咲き誇る花々
私達は町の北東にある霧の丘と呼ばれる場所に向かっています。
私達というのは、私とマリーとアリオンさんの三人ですね。
マリーはアリオンさんの事を訝しげに見てましたけど、結局一緒に行くことに同意しました。
おかげでアリオンさんからご馳走を頂くことが出来ました。
その名もガトブレパスハンバーガー。
変わった形の料理でしたけど、味は最高でした。これならいくらでも食べられそうです。
残念ながら一つずつでしたけど…でも贅沢は言えませんね。
毒、石化、を無効化、防御力大幅上昇といってました。
特に変わった気はしませんけど、マリーが言うには「三つ星レアよ」とのことです。
「でも食べた瞬間消えるのがなんだか味気ないですわね。
データなので仕方ないんでしょうけど」
そうマリーは言ってました。やっぱりマリーも一つじゃ足りなかったのかもしれません。
アリオンさんにねだる視線をむけましたけど、駄目でした。
どうやらなけなしの二個だったそうです。
アリオンさんはお昼抜きなんですね。申し訳ないです。
「今から行く場所は低レベルの時には結構美味しい場所だから覚えておくといいよ。
パーティで林に行くなら17レベルくらいはあると安心だから、それまでは霧の丘が丁度いいんだ」
「わたくしは今10ですからしばらくはその場所がよさそうですわね。
メルシャもおなじくらいなのでしょう?」
…アリオンさんに今度はどんな料理を作ってもらいましょうか…。
正直この町は美味しいものが多すぎる気がします。
もうこの町から旅立てなくなったらどうすれば…。
「ちょっと、メルシャ! 聞いてるんですの?」
「あっ、へっ? どうしましたマリー」
「もうどうしましたじゃありませんわ。だいたいわたくしと同じくらいなのでしょう?」
「あっ、そうですね。同じくらいだと思います」
だいたい同じくらいの背の高さですよね。
でも身長なんて見たらだいたいわかると思うんですけど。
「それなら林に行く時も一緒に行けそうですわね。ふふっ、楽しみですわ」
うん…うん? 身長と林に何の関係が…。
ただ一人で行くのは怖かったので、二人ならちょっと安心ですね。
私の剣とマリーの魔法があれば、バランス良く戦えると思います。
さて…うっすらと霧が立ち込めてきました。どうやらここからが霧の丘のようです。
「ここは30レベルくらいのクエストで来る場所なんだけど、
出てくる敵は低レベルの魔物なんだ。
一番高いのでも15レベルだけど、そいつは一体でしかでないから苦戦はしないと思う」
「岩場と林のちょうど真ん中といったところですわね。でもそれが穴場なんですの?」
「ああ。ここは一見すると敵が強そうって見えるだろ。だから低レベルの内は普通こない。
クエストで来た時に初めて敵が強くないってわかる奴も多いんだ。
あと前は攻略サイトなんかにも穴場で紹介されてたけど、
今はさっさとパーティ組んで林に行ってレベルを上げるのを推奨されてるからね」
「それじゃあわたくし達も林に行った方がいいんじゃなくて?」
「レベルだけならね。でもここは後々クエストに必要なアイテムも
同時にドロップで集めることが出来る。
しかも林の敵よりも経験値は低いけど、倒しやすい敵が多いんだ。
セカンドやサードで効率よくってわけじゃなく、
慣れながらレベルを上げるなら正真正銘の穴場なのさ」
「ふーん。結構わたくし達のことを考えてくださっているのね。
てっきり可憐なわたくし達に近づきたいだけなのかと思っていましたわ」
「そ、そんなことはないぜ。これっぽっちも」
「……そう言う事にしておきますわ。それじゃあメルシャ、
いよいよわたくし達のパーティの初戦ですわ。はりきっていきますわよ!」
あっ、ようやく話が終わったようです。
最初は頑張って聞こうと思ってたんですけど、
よくわからない言葉が多くて聞いてるふりをしていました。
人間の町にいると世渡りがうまくなるらしいと故郷の村で聞かされました。
こうやって都会に染まっていくんだそうです。でも神罰だけはやめてほしいです。
聞く努力はしたので許してほしいですね。
アリオンさんは危なくなったら手助けするよといって後方に下がられました。
やはり神々が直接手を下すのはまずいのでしょう。
ですが見守っていただけるなら心強いですね。
マリーは魔法で戦うので、私が前衛に立つ必要がありますね。
愛用のショートソードを抜いて構えます。
…あれ? マリーも細い剣を持っていますね。魔法で戦うんじゃないんでしょうか?
