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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第四章 少年時代(平和な日々)
44/49

里帰りと結婚式

 シフたちは馬車での旅を続けて、シフが生まれ育った村へと到着した。

 豪華な馬車で移動は快適だったが、周りに護衛の姿がないためか、何度か野盗に襲われた。その度に返り討ちにしていたが、ケラシーヤによると、女王宣言が行き届いて仕事が増えれば、野盗の数も減るだろうとのことだ。


「ん? 貴族の馬車?」


 御者席に座ったシフには気付かなかったようで、見張りに立っていた男の疑問がシフに聞こえてくる。

 悪い方に間違えられてはいないようなので、ゆっくりと進める。

 村の入り口に着くと、何人かが興味深そうに集まっている。

 顔見知りもたくさんあったので、シフは大きめの声で挨拶を口にする。


「よう、久しぶり。ちょっと里帰りに来たんだ」

「シフか! 久しぶりだな。凄え馬車だな。お前一人じゃないよな?」

「ああ。ケイ、ティナ、出られる?」


 中から了承の返事が二つ、文句が一つ返ってくる。

 当然文句を言ったのはトリだ。


「何で俺には確認しねえんだよ。兄貴、俺が出ると駄目なのか?」

「そんなわけねえじゃん。確認しなくても、お前は出るだろ」


 軽口を叩いているうちに、ゆっくりとケラシーヤが顔を出す。シフはその手を取り、馬車から降りる手助けをする。


「ありがと、シフくん。でも、これくらい大丈夫よ」

「万が一ってのもあるだろ。念のためだよ」


 村人たちは馬車から降りてきたケラシーヤの容姿と、尖った耳に視線を向ける。赤くなって見惚れている者もいれば、下世話な目線を身体に向ける者もいる。

 続けてティナ、トリと降りてきて、それぞれ名乗る。ティナはケラシーヤのような美貌はないが、快活そうな印象ときびきびとした動作で好印象を持たれやすい。そしてトリは、黙っていれば可憐な少女だ。

