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お荷物令嬢は覚醒して王国の民を守りたい!【WEB版】  作者: 暮田呉子
5.過去の栄光と新たな王女

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書籍2巻発売記念SS「西からの便り」

 王国騎士団を率いる騎士団総長、アルバン・フォン・レイブロンは歴戦の騎士だ。

 一族の後継者であったときから多くの魔物討伐に遠征し、必ず生きて戻ってきた。

 自ら先陣を切って魔物の群れに飛び込んだこともある。左目を失いながらも現国王の命を救った逸話だってある。

 ──だが、最強の騎士に名が挙がるのは、いつも決まって別の男だった。

 そんな相手から初めて手紙が届いた日のことを、彼は忘れもしないだろう。


『子育てを誤った。あとは宜しく頼む』


 実に簡潔に。それ以外の言葉はなく。

 だから、どうしたと突っ込みたくなる手紙に、大勢の部下を従えてからは性格が丸くなったと言われるレイブロン公爵も、さすがに手紙を丸めて叫びたくなった。

 目の前にその男に瓜二つの息子がいなければ、実際そうしていたかもしれない。

 騎士団の総括者を前にしても臆することなく淡々とした態度は、紛れもなくあの男の血を受け継いでいる。同性から見ても目を見張るほどの、無駄に整った顔立ちも。

 おかげで、嫌と味わってきた劣等感や敗北感が蘇ってくる。現に今も、あの男に初めて対面したときのことを思い出させた。


「あー……それで、名前をまだ聞いてなかったな」


 全身にひしひしと伝わってくる魔気(オーラ)に、レイブロン公爵は心なしか口元を歪めて冷や汗を流した。

 一体、どう間違ったらこんな化け物のような人間ができるのか。

 ──厄介なものを送り込んできやがって。


「マティアス・ド・ラゴル。ラゴル侯爵家の者です」


 ラゴルを名乗る者は、その全員がとある一族の民であることを示す。

 エルメイト王国が建国される前から魔物と戦い続けていたとされる戦闘部族──風の民だ。

 今でこそ風属性の一族に属しているが、魔物の住処である黒煙の森に沿って国境を張り、巨大な城壁都市を築いている。

 軍事力は王家をも凌駕し、四大公爵に匹敵する影響力を持っているが、彼らがこれまで政権に関わってきたことはない。

 とは言え、王家の剣であるレイブロン一族の長として、彼らの動向には目を光らせている。

 もし、風の民が王家に牙を向けば四大公爵のバランスは崩壊し、王国は一瞬にして壊滅に追い込まれるだろう。


「そうか。しばらく宜しく頼む」


 そのためには敵に回すより、より良い関係を築いていたほうが何かと都合が良い。

 一方的な手紙に怒りは覚えても、追い返すような馬鹿な真似はしない。……嫌味を含んだ手紙ぐらいは送りつけてやるが。

 マティアスと名乗った青年は頭を下げ、踵を返して執務室を後にしていく。

 その後ろ姿を見送ったレイブロン公爵の目には、過去必死に追いかけてきた男の背中が重なって見えた。



 ★★


 共同生活において、譲り合いの精神は大切だ。

 それがない場所では争奪戦になることもある。とくに皆が一斉に利用する食堂では、腹を空かせた騎士たちが場所の奪い合いを始める。訓練の疲れや、魔物討伐に神経を尖らせた者同士のぶつかりは度々発生していた。また、身分による衝突もだ。