「わたくしは吸血鬼ですから。前衛後衛どちらもこなすことができますわ」
……吸血鬼? 吸血鬼!!?
「血…血を吸う…!?」
話でしか聞いたことありませんけど、
吸血鬼とは人間の血を吸って仲間を増やす魔族なんだそうです。
血を吸われた上に魔物にされるなんて恐ろしいと思っていましたけど、まさかマリーが…!?
「いやですわ。血なんて吸うわけありません。
種族としては吸血鬼ですけど、そんな能力ありませんもの。
近い能力でドレインライフとドレインマナがありますけど、別に噛みついたりしませんわ」
……血を吸わない? はっ! そういえばマリーは天上の住人です。
吸血鬼は魔族です。お互い敵対しているはず。
つまりマリーは吸血鬼でありながら血を吸わない事で天上の住人になられたんじゃ…。
きっと並大抵の努力では血の渇きには抗えなかったと思います。
こんなに下界の人間と親しくなろうとしているマリーなんですから、
血の滲むような努力をしてきたに違いありません。
尊い…尊いですマリー。
「…どうして拝まれているのかわかりませんけど、恥ずかしいからやめていただきたいですわ」
でもよく考えたら私は人間じゃなくてエルフなので、
どちらにしろ血は吸われなかったのかもしれません。
気にすることはなかったですね。
では気を取り直して戦闘に集中します。マリーは細い剣を構えて魔物を警戒します。
霧がかかっていますからね。それほど視界はよくありません。
ふむ…ここは私の風の精霊術で少し霧を晴らしましょうか。
周囲の精霊にお願いします。…伝わりました。そよ風が吹き霧を散らします。
「えっ…風? 気のせいかしら…」
マリーはどうして風が起こったのか気が付いていないようです。
精霊へのお願いは精神力で伝えていますからね。
早い話が心の中でお願いしています。
特に動作もないので、私が精霊術を使ったことに気が付いていないのかもしれません。
霧が少し晴れたので周囲にいた魔物の存在に気が付きます。
泥で出来た人形のような形。名前はわかりませんけど、動作は遅いですね。
たしかに戦いやすいと思います。
気合を込めて魔物に斬撃を放ちます。流石に一撃では無理ですね。
ベロンゴよりも強いでしょうから当然かもしれません。
でも今は一人じゃない。私に続いてマリーも細い剣を突き刺します。
二連続攻撃によって魔物が態勢を崩しました。
私は追い打ちをかけるように魔物を背中から斬りつけます。戦いとは非情なものなのです。
背中からの一撃が効いたのでしょう。その攻撃によって魔物が消滅します。
「へぇ、初めてのパーティなのに結構息があってるもんだなぁ」
アリオンさんから感心したと言葉をかけていただきました。
「ふっうふふっ…ほーっほほ。当然ですわ! わたくしとメルシャの前に敵はいませんわ!」
マリーが誇らしげに高笑いを上げます。でもマリーは魔神の怖ろしさをまだ知りません。
あの絶望に勝てる気はまだしないですね。
「それにしてもメルシャちゃん、バックスタブを決めるのが上手いな。
アサシン系に進むのが戦闘スタイルに合ってるかもしれない」
アリオンさんの言葉がよくわからないですけど、
アサシンというのはたしか人殺しを仕事にする人じゃなかったでしたっけ?
