16オブザデッド
本隊と遊撃隊は、途中から違う経路を辿る。しかし、進むべき道は同じだと彼らは信じているのだ。
平原での戦いを終え、共に苦難を乗り越え洞窟を抜け、創造神を打ち倒した絆は、もはやMAX。たとえ生まれた日は違っていても、死ぬ日は同じだ。
ちなみにここまで名前が出ていない人も安心してほしい。まだ半分近くの人も名前は出ていない。もしこのまま一話10人ペースで最終話まで進んだ場合、名前が出ないままクリアーしてしまう人が100人近く出るため、それだけは避けるためにがんばるのだ!
ひとりでも多く殺すために、がんばるのだ!
だんだんとこの物語の黒幕はわたし自身だったのかもしれない……という気分になってきたが、そういうオチではないので安心してほしい。黒幕は別にちゃんといます。
道中はやはりゾンビだらけで、一同は目立たないように進む。目立たないと言っても170人ぐらいの軍隊なので目立たないわけがないんだが、そこはなんとなかなった。魔術師は案外ポンコツなのだろうか。
あるいはもうとっくに補足されているか、だ。
毒の沼でダメージを負ったり、ゾンビやスケルトン相手に手傷を負ったりはしていたが、しかし創造神を倒して8万レベルぐらい一気にあがった王国軍の勢いは止まらない。
もうゾンビやスケルトンなんてザコ敵は、睨むだけで死んでゆく勢いだ。もう死んでるけどね!
一同がまとめて王国城都の正門までたどり着いた時、そこにはふたりの人物が立っていた。
どちらも魔術師。それもかなり高位の使い手だ。ではやはり、彼らは──。
「淳なる平の魔術師、淳平だ」
「……悪なる焔の魔術師、まお」
そして声を揃え、杖を掲げる。
『──我ら四天王がひとり、故あってここから先は通さぬ』
あの凄まじく強かった四天王が、同時にふたりも。
先程までなら絶望せずにはいられないほどの大ピンチだが、しかしそれは裏を返せば虎の子の四天王をふたりまとめて出さなければならないほどに、相手が追い詰められているということだ。
そこで武装車椅子に乗った探偵の、水野一時が四天王たちを指差し、告げる。
「いいだろう。だが、通してもらうぞ。本隊! さあゆけ!」
「いかせるわけには──」
淳なる平の魔術師が魔法を放つも、遊撃隊のひとりだった作家を追跡中に迷い込んだ担当編集者がそれを弾く。
「ここは我々に任せて! 早く!」
「っ、すまない、頼んだよ!」
頭を下げながら本隊は百人ほどぞろぞろと横を抜けてゆく。
「もはや遊撃隊というよりは足止め部隊か」
「……いえ、無駄死に部隊でしょ」
四天王の冷笑を、しかし集まった60人の勇者たちは相手にすることなどなかった。
なぜなら彼らは、自分たちの命の上に、新たな未来が息づくであろうことを知っているからだ。
自分たちは無駄な犠牲になるのではなく、その先には子どもたちが笑っているような、明るい未来が待っているからだ。
もちろんそれは皆、殿下を信じているからこそ。
さあ、ふたりの四天王対、残った60人の遊撃部隊との戦いが始まる。
秘宝は本隊が持っていったため、一発逆転の手段などはない。
ただ愚直に、けれども懸命に──その剣を、四天王の胸に届かせるのみだ。
やまおとこのやまもとは、モンスターボールからパラセクトを呼び出した。けれどそれは炎四倍攻撃。悪なる焔の魔術師に焼かれてモンスターごと灰になる。
カスミカ・クモカは洞窟の地縛霊で、実は洞窟パートで出し忘れていたのだけど、まあなんだかんだ王国まで来てしまったので、もはや地縛霊ではなくなってしまい、アイデンティティを失って存在消失した。
髪結師のあさぎのは淳なる平の魔術師の髪を鮮やかに結い上げ、そして反撃を食らって死亡した。
美食家であるヒコマロは、その場でお弁当箱を広げて「味の宝石箱やぁ~」とかなんとか言っている間に、自分自身がおいしく焼かれてしまった。
作家を追跡中に迷い込んだ担当編集者は善戦していたものの、職業が迷子だったため、いつしかここではないどこかの宇宙の果てに迷い込み、そしてブラックホールに引きずり込まれて亡き者になった。
テイマーのもかちゃんは5ちゃいだが、おじいちゃんを武器として連れている。おじいちゃんを振り回し、おじいちゃんで何度も悪なる焔の魔術師を殴りつけたが、最終的におじいちゃんが壊れて動かなくなってしまって武器のなくなったもかちゃん共々焼かれてしまった。
さらにアビィ、アビィだ……。
魔女っ子のアビィは、ええと、もう、あれだよ。ラヴィニアと幸せになりました。彼女たちは末永く、海の見える丘の上に一軒家を立てて、昼はクジラを眺めて、夜は星々を見上げ。
そして、いつまでもいつまでも、仲睦まじく幸せに暮らしたとさ。
めでたしめでたし。
戦いは続く──。




