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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第三章 少年時代(吸血鬼討伐編)
31/49

出発前夜

 シフは厨房へ向かい、トリを呼ぶ。何かあるたびに顔を出しているので、シフは厨房の料理人とも仲良くなっている。

 出てきたトリに短く事情を伝えると、呆れたような顔をされた。


「兄貴、色々と面倒に首を突っ込むよな。何か理由つけて断ってもいいんじゃねえの?」

「今回は俺が聞いた話だからな」

「いいけどさ。ケラシーヤ姉ちゃんも一緒?」

「おう。また留守番で悪いけど、しっかり仕事しろよ」


 晩ご飯も一緒に食べるよう待ち合わせの時間を決めて、トリは仕事に戻る。シフも保存食や油などの買い出しに行こうと建物を出る。

 祭りで賑わう大通りを歩いて、馴染みの店に顔を出す。世間話をしながら必要なものを買い、家まで戻ると、ミーアが家の前で待っていた。


「あれ、ミーアさん。どうしたの? ケイならまだ本部だと思うけど」

「いえ、シフさんにお話があって」



 シフはミーアを促して中に入り椅子に座るよう勧める。

 ミーアも何度も掃除で来ていたためか、慣れた様子でお茶の準備を手伝う。二人分を淹れて席に着く。

 シフはミーアが話し出すのを待っていたが、なにやら言い辛そうにしている。


「話って何ですか?」

「シフさん、少し前にティナと一緒に討伐依頼を受けましたよね?」


 シフの質問をきっかけに、ミーアが話を切り出した。


「うん、少し前にね」

「ティナ、どう思います?」

「どうって? 結構周りを見て判断できているし、優秀だと思いますけど」


 質問の意図が解らず、シフはミーアに聞き返す。


「そういうのじゃなくて、ですね。女の子として、どう思います?」

「可愛いとは思うけど、それ俺と関係あるの?」


 シフが訝しげに眉をひそめると、ミーアはふうとため息をつく。


「ティナね、喧嘩っ早いというか、真っ直ぐな分だけ融通が利かないせいか、男友達はいても彼氏とか無縁だったのよね。本人も気にしてないから余計にね。それで、シフさんが魔竜を討伐したって話を聞いて、一緒に討伐に行ったでしょう? あれから、何かあるたびにシフさんの名前が上がってね。今までにない感じだったから、シフさんが良ければ仲良くしてあげて欲しいの」