えっ…それが似合うって…喜んでも良いんでしょうか? マリーも流石ですわね何て言ってます。
……あっ、もしかして魔物限定のアサシンというやつでは? それなら話もわかりますね。
「でもまだ先を決めるのを急ぐ必要はないか。
レベル30で第一次職試練があるから、その時までに決めればいいんだし」
「そうですわね。わたくしは魔法戦士系に行こうと思ってますけど、幾つか迷う職もありますし」
…よくわからないですけど、就職先を決めるということでしょうか?
私は旅をしながらになりますから、定住するような仕事にはつけそうにないですね。
できれば美味しいものを食べられる仕事がしたいです。
「それにはもっともっと経験を積む必要がありますわね。さぁどんどん行くわよメルシャ!」
マリーの気合が最高潮まで高まりました。私も負けていられませんね。
――アリオン――
「いい…」
おっと思わず言葉に出してしまった。
メルシャちゃんとマリーちゃんの二人が一生懸命魔物と戦っている姿を見守っているわけだが…
なんだろう…戦い方は拙いんだけど華があるというか…。眼福だ。インしてよかった。
ガトブレパスバーガー二つなんて安いもんだ。
チラチラと見える健康的な肌も最高だ。
最初はマリーちゃんに警戒されていたけど、
俺が変な奴じゃないとわかってくれたのか普通に会話してくれる。
最初は不審者を見るように冷たい視線だったからな。
いや…それはそれで悪くはないんだが…。
狩りは順調のようだ。たしかにマリーちゃんが言うように息があっている。
メルシャちゃんは戦士系というよりもレンジャー系に近い戦い方だ。
素早い動きから相手の隙を突くように攻撃を繰り出す。
相手の死角をとるのも上手い。初心者プレイヤーだとは思うけど、
何かリアルではスポーツをしていたのかもしれない。
いや、年齢的に今も部活か何かでしているのかもしれないな。
マリーちゃんは扱いにくいレイピアを問題なく使えている。
フォームもやけに様になっているというか…。
ひょっとして本当にお嬢様だったりして。
最初はロールしてるのかと思ったけど、やけに自然体だしな。
……ハーフ(っぽい)美少女に本当のお嬢様の二人組…。
やべぇな…その二人から信頼を寄せられているイケメン(俺)。
「これは物語が動き出す…そんな予感をさせられるな」
「へぇ…その物語…どんなのか聞かせて欲しいな」
……ん? 聞き慣れた声。俺が振り向くとそこにはちっこい姿…。
「楽しそうだね、アリオン」
にっこりと笑顔を浮かべたタビコの姿。なぜここが!?
「メルシャちゃんに挨拶のメッセージ送ったら
今アリオンと一緒に霧の丘にいるって聞いたものだから心配になってね。
うん、来てよかったよ。変態の毒牙にかかるところだったからね」
へ? 見るとこちらに気が付いたのかメルシャちゃんが手を振っている。
「いや、それは誤解だぞ。俺は二人の成長を見守っていただけであって、
何もやましいところはない。そう、これっぽっちもだ」
……。タビコが何かを表示した。フォトだな。
写真をとるように場面場面を映して保存することが出来る。
しまった、俺もメルシャちゃんとマリーちゃんの雄姿を保存しておけばよかった。
それはいいとして、映っていたのはやけに情けなく表情の崩れた男だ。
なんだこのヘニャヘニャした顔は。
「これさっきまで二人を見ていたアリオンの顔ね。記念にフォトしておきました」
は? まさか…これが俺なんてこと…あっ装備が俺と一緒だ。……え? 俺こんな顔してたの?
夜道に子供の前にこの顔で現れたら即通報されそうなんだけど…。
「変態って自覚がないみたいですよ。アリオンも気をつけないといけないですね」
そう言った笑顔のタビコだが、長い付き合いだからわかる。目が笑っていない事に…。
メルシャちゃんとマリーちゃんの戦いを横目に、
俺もまた厳しい戦いを強いられることになった。勝ち目のない戦いを…。