 集まっていた村人たちは、ティナやトリに目を向けた後、物言いたげにシフを見た。

 視線が集まるのを意識しつつ、シフは三人との立場には触れず、別の話を持ち出す。


「それで、家に行きたいんだけど、父さん戻ってるかな?」

「もうそろそろ暗くなるし、戻ってるだろうよ」

「ん。そうだね。ありがと」


 後で話を聞かせろよという声に了承の言葉を返して、シフたちは村の中へと馬車を進めた。



 四人がシフの実家に到着すると、まずシフが家に入った。

 中には物心が付いた頃からずっと見てきた、母親の背中が出迎えてくれた。

 声をかけると母親が振り返り、嬉しさと安堵が入り混じった表情を作る。


「ただいま」

「シフかい? 久しぶりじゃないか。よく戻ったね」

「うん。ちょっと顔を見せにね。父さんはまだかな」

「ああ、もう帰ってくるよ」


 シフは話をしながら、外に目を向ける。


「ちょっと紹介したい人がいるんだけど……」


 母親はそれだけで何か気付いたようで、目を丸くしている。


「おやまあ、思ったよりも随分と早いねえ。外で待たせるもんじゃないよ、さっさと連れて入ってきな」

「うん」


 シフは外に顔を出して、三人に入ってくるよう促す。

 一人だと思っていた母親は、三人も入ってきたためか訝しげな顔になっている。


「……彼女でも連れてきたかと思ったんだけど、エルフのお嬢さんに獣人のお嬢さん? 傭兵仲間か何かかい?」

「どっちも、間違いじゃないけど」


 妙に鋭いなと思いつつ、シフは順番に紹介する。


「結婚する予定の、ケラシーヤとティナ。それと、成り行きで面倒を見ているトリ。トリは妹分みたいなもんかな」

「……ちょいとシフ、どういうことだい」


 シフは母親に腕を掴まれ、引っ張られた。黙って従い、別室に入る。


「お前、二人とも婚約してんのかい? それにエルフのお嬢さん、お腹が膨らんでるのはお前の子?」

「うん。二人と結婚するし、俺の子だよ」

「……まあ、事情は父さんが帰ってきてから聞くけど。あんた、あの子ら騙してたり、悪いことしてたりなんかは……」

「そんなのやってないよ。してたら、素直に家に連れてくるわけねえじゃん」


 母親は、それもそうだと黙り込む。

 トリとティナが食事の準備を手伝っているうちに、父親が帰ってきた。賑やかなのは入る前から解っていたようで、家に入るなりシフに声をかけてきた。


「シフ、お帰り。綺麗なお嬢さんを何人も連れてきたんだって?」

「ただいま。うん、紹介するよ」


 シフは改めて父親にも三人を紹介する。


「ケラシーヤ様……?」


 父親が驚愕を顔に貼りつけてつぶやく。


「シフ、どういうことだ?」

「色々とありまして」


 転生についてぼやかしながら、ケラシーヤと一緒に説明をする。母親はそれを聞きながら、ようやくケラシーヤが六歌仙の英雄だと気付いて慌てる一幕もあったが、概ね順調に説明を終える。


「村にいた頃から、シフは異常だったが、そこまでとはな。蜥蜴が竜を生む、いい例だな」

「蜥蜴が竜?」


 トリは理解出来なかったようで、ティナが説明をする。シフは、鳶が鷹を生むということわざと似たようなものだと記憶している。

 それなりに話が弾んだ後、シフはケラシーヤ、ティナと頷きあって言いたいことを口にする。


「父さん、母さん、戻ってきたのは良い機会だから、村で二人との結婚式をやりたいんだけど、いいかな?」

「そりゃ、俺たちとしては歓迎だが、フランなりでやらなくていいのか?」

「うん。ケイとの結婚式を向こうでやると、大々的にやらなくちゃならないから。こっちで正式にやっておく方が楽なんだ」


 シフの説明で納得したのか、そもそも村でやるのが嬉しかったのか、それ以上の質問はなく受け入れられた。

 その話の後、母親はトリとティナに目を向ける。


「トリちゃんとティナちゃん。しばらく泊まるんだったら、良かったらシフの好きな料理とか教えようか?」

「ぜひお願いします」


 二人が勢い良く頷いて、母親は目を細める。

 一方でケラシーヤは父親に、シフが迷惑をかけていないかと心配されていた。ケラシーヤは素直に頷いて、迷惑をかけているのは自分だと笑う。


「そんなことはないよ。ケイがいなかったら、俺、こんなに楽しく過ごせてなかったぜ」

「ふふ、ありがと。まあ持ちつ持たれつってことで。それより、お母様には、トリちゃんもしっかりシフくんの嫁候補ね」


 ケラシーヤは後半をシフにだけ聞こえるよう、耳元でささやく。シフもそれは気になっていたので、小さく頭をかく。


「んー。どうしたもんかな」

「簡単な解決法、一つあるわよ?」

「……一応聞くよ。何?」

「トリちゃんもあと半年ほど経てば、成人よ。結婚できる年齢なのよね」


 ケラシーヤの進言に、シフは肩を竦める。トリに関しては、ケラシーヤやティナとは違って庇護意識が強い。

 当然というべきかどうか、今のシフには、たとえトリが望んでも他所に嫁にやる気にはなれないだろう。


「まあ、その時になってから考えるよ。それより準備するのに、何か町まで買い出し行ってこようか」

「大体は持ってきた荷物でまかなえると思うわ」


 そんな話をしていると、父親が村長に伝えるために席を立った。


「よし、じゃあちょっと行ってくる」

「俺も行くよ」


 シフは父親にならって立ち上がるが、手で制される。


「お前はゆっくりしてろ。日取りは、こっちで決めて良いのか?」

「ああ、うん。あまり長居できないから、早めにお願いしたいけど」

「あいよ」


 父親が出て行き、しばらく経って食事が終わる。片付けはシフとティナ、トリの三人で行った。


「母さんはずっと作ってたんだから、休んでなよ」

「そうかい、じゃあ任せようか」


 食器を洗いながら、シフはその中に自分が前に作った木椀を見つけて、ふと笑みを浮かべた。

 シフの顔が緩んでいるのを見て、ティナが僅かに首を傾げる。


「どうしたの?」

「いや、大したことじゃないんだけど、これ、俺が昔に作った奴でさ。懐かしいっていうか、戻ってきたなっていうか」

「いいな。俺には解んねえや」


 ティナは納得したような顔になるが、トリは寂しそうに笑った。シフは少し考えつつ慰めるように言い聞かせる。


「どうだろうな。フランに戻ったら、帰ってきた! って思うかもしれねえぞ。もしくは、トリが一人でどこかに出かけた後、俺がいる家に戻ってきた時とかさ」

「んー。だといいけど」

「俺は、ティナと一緒に出かけた後、ケイに出迎えてもらうとホッとするし。当然、ティナに出迎えてもらってもそうだし、お前にもな。だから、まあ。トリもそのうち居場所を見つけられるさ」


