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23オブザデッド


 69人+1人+1アンデッドは、玉座の間に集まる。


 いよいよ、このときがやってきたのだ。


 闇を紡いだような衣を着たその者は、悠然と足を組んでこちらを見下ろしていた。


『よくぞここまでやってきた。まずは褒めてやろうではないか』


 とてつもないラスボスムーヴ……!


 その迫力に、風もないのに玉座の間では焼け焦げた王国の旗がはためいていた。


 殿下は言うべき言葉を告げるため、前に歩み出る。


「ネクロマンサー。あなたがわたしから奪ったすべてを、返してもらうよ」

『フ、矮小な人間が、我に歯向かうか……愚かな……』

「たくさんの犠牲を出しながら、ここまで這うようにしてやってきたんだ。どんな困難だって、仲間と一緒なら乗り越えられる! それを今ここで、あなたに叩きつけて証明してみせる!」

『一瞬の命にしがみついてどうするというのだ? 人間などたかが50年足らずしか生きれぬ小さな者だろう』


 それでも、と殿下は腕を振る。


「わたしたちは未来に向かって進んでいるんだ! 命を繋いで、そして受け渡すために走ってゆく! その生が無駄だなんて、誰にも言わせない! 言わせるもんか! どんなに短い命だって、懸命に生きる人のことを馬鹿になんてさせないよ!」


 フ、とネクロマンサーが冷笑する。


『そうだな、人間はいつでもそのようなことを言う。己の短い生ではそれがいかに愚かなことかも理解が及ばないのだろう。哀れな生き物め。ならばせめて我が手で冥土に送ってやろうではないか』

「あなたの好きにはさせません!」


 と、フェフィーナが前に出た途端、ネクロマンサーは「ええー!?」と叫んだ。


「フェ、フェフィーナちゃん、どうしてそこにいるの!?」

「わたくしはもうあなたにはついていけません! 殿下とともに、この王国を奪還するのです!」

「だ、だってそんな、フェフィーナちゃん、僕のことを愛しているんじゃないの!?」


 先ほどまでの威厳は霧散していた。そこに残るのは、小太りで(以下略)(作者に許可を取っています)な男だけだった。


 ネクロマンサーはわたわたと慌てながら。


「だって、僕の花嫁ちゃんになってくれるって言ってたじゃん!」

「あれは脅されていたからに決まっているじゃないですか……。そんなのムリですよ、冷静に考えて……。気持ち悪いですし……」

「うそおおおおおおおおおお!


 ネクロマンサーは狼狽した。そこにフェフィーナは本当に嫌いなものを見下げ果てる目つきで睨む。


「だいたい、お兄ちゃんって呼んでとか僕の考えた萌え萌えキュンなセリフを言ってよとか、そういうの本当にやめてほしかったっていうか……。そもそも、わたくしに『僕の代わりにオフ会行ってもらうとき用だよ!』って鹿角フェフを名乗らせたのだって本当に本当に嫌だったんです……」

「うわーん! そんなことまで言わなくていいじゃんー! フェフィーナちゃんのばかー!」


『……』


 つまり。


 殿下はあまりのアレさに一歩引きながら、指を突きつける。


「お、お前が本当の鹿角フェフ……悪の魔術師、鹿角フェフか!」

「うう、ぐすぐす……そうだよ……」


 泣きべそをかく男は、しかし黒幕としての本分を思い出したのか、腰に手を当てて胸を張った。


「いいだろう、愚かな人間よ。我が引導を渡してくれようではないか!」

「もう取り繕ったところで威厳は戻らないよ!」


 殿下の叫びを聞こえていないフリしながら、男は高々と杖を掲げた。その先端にはアトゥちゃん命!と書かれている。


 ネクロマンサーは指を鳴らす。


 すると地中から、倒したはずの四天王が再び現れた。そこには初めて見る四天王もひとり混ざっていた。


「ほらほら、フェフィーナちゃんも、こっちに~」

「うううう、召喚主に逆らうことができません……こんな、悔しい……っ」


 さらなる絶望を、ネクロマンサーは告げてくる。


「さあかかってくるがいい! でも僕のヒットポイントは8兆あるからね! 君たちの腕力で3ダメージとか、知力で8ダメージとか与えてきても無駄無駄なんだよん!」


 四天王8人だけでもつらいのに、さらにラスボスがそこまで強いとは。これはぶっちゃけ全滅イベントで、ここで死んでも物語は進むのではないだろうか。殿下は一瞬そんなことを考えるが、しかし待ってほしい。


 もう23話だ。あとエピローグ一話だけしかないのだ。そんなわけがない!


「ああもう、どうすればいいんだよう!」

「秘宝ですっ!」


 フェフィーナが叫ぶ。


「秘宝を、放ってください! それさえあれば、ネクロマンサーを滅ぼせるはずです!」

「む、秘宝?@w@;」


 やらせないとばかりに、ネクロマンサーは玉座の間から杖を突きつけてくる。


「しんじゃえー!」


 地面を突き出して、無数の触手が伸びてくる。その触手は一撃一撃が人間を2兆回殺せるぐらいの破壊力を秘めている。もうダメだ!