 一緒に旅をするのなら、気にしてあげて欲しいという。シフは困ったように、しかしきっぱりと自らの立場を告げる。


「別にティナが嫌いとかじゃないけど、俺はケイと結婚するから」

「そうなんですか、おめでとうございます」


 頷いて祝福するミーアに、シフは再び眉をひそめる。


「だから、ティナと仲良くするのはいいけど、恋人とかにはなれないですよ」


 シフの言葉で、ミーアががっかりしている。何か間違っただろうかとシフが首を傾げると、ミーアが恐る恐る口を開く。


「シフさんって、月の女神を信仰してるの?」

「いや、別に。何で?」

「月の女神の神殿は、一夫一妻制を推奨しているから」

「ああ、そう。俺、神ってあまり信じてないんだけど、一夫多妻はちょっと抵抗があるんだよな」


 地球で生活していた時の影響か、一夫多妻は自分に合わないとシフは思っている。しかし、ケラシーヤは一夫多妻に問題ないような発言をしていたので、人によるのだろう。


「抵抗? でもシフさんみたいに強ければ、ティナじゃなくても惚れる子は多いでしょうね」

「どうだろうね。そもそもティナが俺に好意を持ってるっていうのも、ミーアさんの勘違いかもしれないですよね」

「これでも私、あの子の姉を二十年近くやってますから。話す時の嬉しそうな声質くらい解ります」

「へえ。まあ、ティナが変なことしない限り、邪険にはしないですよ」

「よろしくお願いします。それとケラシーヤ様やカルネさんが一緒だから、変に出しゃばらないように言い聞かせておくけど、暴走しそうだったら止めてあげて」

「ティナって、そんな性格なんだ。俺と一緒に行った時は、結構落ち着いていて信頼出来たんだけど」


 シフが前回の討伐を思い出しながら言うと、ミーアは笑いを堪えている。


「シフさんとポーラさんの二人に良いところを見せようと張り切っていたのね」


 シフとミーアでそんな話をしていると、トリが帰ってきた。


「ただいま。ケラシーヤ姉ちゃんはもう少しかかるってさ。兄貴、浮気?」

「おかえり。違うよ。相談に乗っていただけ。それミーアさんにも失礼だぞ」

「ん。そうだな。ミーアさんごめんなさい」

「別にいいわよ、軽口で遊ぶくらい」


 帰ってきたトリを迎え入れて、時間を確認する。結構経っているので、夕飯を作る時間は無さそうだ。


「悪い、ちょっと話し込んじゃってた。夜はケイが戻ってきたら、どこか食べに行こう」

「ん。解った。ミーアさんはどうすんの?」


 トリが聞いて、シフはミーアも一緒にどうかと誘う。


「いえ、私は帰ります。家にお腹を空かせた大きい子どもが二人いるから」

「それってティナさんとゼロさん?」


 トリが笑いながら質問すると、ミーアも笑いながら頷く。今からで間に合うのか聞くと、すでに下準備は済ませてきており、火を通せば終わりだそうだ。

 ミーアが帰ってから、シフとトリはケラシーヤを迎えに行こうと六歌仙の本部へと歩き出した。


「ミーアさん、何の相談だったんだ?」

「今度の討伐で、ティナも一緒だからさ。旅の途中で問題が起きないよう気を遣ってくれってさ」

「ふうん。ケラシーヤ姉ちゃんには内緒?」

「いや、内緒じゃないよ。俺から言う」

「ん。解った」

「悪いな、せっかく帰ってきたのに、また歩かせて」

「いや、全然問題ないよ。姉ちゃん迎えに行って、そのままご飯食べた方が効率良いし」


 二人が六歌仙に着いて、しばらく待つ。ケラシーヤは仕事を終えると、急いでシフたちの元にやってきた。


「ごめんね、待たせて」

「いいよ。俺たちが勝手に待ってただけだから」


 合流した後、旅の途中では食べられない冷製の汁物を食べる。他は麺類もあまり食べられないので、今のうちに食べておいた。


「乾麺なら持ち歩けるけど、生麺は難しいよな」

「そうね。魔力を惜しまなければ、氷の精霊にずっと冷やさせると、生麺でもいけそうだけど」

「冷凍って、生麺になるのかな?」


 シフとケラシーヤが食について語っていると、トリが呆れた様子で突っ込みを入れる。


「兄貴、ケラシーヤの姉ちゃんに話があったんじゃなかったか?」

「ああ、そっか。忘れてた。ケイ、さっきミーアさんが来てさ。ちょっと相談を持ちかけてきたんだ」

「あらそう。どんな相談か、聞いても良いのかしら?」

「うん。俺もちょっと相談したかったから」


 シフがミーアとの話を聞かせて、困ったように付け加える。


「ミーアさんの話がどこまで本気か解らないし、ティナもいきなりそんな話をされても困るだろうけどさ。前にケイも言ってたけど、一夫多妻って、おかしくねえ?」

「おかしくないわよ。人の死がすぐ近くにあるんだから、強い血は大事よ。そして、養えるならたくさん妻を持って、子どもを作るのはむしろ推奨されているわ。地球の頃とは文化や常識が違うのは当然よ」

「そんなもん?」

「ええ。それに私は子どもが出来にくいし、シフくんの子を残すためにも、何人か私以外にも妻は必要でしょうね」


 顔をしかめたシフを横目に、ケラシーヤは食事を進める。シフは再度ケラシーヤに確認を取る。


「ケイはそれでいいの?」

「いいって、何が?」

「その、例えば俺がお前以外に恋人作ったりするのが、さ。裏切りっていうか。俺ならケイが俺以外と仲良くやってたら嫌だ」


 ふふ、と小さく笑ってケラシーヤがシフの言葉に礼を言う。


「好いてくれているのは嬉しいわ。当然、私は浮気なんてしないわよ。それは安心してちょうだい。男女で子どもに対する負荷は違うでしょう? こっちでは、負荷の違いがそのまま恋愛観にも繋がっているというか。女は一度身ごもったら、生まれるまでどころか、その後もしばらく次の子を産むのは体力面でも厳しいわね。対して男は、極端な話、毎日でも別の相手と子作り出来るし」