 シフの言葉に、トリだけではなくティナも赤くなっている。二人で顔を見合わせて、ふふっと笑いあう。


「トリちゃんも、充分に絡め取られちゃってるよね?」

「ティナ姉ちゃんはともかく、俺にこんなの言いながら無自覚って酷くねえ?」


 ボソボソと話す二人に、シフは突っ込みを入れる。


「今のはわざと言ったぞ」

「シフ、あまりトリちゃんをからかうもんじゃないよ。本気なら許すけど」


 すかさずティナが茶々を入れてくるので、シフは小さく肩を竦めた。


「言ったことに嘘はないよ」

「そう。なら許す」


 三人がじゃれ合っているうちに、父親が帰ってきた。

 洗い物が片付き、全員で居間に集まる。


「遅くなって悪かったな。式は三日後、村の広場で行うことになった。三人も同時に娶るなんて、田舎じゃそうそうないからな。かなりびっくりされたよ」

「そりゃ、都会でもそうそうねえ……っていうか、今、三人って言った?」


 シフの質問に、父親が怪訝そうに頷く。

 女性陣も間違いに気付いた様子だったが、気付かなかったかのように振る舞っている。


「トリは違うよ。そもそも、まだ十五になってねえしさ」

「ここらじゃ、来年成人する子なら、結婚してもおかしくないぞ」

「……そういう問題じゃねえ」


 どう反論するべきかシフが悩んでいると、トリがしっかりと、睨むようにシフを見据えた。


「あ、兄貴、もし俺が十五歳になっていて、求婚したら、受けてくれんの?」

「あのな、トリ。トリが死にそうな時に、俺が助けたのは確かなんだけどさ。トリの人生は他の誰でもない、トリのものなんだよ。ケイやティナみたいに自分の言動に責任は持てるか?」


 シフの言葉に、トリは黙り込む。ケラシーヤが何か言いそうになるのを手で制して、シフは続けて話し出す。


「俺も、トリが幸せになれるよう、できるだけ努力したいとは思ってるからさ。まあ、あと半年くらいなんだし、成人までは焦るなよ。俺も逃げないしさ」

「うー、でもよ」

「トリちゃん」


 トリは色々と言いたそうにしていたが、ケラシーヤが制止する。


「シフくんの言うとおり、今は諦めなさい。それに……後から捕まえたら、二人だけで結婚式できるわよ」


 ケラシーヤは最後の部分をトリの耳元でつぶやいたため、普通は他の人には聞こえない声量だ。ただ、耳が良いシフとティナには、聞こえてしまったのだが。

 二人はこっそり顔を見合わせる。

 トリはそれ以上は言わず、普段通りに元気良く会話を楽しんでいった。



 夜も更けて、そろそろお開きという時間になり、シフがティナの部屋に忍び込んだ。ティナが笑顔で出迎えて、横並びで寝台に座る。


「いらっしゃい。待ってたよ」

「はい、お待たせ。そんで夕方の話なんだけど、どう思う?」

「えっとね。私は全然気にならないんだけど、ケイさんは言わないだけで、気にしてるんだと思う。シフくんと私に遠慮してるだけじゃないかな」

「やっぱり、そう思うよな。だからって、ティナを一緒に挙げないわけにも行かねえしな」


 シフが悩んでいると、ティナは間髪いれずに首を横に振る。


「私は別に、後でいいけど。戻ってから挙げたら、姉さんも参加できるし、むしろその方が良いくらい」

「え、でも何かケイとティナで優先度付けてるみたいで、ティナは嫌じゃないか?」

「シフ、何言ってるの?」


 素の表情で、ティナが身体を仰け反らせてシフから一歩分離れる。


「本気そうだから説明しておくけどね。ケイさんと私では、ケイさんを優先するのは、当然なの。シフはさ、元々私を狙ってた?」

「えと、好ましいとは思ってたけど、一緒に依頼を受けた時にはケイと付き合ってたようなものだから、意識しないようにしてた、かな」

「そうでしょうね。ケイさんが駄目って言ってたら、もし仮に、シフが他の女を好きになっても、隠れて付き合うしかないもん。一緒に住めるのも、ケイさんが許可を出してるからだし」