 しかし──。


「──イージスの盾! 発動!」


 殿下が受け継いだイージスの盾を構えると、全員を守るように巨大な半円状のドームが展開された。幾何学模様のように浮かび上がる紋章はかつてどこかで見た──そうだ、これはフェフィーナの王国の紋章だ。


 イージスの盾の効果は、あらゆるダメージをゼロにする。2兆ダメージ与える触手が2兆本襲いかかろうとも、それはすべてが無駄だ!


「でもでも、守っているだけじゃ僕には勝てないよ!」


 前に歩み出てきた男は、ヘゾ爺だ。光り輝く槍を、彼は生き残りの中で最も腕力の高い人物に渡す。


 それは魔法剣士(自称)のるかっちだ。おっぱいの大きい脳筋魔法剣士(自称)。知力が無いので魔法は使えない。特に学生ではないが、着ているセーラー服のスカートはきっちり膝丈。黒タイツ。その彼女は軽く助走をつけると、神槍グングニルを投擲した──。


「──グングニル! いっけー!」


 イージスの盾を突き破り、神槍はまっすぐにネクロマンサーの腹を貫く。それだけではない。神槍に宿った神気がネクロマンサーを包み込み、何重にもその魂を束縛してゆく。空中に固定されたネクロマンサーはその魔力大半を打ち消されていった。


 凄まじい光景だ。8兆あるネクロマンサーが一瞬で0になってゆく。だが──。


「こ、これだけじゃ僕は殺せないよ! 僕の肉体は魔なる力によって守られてるからね! 聖剣でもない限り、トドメは刺せないんだよ! ほら、いけ! 四天王! 僕の代わりにあいつらを殺すんだ! さあ!」


 わめきたてるネクロマンサーの声に従い、四天王は動き出す。


 もうなにひとつ秘宝が残っていない状態で四天王とまともに戦えるはずがない。69人はここで討ち死にか──と思ったその直後だ。


 唯一見たことのなかった四天王、名前長き魔術師、上柱国使持節六国諸軍事開府儀同三司都督侍衛親軍馬歩軍都指揮使同志アーノルドがフェフィーナの下にひざまずいた。


「姫、お体を心配しておりました。何事もなく壮健でおりましたか?」

「ふふ、アーノルド……。わたくしももう死んでしまった身よ。元気なはずがないでしょう?」

「ああ、そうでしたね……。ですが、そのお顔を見れただけで、私どもは満足です」


 見やれば、同じように七人の四天王たちはひざまずいていた。


 皆が姫に、無限の敬愛の念を抱いているのがわかる。


「姫、どうか穏やかに」


 深き地の底の魔術師が頭を垂れる。


「姫、どうか安らかに」


 昏き豆の魔術師が頭を垂れる。


「姫、どうか麗らかに」


 淳なる平の魔術師が頭を垂れる。


「姫、どうか清らかに」


 悪なる焔の魔術師が頭を垂れる。


「姫、どうか健やかに」


 焼肉の伝道師の魔術師が頭を垂れる。


「姫、どうか華やかに」


 switch買った魔術師が頭を垂れる。


 そして──。


 長き名前の魔術師が、頭を垂れた。


「姫、どうかいついかなるときも、晴れやかに──我ら七王魔術師は、ただそれだけをお祈り申し上げております」


 フェフィーナは手をかざす。


「そなたたちの真なりし忠節に無限の感謝を」


 にこりと笑いながら。


「それではまた、輪廻の彼方にて、お会いいたしましょう。そのときはこのような腐り落ちた体ではなく──再び、人間として」


 その言葉を最後に、七王魔術師の体は弾けた。光の粒となり、それは踊るように姫の回りを輝かせた後。


 光失った聖剣──エクスカリバーの下へと吸い込まれた。


 流れ込まれるおびただしいほどの魔力。直後、まるで引き抜いたばかりのように、剣身が光を発する。


 無限の輝き。まるで忠臣が主人を仰ぎ見るときのような。


「ばかな!」


 ネクロマンサーは目を見開いた。


「まさか、それは! やめろ、それだけは! 僕はまだまだ生きていたいんだ! マイノグーラの更新だって──」


 その叫びは最後まで発することなく。


 フェフィーナが腕を払う。


 69人+殿下は、ともに柄を握りしめ、エクスカリバーを振り下ろす。


『エクス、カリバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ!」




 こうして、悪のネクロマンサーは滅び──。


 王国を覆っていた暗雲からは、一筋の光が差し込んだ。



「やった! ねえ、フェフィーナ──」


 と、殿下が振り向いたそこには、


「あ……」


 もう、その姿はなく。


 しかし、確かに彼女がいたと思えるような、微笑みの残光が風とともにそよいでいたのだ。


 殿下はギュッと拳を握りしめる。


「うん……うん」


 数百年前から続く因縁はこうして、断ち切られたのだ。




 王国軍の完全勝利だ!!



 次回、エピローグ

(69人分書きます)


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