 エルフ同士だと、一夫一妻がほとんどなのだという。

 きっと人生が長いからだ、とケラシーヤは軽く言っているが、シフとしてはまずケラシーヤがいてこそだ。


「理屈は解った。俺が何か活躍して名を上げたらケイと釣り合うかと思っていたけど、ちょっと考えが甘かったのも解った。今更ケイ以外と結婚しないって言って、ケイのわがままだって思われるのも嫌だし」

「良いんじゃないかしら。負担に思ってまで女の子と仲良くしなくてもいいと思うわ」

「それは解ったんだけどさ。もう一度聞くけど、ケイ自身は嫌じゃないの?」


 元々、ケラシーヤは地球での知識を持っているのだ。当然、一夫一妻が常識と思って過ごしてきたはずだ。

 だがケラシーヤはけろりとした態度で言い放った。


「そりゃ、仲良く出来なそうな人なら嫌だけど、ティナちゃんやトリちゃんなら問題ないわ」

「そっか。でもトリはないだろ。まだ子どもじゃんか」

「兄貴、いつもそれだな。俺、兄貴とそれほど離れてないんだぜ」

「トリちゃん、もう十三歳だものね。あと二年もすれば成人だし」


 二人でそんな話をしているが、どうも初めて会った時の印象が強すぎて、シフにはトリが凄く幼く感じてしまう。

 幼いと言えばトリの機嫌が悪くなりそうなので、シフは言葉を選んで口を開く。


「まだ背も低いし、いっぱい食べて成長しないとな」

「なんか、兄貴には今後ずっと子ども扱いされそうだな」

「そ、そうでもないって」


 トリはシフの慌てたような態度に怪訝そうにしていたが、黙って流す。

 それよりも、とケラシーヤが話題を変える。


「シフくん、カルネは苦手?」


 打ち合わせをしていた時に、態度がおかしかったらしい。それほど解りやすかったかな、と首を傾げながらも、シフは素直に頷いた。


「ああ。カルネって、なんか見透かしたような目をするじゃん。あれ、苦手」

「確かにそういうところあるわね。彼女、小さい頃から知らないはずのことまで知っていて、変人扱いされていたみたいよ。それで顔色を窺うのと知った風な態度を取るのが癖になったみたい。実際、色々と知っているから、余計にね」

「知らないはずのこと……? 転生者じゃないの?」


 シフはケラシーヤの話を聞いて、上手く隠せなかった転生者なら、変人扱いされそうだと考える。自らの身に置き換えても、ゴブリン退治の時に父親がいなければ危なかったかもしれない。

 だが、ケラシーヤは首を横に振る。


「それとなく探ってみたんだけど、違うみたい。フォーチュンテラーって職業があったの覚えてる?」

「あったっけ? 悪い、覚えてない」

「シフくんは前衛職を中心に見ていたものね。私はちょっと気にしていたから覚えていたんだけどね。占星術で未来予知なんかもするの。ゲームでは行動予測の利点が増えたり、マークフォースを変える感じだったけど」

「へえ。それで?」

「カルネが、生まれながらにフォーチュンテラーの素質があったとすれば、知識にない何かを知っていたとしても、おかしくないと思わない?」

「でも、占星術で未来予知って、嘘っぱちだろ?」

「それは地球の話。こっちでは魔力もあって色々と違うんだから、何かを感知して先を知るのも不思議じゃないかもしれないわ」


 そんなものか、とシフは考え込む。カルネも色々と苦労していたのだろう。別に被害を与えられたわけでもないので、もっと歩み寄るべきだろうかと、シフはケラシーヤに相談する。


「どうかしらね。何となく合わないっていうのは、変えようがないかもしれない。私もやってきた中で、合わない人っていたもの。六歌仙絡みなら仕事と割り切ってやってきたけど、私生活の方ではばっさりと切って捨てた覚えがあるわ」

「そっか。でも、明日から行くのは仕事なんだから、せめて連携とか失敗しないようにしないとな」


 シフに同意するようにケラシーヤが頷く。


「それは当然よ。シフくんも私も並の吸血鬼には負けないけど、油断したら命取りになるわ。村ひとつが、丸々やられているかもしれないんだし。数の暴力っていうのは、ちょっとした恐怖よ」

「昔あったな、FPS風で迫り来るゾンビを撃って迎撃するゲーム。結構はまった時期もあったんだよな」

「あー、私、気持ち悪いの苦手だったからやってないわ」


 そんな昔話を混ぜつつ話をしているうちに、夜が更けていった。


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