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ヘルミーナとメアリはお互いに謝り続け、結局何に対して謝罪しているのか分からなくなり、妙に可笑しくて笑ってしまった。
二人の顔に笑顔が戻ると、沈黙の宮殿も活気を取り戻した。
引きこもっていた寝室は大々的な改装作業が行われることになり、しばらくの間別室を使うことになった。部屋の模様や家具の配置が原因で沈んでいたわけではないのに、皆が集まって部屋の内装をどうするか相談する声が聞こえてきて恥ずかしくなった。
こんなことなら引きこもらず、最初から向かい合うべきだった。
そこへ追い打ちをかけるように、レイブロン公爵がヘルミーナの罪悪感と羞恥心を容赦なく引きずり出した。ルドルフたちと面会した翌日のことだ。
「ヘルミーナ・テイト伯爵令嬢、我が部下が迷惑をかけた……! お嬢さんの身に何かあれば、私のすべてを差し出しても足りなかっただろう。本当に申し訳なかった!」
部屋に入ってくるなり床に両膝をついて謝罪してくるレイブロン公爵に、ヘルミーナは悲鳴に近い声を上げて彼に駆け寄った。
四大公爵の一角を担うレイブロン公爵が、頭を垂れていい相手は王族だけだ。それを、地方出身の伯爵令嬢の前で跪き、許しを乞うなどあってはならない。
「レイブロン公爵様、どうかおやめください! 私はこの通り無事ですから!」
「だが、しかし……っ」
泣き腫らした顔は別として、ヘルミーナは怪我も病気もしていなかった。それでも、レイブロン公爵はその場から動かず拳を握り締めた。
お茶を運んできたメイドが、床に膝をつくレイブロン公爵とヘルミーナを見てギョッとするのが視界に映る。すぐさま、侍女に復帰したメアリがメイドと共に廊下へ出て行ってくれた。
「……命を危険に晒してまで、騎士の命を救ってくれたと報告を受けた」
「はい、そのおかげで誰も命を落とさずに済みました」
二人だけになった部屋で、レイブロン公爵は絞り出すように言った。
その左目には変わらず黒い眼帯が掛かっている。ヘルミーナが治癒した後も、光属性の存在を隠すためにしてくれているものだ。
下の者に対しても気遣いを忘れない彼だからこそ、一癖も二癖もある騎士たちが慕い、従っているのだ。騎士団で安心して働けていたのもレイブロン公爵のおかげだ。
「お嬢さんは危うく死にかけたのだぞ!」
「ええ、ですが……生きています。それに私は騎士団の病室で働く一人です」
王宮に来た当初は、自分の選んだ道が本当に正しかったのか不安だった。
けれど、新しく足を踏み入れた場所は、これまで自分が歩んできた世界とはまるで違っていた。狭かった視野は一気に広がり、時に恐ろしいこともあったが、少しずつ自分の目標が見え始めてきた。
今回の遠征で覚醒の条件を知ったときは愕然としたが、危険を冒してまで友の命を救ったことに後悔はない。むしろ、救えなかったときのほうが自責の念に駆られただろう。
以前の「お荷物令嬢」だった自分とは違う。──嘲笑されてきた魔力が増えたからではない。
自分の居場所はここにあるのだと、はっきり分かったからだ。
しかし、自分も騎士団の仲間であると告げるヘルミーナに対し、レイブロン公爵は自身の顔を撫でて、深く溜め息をついた。
「……そう言ってくれるのはありがたいが、ヘルミーナ嬢にも家族や友人がいることを忘れないでくれ。その人たちが今回のことを知ったらどれほど心配するか……。我々もまたお嬢さんを失えば、深い悲しみに暮れることになるだろう」
それは、大勢の部下を従えた上司として。
それは、一族を束ねる長として。
それは、子を持つ親として。
レイブロン公爵の諭すような眼差しに、ヘルミーナは家族のことを思い出して胸が締め付けられた。
結果として、ヘルミーナは友人の命を救った。だが、一歩間違えれば友人どころか、ヘルミーナの命も失われていたかもしれない。
そうなったとき、最も悲しむのは信頼して送り出してくれた家族なのだ。
皆が無事に済んだのは奇跡だった。それを忘れてはいけない──と諭されて、ヘルミーナは深く頷いた。
すると、レイブロン公爵はヘルミーナの手を取って立ち上がった。彼を見上げれば、先ほどまでとは違って優しい笑みを浮かべている。
「では、改めて礼を言わせてくれ。我々の部下を、仲間をまた救ってくれて感謝する」
「いいえ、私は……皆さんがいてくれたおかげです。公爵様の元に、騎士の方々を無事にお返しできて嬉しく思います」
「ああ、本当に良くやってくれた!」
感謝の言葉が魔力のように全身を駆け巡る。
すべてが褒められる行動ではなかったが、やはり生きていたからこそ味わえる瞬間だった。
レイブロン公爵が帰宅する際、ヘルミーナは一通の手紙を彼に託した。
宛先はレイブロン公爵家専属の職人だ。これがひとつの救いになればと思いを込めてレイブロン公爵に手渡すと、彼は快く引き受けてくれた。
それからヘルミーナの元には、宰相のモリス、医者のロベルトが訪れ、国王と王妃からは労いの手紙を貰い、瞬く間に時間だけが過ぎていった。
しかし、これまで幾度となく足を運んでくれた護衛の騎士は、誰も現れなかった。代わりに宮殿周辺の警備が強化された。
そこへ、遠征に出ていた騎士たちが全員帰還したという報告を受けた。
──いよいよ最後の覚悟を決めなければいけない。
だが、逃げていては何も解決しないことを、今回の件で嫌というほど思い知らされた。
考えるだけで胃がひっくり返りそうになったが、ヘルミーナはフィンに面会の取り次ぎをお願いした。彼に頼んでいる間、ヘルミーナの手には壊れたペンダントが握られていた。




