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知恵の神と温泉と


 ふふっ、私は手の中にあるメダルを見ます。

つい顔が嬉しさのあまりふにゃりとしてしまいます。

このメダルがクランに入ったという証とのことです。

これを使えば天上の間にいつでも入ることが出来ます。

驚いたことに天上の間は町の中ならどこからでも行くことが出来るんだそうです。

天上の間限定ではありますけど、思わぬところで転移の魔法を使えるようになりました。


 いつでも自由に入っていいとのことですけど、恐れ多いので泊るのは宿にしておきます。

宿は食事も美味しいですし…。温泉にはまだ入っていませんけど楽しみですね。

名前からして温かい泉のようです。


 あとササナさんからは林に一人で行くのはもう少し強くなってからと念を押されました。

どうしても行く用事がある時は呼んでとのことです。

今のところは泉に行く必要もなくなったので問題ないですね。

でも強くなりたいなぁとは思います。

剣の腕は自信があったんですけど、まだまだ未熟なことを思い知らされました。

魔神が最終目標ですけど、その前にあの芋虫ですね。リベンジする必要があります。


 ふぅ…今日は色々あって疲れました。ぐっすりと眠れそうです。




 


 「ふむ…流石に上位クランはもう見つけてますね」


 リリーフはクランハウスで情報掲示板を見ながら呟く。

いまクランハウスはリリーフ一人だけが残っていた。

ゲームの中からでも外部のネットを検索することが出来る。

それを利用して、今回のイベントの情報を集めていた。


 「それでも最高で15個ほどみたいですね…。

 メルシャさんのおかげでかなりリードできているようです」


 人数差があるためやがては追い抜かれるだろうが、

それでもスタートダッシュ出来たのは大きい。

珍しく今回のイベントは上位に入れそうだと考える。

実際このクランはイベントを勝つ為というよりも、

メンバーで楽しむというほうに比重をおいてある。

その為勝ちに行くタイプのメンバーが抜けていったが、

リリーフを含めメンバー全員が今の環境に概ね満足していた。


 ある程度情報を取得すると情報掲示板を閉じる。時刻はもう23:00を過ぎている。


 「そろそろ僕も落ちるとしましょうか。…ん?」



 リリーフは誰かがクランハウスに入って来たのに気が付く。

玄関に目を向けると小柄な人影…メルシャだった。


 「おや、メルシャさん。こんな遅くにどうしました?」


 メルシャは恐る恐るといった様子でクランハウスを見回していたが、

リリーフの姿に気が付くとホッとしたように笑顔を浮かべる。


 (アリオンではないですけど、たしかに気持ちはわかりますね)


 メルシャは正直言って美少女だ。その顔だちは日本人離れしている。

おそらくは高校に入ったばかりか…中学生にも見えなくはない。

このクランの女性陣はタイプこそ違えど皆クランの内外問わず男性プレイヤーから注目されている。

ササナは凛とした知的美人。タビコは小柄で愛くるしい妹的な美少女。

アンズはおっとり系の美少女だがその豊かなバストからもっとも男性陣の視線を集めている。

他のクランからは時折羨ましがる声が聞こえるほど。


 メルシャは体格的にはタビコと似ているが、顔つきは他の誰とも違う。

映画などで見るエルフ役がそのまま抜け出てきたというか、

もしエルフが本当にいたらこんな容姿なのだろうと思えるほど似合っていた。

本当のエルフなのだから当然といえば当然だったが。


 メルシャはリリーフの近くまで来ると、少しためらった後に言葉を放つ。


 「あの…温泉はいってもいいですか?」


 メルシャは眠りに落ちた後すぐに目を覚ました。

よく考えたら水浴びに行こうとしてそのままだったことに気が付いたのだ。

温泉というものに興味があったのと、

転移がしてみたくてウズウズしたメルシャは我慢できずに

クランハウスにやって来たのだった。

転移してからふと気が付く。もし魔神と二人だけになったらどうしようと…。

その無駄な心配は杞憂に終わったが。


 「温泉ですか? もちろん大丈夫ですけど」


 そう答えながら、こんな時間に? と頭の中で疑問符を浮かべるリリーフ。

年齢的にもう寝ていてもおかしくない時間だろう。

こんな時間までゲームに接続しても親は何も言わないのだろうか。


 (まぁ家庭のことまで僕が言う事はないですね。それこそプライベートなことだし)


 そう考えて特に何も言わない事にした。

 

 「温泉はその角の左の扉、赤いマークのついているところです。

 常にお湯が溜まっていますから好きに入ってください」


 「ありがとうございます!」


 「では僕は落ちますから、ゆっくりされてくださいね」


 温泉はあくまでインテリアでしかない。入っても食事と違いステータスに上昇効果はつかない。

それでも感覚としては温泉に入るのと近い状態になれるので、好む人は多い。

このクランでは一番好んで入るのは意外なことにハウルだったが。


 (あれ? 装備はもっているのかな?)


 トコトコと駆けていくメルシャの後ろ姿を見ながら、リリーフはふと考える。

このゲームは裸になれないので、必然的に温泉に入るのに適した装備が絞られる。

もっとも多く着られているのは水着だった。

ゲーム内で屈指の露出を見せる水着は温泉に限らず、海辺や湖でもよく使われる。

男性陣にとって大好評であり、女性陣にとってもゲームのキャラということで

普段より大胆になることが出来た。

水着以外にも露出の高い装備はいくつかあるが、レアドロップなどで入手は難しい。

水着にしてもこのゲームではお洒落装備に分類されている為、流通している値段は高めだ。

とてもメルシャのような初心者が入手しているとは思えない。


 (ひょっとしたら下着で? っ…おもわず想像してしまいました。

 これではアリオンの事を茶化せないですね)


 装備をまったくしない状態になると水着に近い下着状態になる。

ただ濡れないとわかっていても下着で水に浸かる事に抵抗感を感じる者は多い。

これはVRMMO独自の感覚といえた。


 (服のまま入るよりは抵抗感がないとはいえ…やはり水着くらいはないと困るでしょうね。

 ……メルシャさんに水着をプレゼントしたいなんていったら、

 クランメンバーから冷たい視線が飛んできそうです。

 それとなくササナさんに伝えるにとどめておくことにしましょうか)


 ドアの向こうに消えていくメルシャの姿を見送って、リリーフはクランハウスを後にした。



 メルシャは一切の迷いなく下着まで脱ぎ捨てると生まれて初めての温泉に入る。

感動と驚きで大声ではしゃぐメルシャ。その声を聞いているものは誰もいなかった。




 

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