陽は、すでに傾きかけている。すこしでも高いところにのぼれば、夕陽が見られるかも。
決断するとすぐ行動。
というわけで、腕まくりとズボンの裾をまくった。
そして、いざのぼろうとしたとき、近くの茂みがガサガサと音を立て始めた。
(もしかして、ラルフが迎えに来てくれたとか?)
彼とケンカしたときやお父様やお母様に叱られ、城を飛び出し森の大木に行っていじけていると、かならずラルフが迎えに来てくれたのだ。
だから、また彼が迎えに来てくれたかと思ったわけである。
しかし、ガサガサという音の正体は彼ではなかった。
「ジョシュア?」
つぶやいていた。
茂みの中から現れたのは、王宮付きの見習い料理人のジョシュアだった。
「リオ様」
彼は、いつものように卑屈ともいえるほど腰を屈めて近づいてきた。
「食材を届けに行った際にリオ様のうしろ姿が見えたのです。その前に怒鳴り声が聞えていましたので気になってしまい……」
「心配して追いかけてくれたのね?」
「ええ、まぁ……」
ジョシュアは、オドオドと周囲を見まわした。
「森は、はじめてです。いつも宿舎と宮殿の厨房との往復だけなもので。今回、リオ様に食材をお届けする大役を仰せつかり、はじめて森に入ったのです」
「大役って、おおげさよね」
笑ってしまった。
「まぁ、旧館はまだ森の入り口ですものね。わたしもこんなに奥まで来たのははじめてなの。ほら、見て。すごく立派な木よね」
「ええ、立派ですね」
ふたりで大木を見上げた。
いつの間にか、夜の帳がおりてしまっている。
ラルフと顔を合わせにくいけれど、ここで夜を明かすわけにはいかない。熱すぎず寒すぎずの気候なので、外で眠ることはできる。が、それをするにはまず腹ごしらえが必要だ。自生しているベリーや木の実をつまむだけでは、正直なところ腹の足しにはならない。
(帰るしかないわよね)
というか、やはり「旧館に帰る」の一択しかない。
帰ってすぐにラルフに謝罪する。
それだけひどいことを言ってしまったという自覚があるのだから。




