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英雄としての覚醒


 今日も健やかな目覚めです。

最近は夜中にクランハウスへ行って温泉に入るのが日課になっています。

さっぱりすると一日の疲れが取れるんですよね。


 昨日はマリーとアリオンさんと途中から加わったタビコさんと一緒に狩りを行いました。

狩りといってもマリーと二人で戦い、アリオンさんとタビコさんからは

アドバイスを頂くという形でしたけど。


 マリーとはこれからも一緒にパーティを組もうという話になりました。

やっぱり一人よりも二人の方が心強いですね。

特にマリーは天上の住人でありながら吸血鬼という、神魔二つの力を併せ持っています。

故郷の村での言い伝えでは、光と闇が合わさると強いと言われています。

マリーもなんだか強そうです。



 ただ今日はマリーは用事があるとのことで一緒にパーティを組めないみたいです。

なのでいつものようにベロンゴ討伐をする予定です。霧の丘は一人で行くのは怖いですからね。

ついでにソーングラス討伐の依頼も受けておきます。

行き帰りに倒すことで無駄なくお金を稼げますからね。

まさに完璧な計……たしか前に同じようなことを言って失敗した気がしますね。

これ以上は言わないようにしておきます。



 いつものようにいつもの門番さんに挨拶をして町を出ます。

この方そろそろ交代してあげたほうがいいんじゃないでしょうか?

見かけない日はないどころか、町を出る時も帰ってくる時も立っていますからね。

こんなに働いてる人、故郷の村でも見た事ありません。



 ベロンゴ討伐はもう慣れたものです。

この町に来てからなんだか自分が強くなった気がします。

あっ、ポーションの効果と女神さまの加護のおかげかもしれないですね。

また慢心してしまうところでした。

ここにはベロンゴ以外の魔物も多いですけど、

こちらが近くに寄らないと襲ってこないのがいいですね。

温厚な魔物が多いのかもしれません。

林の時は見かけたと思ったら襲いかかってきていましたからね。


 日課であるベロンゴ討伐も一区切りつけて、町に戻ることにします。

今日の狩りはこれで終了です。というのもそろそろ町の中を散策したいからですね。

実は町に来てもう何日も経ちますけど、宿とギルドとクランハウスしか行ったことがありません。

魔法を教えてくれる場所というのも探す必要があります。

故郷の村では考えられないくらいお金が貯まりましたからね。

そろそろ買い物する余裕も出来たと思います。


 町に戻るとやっぱり同じ門番さん。

笑顔を絶やさないその顔の裏ではきっと泣いていると思います。

……そうだ。私はカバンの中からサンドイッチを取り出します。

安いのに美味しいのでいくつか常備するようにしています。

きっとお腹が空いているでしょうし、門番さんに一つ上げることにします。

私もこの町でちゃんと稼げていますよという報告も兼ねてですね。


 「えっ、これを私にですか?」


 門番さんに渡そうとすると、少し戸惑ったような答え。もちろん私は肯定します。


 「ありがたい。実はお腹が空いていたんだ。休憩中にでも頂くとするよ」


 驚きました。何が驚いたかって休憩時間があったことがです。

私の見ていない時間で休憩は取っていたのかもしれません。

働き過ぎなのは変わらないですけど、少し安心ですね。


 「これはその心づかいのお礼だよ。受け取ってほしい」


 ん? 逆に門番さんから頂いてしまう事に。なんだか申し訳ないです。

でもせっかくなので受け取ることにします。感謝ですね。

いつのまにか門番さんはサンドイッチをしまっていました。

どこにしまったのかよくわからないですけど…鎧の下?

潰れてしまわないかちょっと心配ですね。

でもこれでちょっとでも元気になってくれると嬉しいですね。


 私は町に入りながら受け取ったものを見ました。……指輪です。

なんだか宝石のようなものも付いています。

サンドイッチはたしかに美味しいですけど、

それと引き換えにこんなものを貰っても良いんでしょうか?

少し罪悪感を感じてしまいますね。今度女神さまに懺悔することにします。


 ギルドに行くと昼過ぎだからなのか、少し人が多くなってきています。

ベロンゴを10体討伐した報酬を頂きました。3500エリン! 

これなら愛用の剣を売る必要はないですね。

昨日マリーと一緒に戦った時は依頼を受けていなかったのが悔やまれます。

きっとかなりの報酬を期待出来たと思うんですけど…。


 「メルシャちゃん!」


 おぅっ!? いきなり声をかけられました。この声はすぐにわかります。ササナさんですね。


 「ササナさんこんにちは」


 「うん、こんにちは。挨拶はいいとして、拝むのはやめてほしいかなって…」


 あぁ、つい身体が勝手に。


 「タビコから聞いたけど、霧の丘に行ってたんだって? 