 ところが、そこへ一人の青年が現れると喧嘩や言い合いは途端に収まってしまう。魔力を放っているわけでもないのに、なぜか足元に冷気が流れて悪寒がするのだ。

 そのおかげで、以前に比べると余計な争いごとは減っていた。


「マティアス、食事の時間に悪いな。第一騎士団の昇格の件だが、今いいか?」

「構わない」


 彼がトレイに食事を載せて空いている席に着くと、周囲にいた騎士たちがそそくさと出て行く。先ほどまでの威勢はなく、食堂は一瞬にして静かになった。

 その光景に笑いを堪えたダニエルは、マティアスの前に座って持ってきた資料を広げた。

 同時期に入団した二人は、同じ上位貴族であり、実力も同期の騎士より突出していたため、一緒に組まされることが多かった。

 ただし、ダニエル曰く「あいつと私の間には、天と地ほどの差がある」と、手合わせしたマティアスにボロボロにされていつも嘆いていた。

 そんな彼らだが、どちらも容姿端麗とあって人気が高く、二人が並べば女性騎士や使用人たちがこぞって見学にやって来るほどだ。


「まず第二騎士団からは二人の希望者だ。それから第三、第四は三人ずつ。あとは……」


 ダニエルは資料を一枚ずつマティアスに見せながら説明していった。


「最後に、団長昇格試験だが……第一騎士団の団長はすでに決闘を辞退していて、お前に譲渡する意向のようだ」

「そうか。私たちの決闘は行われないのか」

「残念そうに言わないでくれ。入団当初からお前に敵う騎士なんかいなかっただろ? 実力主義の騎士団にとって、お前の待遇には随分悩まれていたんだ」


 西の国境を守るラゴル侯爵家の次期当主──マティアス・ド・ラゴル。噂には聞いていたが、風の民と実際に会うのはマティアスが初めてだった。

 彼は入団したときから異質で、近寄り難かった。

 戦闘部族と揶揄されるだけあって魔物討伐には慣れており、最初の実践訓練では彼だけで魔物を倒してしまった。しかし、その美しい見た目とは裏腹に、魔物に対して冷淡で無慈悲な姿にゾッとさせられた。

 まだ見習い騎士ではあるが、実力はすでに第一騎士団の騎士をも凌ぐ。新鋭部隊が束になっても勝てるかどうか。心底味方で良かったと胸を撫で下ろしたぐらいだ。

 だが、入団したばかりの見習い騎士に騎士団丸ごと任すわけにもいかず、マティアスは昇格試験をパスして第一騎士団に配属された。全てが異例だった。

 その間、第一騎士団の指揮権は曖昧になり、マティアスは孤立し、騎士団内では良くない雰囲気が流れていた。


「今度の昇格試験で、第一騎士団は総入れ替えを計画しているようだ。お前が団長になったことで余計な軋轢を生まないためにな。今回は見習い騎士にもチャンスを与えるそうだ」

「お前は受けないのか? その実力なら確実に入れるだろう」


 マティアスと同時期に入団したというだけで、ダニエルの立場は想定よりずっと違ったものになった。

 今だって役職もない第二騎士団所属の騎士なのに、誰もマティアスに近寄らないため、代わりに雑用を引き受けている。


「勘弁してくれ。お前の無茶ぶりに付き合わされて、毎晩悪夢に魘されてるんだ。同期は誰も第一騎士団に入りたがらないさ」

「ダニエルの剣術は学ぶことが多くて良かったんだが」

「手合わせのたびに骨を折られるのは遠慮したい。まあ、今度の昇格試験でお前にぴったりの相手が見つかるさ」


 そう言って、ダニエルは最後の資料をマティアスに渡した。

 見習い騎士から、唯一の希望者だ。


「カイザー・フォン・レイブロン。レイブロン公爵家の長男で、アルバン総長の息子だ」

「────」


 彼がいたからこそ、見習い騎士にも昇格の話が下ったのだろう。近いうち第一騎士団は一新され、マティアスを筆頭にこれまで以上の新鋭部隊になるはずだ。

 それはそれで楽しみであるが、加わりたいとは思わない。

 大まかに説明を終えたダニエルは席を立ち、食堂を後にした。


 一方、渡された資料を眺めていたマティアスは、ふと顔を上げて暖かな日が差し込む窓の外を見た。

 間もなく午後からの訓練が始まる頃だ。


「……ここはラゴル領と違って穏やかだ」


 王国騎士団の入団を勧められた時は不思議に思ったが、正式な後継者になるために必要な社会性や協調性を身に付けるためだと教えられた。父親もまた歩んできた道だ。

 だが、来てみて分かった。

 王城がある場所はどこより平和だ。

 だからこそ、王国を守るにはここが崩されてはならない。西の国境で魔物を食い止めている理由にも納得がいく。


 大切な人を目の前で失わないためには、どんな犠牲を払ってでも戦わなければいけない。

 自分と同じ人間を増やさないために、今よりもっと強く……。

 マティアスは窓から顔をそらし、先を見据えるようにして手元の資料に視線を落とした。

 しかし、ここで予期せぬ出会いが待っていることを、彼はまだ知らない──。

お荷物令嬢2巻本日発売です。電子版も同日配信となります。

内容の詳細は活動報告をご覧ください。

引き続き宜しくお願いします。

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