 ティナの言い分は理解できるが、シフは素直に頷けない。ケラシーヤの機嫌だけを気にして周りが嫌な思いをしたら、居心地も悪くなるし、後々の確執になりやすい。


「それは解るけど、だからってティナを蔑ろにはできねえよ」

「んー。シフとケイさんが納得していた様子だったから言わないでおこうと思ったんだけどね。ケイさんも、思うところはあるようだから」


 長々と前置きをして、シフは離れていた身体を近付ける。


「ケイさんと私を同列に扱えば納得するのは、シフだけだよ。私には、こちらの意志よりもシフがどうしたいかだけを気にしてるように見える。シフが差別をしないように接しようとしているのは解るけど、差別と区別は違うんだよ」


 ティナは、むしろ同列に扱われる方が困ると続ける。

 シフとしては前世の絡みもあるため、ケラシーヤだけではなくティナにもしっかりと配慮するべきだと思っていたが、ティナのような考え方は一切していなかった。


「なるほど。そういう考え方もあるんだな」


 妻二人を娶るという時点で、前世の倫理観とは違うつもりで考えていたが、それでもまだ、引きずられている部分が多かったようだ。


「多分、ケイは俺の考え方も読んで、我慢してるんだろうな。ティナが良いなら、今回はケイとの結婚式だけ挙げようか」

「うん、是非。そうしてくれた方が、胃の負担を考えなくて済むよ。ケイさんは普段から優しいけど、だからこそ、怒らせたくないし」


 ティナの言葉に、シフも頷く。シフがケラシーヤと再会してから、本気で怒った様子はないが、ちょっと怒った時に攻撃魔法をぶつけられている。実験の意味もあったのだろうが、本質は結構乱暴だとシフは考えている。


