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お荷物令嬢は覚醒して王国の民を守りたい!【WEB版】  作者: 暮田呉子
5.過去の栄光と新たな王女

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 覚醒した魔力が安定し、外見の問題も無くなり、すべてが元に戻ると思っていた。

 騎士団の病室に出勤して騎士たちの治癒を行い、上司や顔なじみの騎士と他愛のない話をして、以前と同じ毎日が過ぎていくのだと。

 しかし、ヘルミーナが変わったように、皆も同じというわけにはいかなかった。自分の知らないところですでに動き出していたのである。


「ヘルミーナ様、ご無事で……安心しました……っ」


 久しぶりに騎士団へ足を運ぶヘルミーナに、護衛としてやって来たのはパウロだった。

 彼は、会って間もなく声を震わせた。あふれ出しそうになる涙を腕で隠し、その場に立ち止まって喜びを噛みしめる姿に、こちらまで視界が滲んでしまう。 


「パウロさんたちのおかげです!」 


 パウロたちはカイザーの命令に従い、村に留まっていた第二騎士団を呼びに行ってくれた。

 報告を受けた第二騎士団はすぐに駆けつけ、おかげでそれ以上の被害が出ることもなく、ヘルミーナの存在が明るみになることもなかった。また、連れ去られて『魔喰い』に侵されていた村人も、全員無事に村へ帰されたという。

 あの時、誰もがそれぞれの立場で、それぞれの場所で、自分にできることを精一杯やっていたのだ。


「いいえ、私は……。お役に立てず、すみませんでした」

「皆が最善を尽くした──それでは駄目ですか?」


 生きて会えたのだから。

 今はその奇跡を共に分かち合いたい。

 一緒に喜べる人がいることも、また奇跡なのだと教えられて強く意識するようになった。

 窺うように訊ねれば、パウロは弾かれたように顔を上げて厳しかった表情を崩した。


「……そうですね、ありがとうございます。ヘルミーナ様が戻ってくだされば皆喜びます」

「私も復帰できて嬉しいです」


 他にも会いたい人がいる。あれ以来、会えていない騎士たちが少しばかり心配だった。

 会ったらまずは喜びを分かち合って、お礼を言って、覚醒した話は最後にしよう。

 ヘルミーナは逸る気持ちを抑え、パウロと共に転移装置ポータルに乗った。飛ぶ場所ゲートはもちろん騎士団の宿舎だ。

 装置が発動する瞬間、パウロが改まって言ってきた。


「今日から戻ってきてくださって、本当に良かったです」

「────」


 どこか意味深に聞こえた言葉に、理由を訊ねようとしたが転移のほうが早かった。

 一瞬にしてたどり着いたのは、見慣れた騎士団の場所だ。

 カレントに旅立った日から今日まで決して長くはないのに、懐かしさがこみ上げてくる。

 再びここへ戻ってきたんだという気持ちが押し寄せてきた。

 先に装置から降りたパウロが手を差し出してきた。ヘルミーナは手を重ねながら、先ほどのことが気になって口を開きかけた。

 直後、頭上からドンッ! という激しい音が聞こえて、ヘルミーナは悲鳴を上げた。

 咄嗟に頭を抱えてしゃがみ込むと、パウロが土魔法で天井を覆うほどの障壁シールドを作ってくれていた。彼は慌てる様子もなく落ち着いていた。

 それでも、体に染みついた恐怖が嫌な記憶を思い出させる。


「まさか、また魔物が……!?」

「大丈夫です。──これは、騎士同士が喧嘩しているだけです」

「……喧嘩、ですか?」


 意外な答えに、ヘルミーナはきょとんとした顔でパウロを見上げた。すると、彼は決まりが悪そうに視線を泳がせ、障壁を解くと咳払いした。


「ええ、気性の荒い属性もいますから。騎士団の中では身分の違いや、実力の差などで度々このような衝突が起こります。ただ今回は……」

「パウロさん?」


 そこまで言いかけると、パウロは突然呆れと苛立ちを含ませた様子で頭を掻いた。

 どこか悔しさも滲ませた彼は、ヘルミーナの顔を見ると観念したように深い溜め息をついた。後になって思えば、彼は口止めされていたのだろう。 そこにはヘルミーナの名も含まれていたようだ。


「……たぶん、今日騎士団を退団するランスの話を知って、リックが相当頭にきてしまったんだと思います。だからきちんと伝えておくようにと、言っておいたんですが」

「ランスが、騎士団を退団……?」 


 それはつまり、騎士の資格を失うということだ。

 刹那、頭の中が真っ白になるほどの衝撃に襲われた。

 ヘルミーナも初めて聞かされる内容だった。自分が引きこもっていた間に何があったのか。思考が働かず、呆然と立ち尽くす。

 しかし、ランスの退団にはヘルミーナの覚醒が深く関わっていることは明白だ。

 すると、再び激しい物音がして我に返った。


「喧嘩とはいえ、これは止めないと建物が倒壊しそうです」


 頑丈に造られている宿舎も、建物内で騎士が暴れることは想定していない。

 やや焦りを滲ませるパウロに、ヘルミーナも「ランスたちの元にお願いします!」と頼み、彼と共に音がした部屋へと急いだ。


評価、いいね、お気に入り追加、誤字脱字報告等ありがとうございます。

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