 メルシャちゃんのレベルだと大変じゃなかった?」

 

 そうササナさんは心配そうな顔で聞いてきます。

でもそこは心配しなくても大丈夫ですと胸を張って答えます。

一人じゃなかったですからね。あと女神さまに心配をかけてはいけません。


 「そう。それならよかったわ。そっか、パーティね。

 うんうんパーティを組んで戦うようになるとどんどん面白くなるから。

 今度私とも一緒にパーティを組んでほしいな。もちろんメルシャちゃんにあわせるから」

 

 それは嬉しいですね。いずれは魔神との戦いにササナさんを含め

神々の方達のお力添えは必要になると思います。

その時の為に連携をとれるようにする必要がありますね。頑張ります。


 あっ、そうだ。私はさきほどの門番さんとのやり取りを思い出します。

サンドイッチで高そうな指輪を貰った事の懺悔をします。

意図したことではないとはいえ、やっぱり罪悪感はかんじますからね。


 「えっ? 門番から指輪? そんなの初めて聞いたけど……それ初めて見るわね」


 ササナさんは私の持っている指輪を見て何やら調べています。


 「へぇ…門番の指輪ねぇ。

 初めて見たけど防御力小上昇、生命力小上昇の効果がついてるわね。

 メルシャちゃんくらいのレベルだったらかなり役に立つアイテムだと思うわ。

 指輪だからこの間のブレスレットとも同時に装備できるし。

 でもそんなクエストあったのね。全然知らなかったわ」


 なにやらしきりに感心されています。懺悔のつもりだったんですけど…

貰っても良いみたいな口ぶりですね。

ひょっとしたらあの門番さんは仮の姿で、実は裕福な商人の方なのかもしれません。

故郷の村には「迷った森の中ではラセムの実ひとつが金貨一枚の価値を持つ」という言葉があります。

きっとあの方にとってサンドイッチが金貨一枚にあたったのでしょう。

そう考えると気が楽になりますね。


 「そういえばメルシャちゃんは今からどこかにでかけるの?」


 ササナさんがそう聞いてきたので、私はこの町を色々と回ろうと思っていると伝えました。

途端に目を輝かせるササナさん。


 「それなら私が案内してあげるわ。案内ならレベル差も関係ないし、

 わからない事とかその都度聞いてもらえばいいし」

 

 それはありがたいですけど、女神さまに道案内なんてお願いしてもいいものでしょうか…。

少し考えましたけど、これは導きなのかもしれません。

神話でも様々な難関を女神さまの導きによって突破する英雄の姿があります。

つまり………英雄への第一歩をこの私が? 物語に書かれているような英雄に私が?

まさか故郷の村を出るときには思いもしませんでした。この私が英雄になるだなんて。

でも選ばれたからには憶するわけにはいかないですね。がんばります!



 



 (何このドヤ顔。すごく可愛いんだけど)



 ササナはキリッとした顔のメルシャを見て心の中で顔をフニャらせる。

メルシャは精一杯勇ましくいるつもりだったが、

若干頬が緩みそうになっている為、微妙にドヤ顔になっていた。


 (はぁ…膝の上にだっこしたい…)


 ササナはつい頭を撫でてしまいながら、いけない想像をしてしまう。

もうアリオンと同類といってもよかった。


 「それじゃあ町の中を見てまわろっか」


 「はい!」


 つい手をだしてしまうササナと、迷わず手を握るメルシャ。

連れだって歩く姿は姉妹というよりも親子にちかいかもしれない。


 「最初はどこに…」


 「ほぁぁぁ」


 メルシャが最初に来たのは、

よく売り子が立っていたり募集の時の集まる場所になったりする広場だった。

ちなみにゲームを開始すると、この広場の北にある聖堂からスタートする。

本来はそこでチュートリアルを受けてから

この広場を通って町の至る所に行けるようになる。

つまり普通のプレイヤーにとってはわざわざ案内する場所ではない。

なのでササナも案内するつもりではなく、通過する目的で広場に足を運んだのだがメルシャは違った。

町の入り口から繋がる大通りにギルドも宿もあった為、北に行くことが無かったのだ。

驚きの声をあげるメルシャ。ササナは本来ならその様子に疑問を持つところなのだが…


 (はぁ可愛い…)