「じゃあ、話し込んじゃったけど、今日は寝ようか」

「うん……って、ちょっとシフ?」


 シフは部屋に戻る素振りを見せず、ティナの肩を抱いてそのまま寝台に寝転んだ。


「隣、聞こえるよ」

「隣はケイだから、大丈夫」


 ティナの部屋は一番端で、隣はケラシーヤが割り当てられた部屋だ。

 ティナは震えるような声でつぶやく。


「全然大丈夫じゃないよ。やだ、絶対やだ」

「そう? じゃあ、何もしないから」


 シフはティナの頭を柔らかく撫でる。

 ほっと安心して息を吐くティナに微笑んで、シフは睡魔に身を委ねた。



 翌日から四日間は、結婚式の準備で走り回った。シフとティナが説明をして、ケラシーヤとの結婚式のみ行う。

 そして当日、シフとケラシーヤは雑談をして出番待ちの時間を潰す。


「こっちでも、ウェディングドレスは真っ白なんだね」

「そうね。白には破邪の力があるとされてるし、結婚式には向いてるんじゃないかしら。まあ、私は純真無垢な乙女じゃないけど」

「それは、その。俺が原因だし、何とも言えないけど。それはまあ、それとして、凄く似合ってるよ」

「あら、ありがと。これ、凄く手がかかってるわね」


 シフはケラシーヤの皮肉にしどろもどろになりながらも何とか褒めると、屈託のない笑みを浮かべた。

 ケラシーヤが感心している通り、白いウェディングドレスの下半身を占めるフレア部分に、白い刺繍で花の模様が縫い込まれている。

 遠目には無地で真っ白に見えるが、それなりの近さだと花が浮き出る仕組みだ。


「兄貴、姉ちゃん、出番だぜ」

「おう、ありがと」


 そんな話をしているうちに、トリが呼びにきた。

 シフはトリに礼を言いながら、ケラシーヤを振り返った。


「行こうか、ケイ」

「今さらだけど緊張してきた……」


 差し伸べられたシフの手に、自らの手を重ねるケラシーヤ。

 その手が震えているので、シフは安心させるように肩に手を添える。


「大丈夫。俺がついてる」

「ふふ、ありがと。頼りにしてるわ」


 トリに先導されて、ケラシーヤの手を取ったまま、シフは広場に向けてゆっくり歩を進める。

 百人ほどの人が集まっており、左右に分かれて間を歩けるように道を作っている。近付くとトリがケラシーヤの横に付き添い、シフの側にティナが付き添った。ケラシーヤと歩調を合わせて歩き、奥に控えていた神官の前まで行くと大仰に頭を下げる。

 祝福の言葉がかけられ、二人揃って頭を上げると、軽く口付けをかわした。

 結婚式自体はそれで終わりで、シフとケラシーヤは集まってくれた人の方に戻る。

 中央に到着すると、周りから割れんばかりの歓声を上げ、それぞれ手に持った花を頭上に投げた。

 メイアーヌ王国では地母神メイアが主に信仰されているので、地に生えた花が神の祝福となるのだ。


「おめでとう!」


 口々に祝いの言葉を投げかけられて、シフもケラシーヤも返礼をする。

 そうするうちに準備が整い、立食での食事会が始まった。


「シフくん、仲が良かった近くのお姉さんって、どの人?」

「エレイナって名前なんだけど、残念ながら旦那の仕事で、別の町に行ったみたい。せっかくだから、エレ姉さんにも祝って欲しかったんだけどな」

「そう、それは残念。私も挨拶しておきたかったんだけどね」


 食事会の費用は各自持ち寄るのが基本だが、今回はシフとケラシーヤがすべての費用を負担している。そのせいか、前にシフが参加した時よりも、みんな食べるのに必死な印象を受ける。

 それ以外にも、ケラシーヤの美貌に酔いしれている者もいれば、ティナやトリに話しかける若者もいる。

 ティナは当然、トリも丁寧な口調で、上品に笑う。自宅で粗雑な口調で話すトリを知っている父親と母親は、その変わり身に目を白黒させている。


「あいつ、六歌仙の食堂で給仕してるからさ。猫かぶるの相当上手いぜ」

「それにしたって、ねえ。ああしてると、どこの貴族様だか、っていうくらいお上品に見えるねえ」


 祝いの席は夜まで続き、みんな飲み食いを終えると、歌ったり踊ったりと楽しそうにしている。

 シフとケラシーヤは普段着に着替えていて、騒いでいる連中を少し離れた場所から眺めていた。


「ケイ、体調はどう? 無理しないで、戻っててもいいよ。ティナに付き添ってもらう?」

「うん。じゃあお言葉に甘えて、ちょっと休ませてもらうわ。ティナちゃん、お願いしてもいい?」

「はーい。じゃあ、戻りましょう。トリちゃん、シフが羽目を外しすぎないよう、見張っててね」

「おう、任せとけ。ケイ姉ちゃん、お疲れ様。それと、おめでとう」


 飾り気のない祝福だったが、ケラシーヤはトリに近付き、ギュッと抱きしめた。


「ありがとう、トリちゃん。次は、ティナちゃんとあなたの番だから」

「おう。その時は落とすの手伝ってくれよ」

「あの。君たち。本人の前でその話はどうかと思うよ」


 シフの言葉を完全に無視してひとしきり盛り上がった後、ケラシーヤ達は家へと戻っていった。


「好き放題言うよな、お前も」

「言ってるうちに本気になるかもしれねえじゃん」


 トリの寂しそうな笑顔を見て、シフもつい、本音が漏れる。


「……すでに、充分にトリの可愛さは解ってるよ。とにかく、成人までは待ってくれ。俺も色々、気持ちの整理が欲しいし」


 トリは目を思いきり見開いてシフを見つめる。シフはその様子に軽く吹き出しつつ、トリの頭を乱暴に撫でた。


「そんな顔すんなよ。せっかくの美人が台無しだぞ」

「じゃあ、頭をかき混ぜんなよ。せっかく綺麗に整えてんのに」

「そうだな、悪かった」


 シフとトリは笑いあいながら、人の波に戻っていった。



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