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お荷物令嬢は覚醒して王国の民を守りたい!【WEB版】  作者: 暮田呉子
3.囚われの王子と導きの女神

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番外編「異国の冒険者と王国の騎士」中編

 翌日、ライアンはギルドが用意した乗合馬車に乗った。

 集合場所には最初に声を掛けた赤茶色髪の男もいた。冒険者達は皆、服から出た体の至るところに傷跡が残ったままになっている。それは女性の冒険者も同じだった。

 ライアンは話し好きそうな年配の冒険者に狙いをつけ、王国についてさらに詳しく話を聞くことにした。

 揺れる馬車の中、年配の冒険者の隣に座ったライアンは色々語ってくれた彼の話に耳を傾けた。

 王国を創った神のこと、無効化を持つ王族のこと、一族の長である四大公爵のこと、王国騎士団のこと、魔法や魔道具など、目的地まで半日かかる道のりの中で、大半のことは聞けたと思う。

 とくに魔法の属性については先に知っておいて良かったと安堵した。

 エルメイト王国の民は魔力を持って生まれても、使える属性はたった一つしかないと教えられた。誰がどの属性なのかは、髪色や瞳の色を見ればだいたい分かるらしい。因みに、ライアンが異国出身だということはすぐにバレてしまうようだ。

 だが、ライアンが本当に隠さなければいけないことが別にあった。ライアンはこの国に存在する四つの属性を持っていた。加えて、今は使えなくなっているが光の属性も使えた。つまりライアンは五重属性の持ち主なのだ。そんなことを軽々しく口走っていたら大変なことになっていた。ここでは二重属性でも伝説扱いになってしまうらしい。

 薄い水色の髪をした年配の冒険者から「何の魔法が使えるんだ?」と訊ねられ、咄嗟に「……水魔法だな」と答えてしまったが、彼の前では水魔法しか使えなくなってしまった。

 そんな話を続けていると、馬車が目的地に到着した。栄えた港とは違い、山間の村はひっそりとしていた。木造建ての平屋は魔物の襲撃を受けて、多くの家屋が灰燼に帰してしまっている。

 しかし、村の奥に到着すると立派な天幕が一面に設営されていた。とくに目を引いたのは、中央に張られた王国の紋章が入った天幕だ。

 その時、山の方から爆発音が聞こえて一斉に音のした方へ振り向いた。ライアンも気になって注視すると、爆発がした所から白い煙が立ち上っているのが見えた。すでに魔物の討伐が始まっているのだろう。

 一度は足を止めるも、集合の声が掛かって冒険者たちは一ヶ所に集まった。


「説明した通り、魔物の群れがこの村を襲った。偶然にも近くの視察に訪れていた国王夫妻が騎士団と共にこの地に留まり、連れてきた騎士達で魔物の討伐に当たってくれている。総指揮は王妃様が取られているが、予想より魔物の数が多い!」


 昨日の説明には参加していなかったライアンは、ギルド長と思われる大柄な男の話に耳を向けていたが、信じられないものでも聞いたような顔で声を上げていた。


「王妃様だって……? この国の王族は魔物とも戦うのか?」

「魔物がいれば当たり前じゃろーが」


 馬車の中でもずっと話し相手になってくれた年配の冒険者に思わず訊ねてしまったが、当然だと言わんばかりの答えに目が点になってしまった。

 ──当たり前だって?

 大陸を渡って様々な国を見てきたが、国のトップが自ら危険な地に足を運ぶことはなかった。だからこそ騎士や冒険者、兵隊や傭兵が存在するのだ。命令一つでどうにでもなるだろう。名誉や富で動く者も沢山いる。

 それなのに、国王夫妻が近くに居合わせたというだけで魔物の討伐に加わったというのか。それも王妃自ら指揮に当たるなど正気の沙汰ではない。

 王族とは民を導かなければいけない存在だ。彼らがいるからこそ国が成り立っているのだから。


「何かあった時、どうするつもりなんだ?」

「……それは俺たちが口出し出来るようなもんじゃないさ。国王様が視察のたびに騎士団を連れてきて魔物の討伐を行ってくださる。魔物と戦えない負い目を感じているのか分からんが、立派なお方だよ。金だけ払って他の者に討伐を任せている臆病な貴族様とは大違いさ」

「負い目……」

「なあに、心配はいらんよ。王妃様は我々と比べ物にならんほどの魔力を持っておる。それに王国の騎士がしっかり守ってくれるはずさ」


 魔物と戦えないことで「負い目」を感じる王族が、本当にいるのだろうか。

 とても権力者とは思えない行動に、ライアンは半信半疑だったが、目の前に広がる光景を目の当たりにした時、疑いは跡形もなく消え去ることになった。



 ギルド長の話から、魔物の大群は村から山に追いやることは出来たが、王妃率いる騎士団は苦戦を強いられていた。負傷者も多いと聞く。

 それでも人里から魔物を遠ざけることは出来た。勿論、山にはまだ十数頭の魔物が残っているため、その残党狩りを冒険者が行うことになった。魔物の気配を辿って倒していくのには数日かかるだろう。

 その前に負傷した騎士を天幕に運び、周辺の警備を交代で任された。


「王妃はまだか!?」


 遠くまで響く声に、警備に当たっていたライアンは弾かれたように振り返った。そこに白金色の髪をした男が、騎士に向かって叫んでいた。その見た目と上質な服装、それから周りにいる騎士の態度で男がこの王国の国王陛下だということが分かった。

 まさか、こんな場所で他国の国王を間近で見られる機会が訪れるとは。エルメイトという国は不思議な場所だ。


「陛下、フレイア王妃様がお戻りになりました!」


 馬に乗って森から現れたのは濃い緑色の髪を靡かせた美女だった。顔や服が汚れていても、それを全く感じさせないほどの気品に溢れ、大陸を渡って様々な女性を見てきたライアンですら見惚れてしまったほどだ。

 だが、気丈に振る舞っていても、王妃の魔力はほぼ尽きかけていた。あんな状態になるまで戦ってきたというのか。民を導かなければいけない国母が。

 それだけじゃない。次から次に運ばれてくる青い団服を着た騎士達も、酷い怪我を負っていた。中には、二度と剣を握ることは出来ないだろう騎士もいた。

 他の国であれば簡単に治る怪我も、ここでは致命的だ。

 ──これが、神から「祝福」を受けている国なのか。

 ライアンは国王に支えられる王妃や、治療を受ける多くの騎士達を眺めて唇を噛んだ。

 これではまるで、魔物と戦うだけの駒ではないか。魔法による治療も受けられないまま、命懸けで魔物に挑んでは儚く散っていく。

 エルメイト王国では「当たり前」のことが、ライアンには恐ろしく映った。

 長く冒険をしてきて、これほど身近に死を感じたのは初めてだった……。

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