 メルシャに関してはほぼ思考を放棄していた。


 広場の中央には噴水があったが、入ろうとするメルシャを制止する。

この姿で噴水に入るのは危険だった。

特にこれほど人が多いと、変態も多数紛れているだろう。

メルシャの艶姿を人目に晒すわけにはいかない。

変態の一人と化したササナはそう強く心に誓う。

もしササナしかいなければ止めることはなかっただろう。


 メルシャにしてみれば様々な売り子が立っている姿に、

新たなご馳走の気配を感じてワクワクが止まらない。

今はササナと一緒なので抑えているが、

今度一人の時にご馳走を探しに来ようと強く心に誓っていた。

次に案内したのは広場から東にある区画。



 「ここはNPCの店が並んでいるの。今は大抵の物が安くでプレイヤーから買えるから、

 あまりくることはないかもしれないわね。

 でも魔法を習得したりスキルを習得したりもできるから――」


 「魔法!? そのお店に行ってみたいです!」


 メルシャは食い気味に魔法の習得という言葉に反応する。それこそが求めていた店だった。


 「えっ? メルシャちゃん魔法職にも興味あるの? てっきり戦士系に行くのかと思っていたけど。

 でもエルフなら魔法戦士の適正もあるか…。うん、じゃあちょっと見てみようか」


 このゲームでは大きく分けて戦士系と魔法系に職が分かれている。

上位に行くにしたがって混合職の割合も増えていくが、

低レベルの間はどちらかに集中するのが定番となっていた。

ササナにしてみれば剣を装備しているメルシャは戦士系に進みたいのだろうと考えていた。


 (でもゲームを始めたばかりの時は色々なことをやってみたいものね。

 たしかに魔法なんて現実じゃ使えないんだし)


 現実でもバリバリ魔法を使うメルシャだったが、ササナはその事を知らない。

ササナはメルシャを伴って魔法の店ライブラへと入る。



 「ここが魔法を教えてくれるお店よ。基本魔法は誰でも覚えられるけど、

 それ以上のはメルシャちゃんにはまだ無理かな」



 戦士系にしても魔法系にしてもSPと呼ばれるポイントがある。

これはスキルや魔法を使用するのに必要となる。

スキル、魔法ともに基本スキル、基本魔法と呼ばれるものがあり、

これは職にかかわらず全てのプレイヤーが使用できる。ただそのぶん性能としては、

高レベルで取ることのできる専門性の高いものには劣る効果になっていた。


 たとえばスキルで「ランニング」というものがある。

VRMMOなのでプレイヤーが走れば走ることはできる。

ただ現実世界と違い、スタミナはキャラクターごとに違ってくる。

走るのが得意な人はある程度は速く走ることが出来ても

長距離マラソンを走れる人が長時間走り続けることはできない。

それをサポートするのがスキルの「ランニング」である。走る速度とスタミナを補強されることで、

このスキルを用いれば走るのが苦手な人でも速く長く走ることが可能となる。


 上位の職になると「高速移動」「駿足」「行軍号令」「瞬身」「風の加護」など

様々な移動速度を高めるスキルや魔法がある。

ただこれらは進んだ職によって入手が制限されてしまう。

そう言った意味では基本的なスキルや魔法も重要なものといえた。

ただ基本のスキル、魔法といっても習得する為の費用はそう安くはない。


 「さ、さ…」


 メルシャは習得可能一覧に表示されている値段を見て言葉を失う。

おそらくは三万エリンと言おうとして口をアワアワさせていた。


 (これらの習得の目安は20レベルくらいからだものね…。驚くのも無理はないか)


 メルシャの見ているマイホームという魔法。それは最後に立ち寄った町の入り口に戻るという

もっとも基本的な…しかし実用性の高い転移魔法といえた。

ササナが最初にメルシャに会ったのも、その魔法の直後だった。

その魔法の習得費は30000エリン。

それでも基本魔法の中では普通くらいの費用だったが、

メルシャにしてみれば見た事のない金額だ。


 「うっ…もっとお金を貯めないと…」


 そう呟いて肩を落とすメルシャ。

その姿を見てササナは可哀想とは思うものの、お金をあげたりはしなかった。

それではメルシャの為にはならないと思ったから。

レベルにしろ、お金にしろ少しずつ成長することがゲームの楽しさの醍醐味と考えていた。


 「メルシャちゃん気を落とさないで。少しずつ強くなればいいのよ。

 無理しても後々自分がきつくなるだけだから…ね?」


 ササナの言葉でメルシャも少し笑顔が戻る。


 「わかりました! いずれくる魔神との戦いの為にも、強くなって見せます!」


 ササナはウンウンと頷いて、若干ドヤ顔に戻ったメルシャの頭を撫でる。


 (それにしても…この間アップデートで実装されたばかりの

 万魔の魔神に挑みたいだなんて、やる気十分ね)



 それはまだ倒したことのあるクランがほんの一握りだけという最難関クエストのボス。

ササナ達のクランもいまだ倒したことのないほどの強さを誇る。

もちろんササナとメルシャの頭に思い描く魔神の姿は全く違っていたのは言うまでもなかった。





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