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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第二章 少年時代(魔竜討伐編)
14/49

フラン到着、そして再会

 トリが服を着替えてしばらくの間、旅の途中で出会った人たちに可愛いと言われていた。実際に黙って座っていると可愛らしいのだが、トリが乱暴な口調で言い返しては、相手の目を丸くさせていた。

 すぐに、見かねたシフがトリをたしなめる。


「トリ、相手がびっくりするからさ、俺に任せておいてよ。言い返すのも面倒だろ?」

「いいけど、嘘を言うのはやめろよ」

「大丈夫だって。上手くごまかすから」


 そんな会話をしながら旅を続ける。人との会話に慣れていないだの、口下手だの言ってごまかすと、大抵は笑って済む。稀に絡んでくる輩もいたが、その時はシフが腕力にものを言わせて対処した。

 途中の時々で野盗が出たり、魔物を退治したりしながらも、馬のおかげで一ヶ月足らずで目的地のフランに到着した。


「やっと着いた」


 予定より随分と早かったが、シフとしては記憶が戻ってから七年くらい待たされた気分だ。

 フランの町は、これまで通ったどの町よりも規模が大きく、単独で都市国家と言っても信じてしまうくらいだ。おそらく、煉瓦造りの外壁を一周回るだけで、徒歩だと一日以上かかるだろう。

 当然、町を出入りする人も多く、シフたちは長蛇の列を作っている受付に並ぶ。

 馬車と徒歩や馬に分かれていて、馬車の方が列は短いが、一人に対する時間は相当長い。


「魔竜にやられたって聞いていたけど、本当に大した問題は起きてないみたいだな」


 シフが平和そうな町を見ながらつぶやく。すると、前に並んでいた若夫婦が振り向いた。


「あんた旅人かい? 魔竜が襲ってきた時に、ちょうどケラシーヤ様がいらっしゃってね。魔竜は通りがかりにブレスを吐いただけなんだけど、ケラシーヤ様が守ってくださったのさ」

「そんな真似ができるの?」

「それができるのは世界広しと言えどケラシーヤ様くらいのものだね。魔竜が何を考えてるかなんて解らないけど、ブレスの一発で去っていったから、被害は最小限で済んだんだよ」


 当然と言えば当然だが、六歌仙の生き残りは凄く敬われているらしい。早く会いたいと思う気持ちを抑えつつ、そのまま若夫婦と雑談をしながら受付までの時間を潰した。



「長かった……」


 並んでいる途中からうんざりした顔をしていたトリが、受付を終えて大通りを歩きながらつぶやいた。

 シフは前世の影響か本来の気質か、行列をあまり苦にした様子もなく、トリの様子を気遣っている。


「長旅の疲れもあるし、早めに宿を取ろうか。俺はその後出かけるけど、トリは宿で寝てたらいいさ」

「んー、そうする」


 野盗が出た時に逆に追いはぎしたり、退治した魔物の報酬などで、それなりに稼ぎながらの旅路だった。おかげで、宿にも気兼ねなく泊まれる。

 それでも別の部屋を取るのはトリに無駄遣い扱いされて、シフとトリは二人部屋を取っている。

 大通りに面した、馬小屋も完備している宿を選択して中に入る。店員と話をして、空いているようなのですぐに部屋を取って荷物を置いた。


「じゃあ、ちょっと行ってくるわ」

「おう。兄貴なら問題ないと思うけど、一応気をつけろよ。俺は寝てるから」

「寝る前に風呂入れ。せっかく風呂付きの宿なんだからさ」

「んー」


 トリは、普段は快活に返事をするが、考え事をしていたり嫌だったりすると、返事が間延びする。本人は気付いていないが、シフとしては解りやすいので指摘していない。


「嫌でも入れよ。泥が付いたまま寝転がると、せっかく入ってもまた汚れるからな」

「解ってるって。兄貴はうるさいなぁ」


 シフの言葉に、トリの機嫌が目に見えて悪くなる。裏表のない性格は、見ていて微笑ましい。トリの文句を適当にあしらいながら、シフは部屋を出た。


「さて、六歌仙の本拠地に行けば会えるかな」


 シフは宿を出て、道すがら目的地を尋ねて歩く。


「あの、六歌仙の本拠地ってどこにあるか知ってますか?」

「そりゃ知ってるけど、あんた、流れの傭兵……にしてはひょろいねえ。依頼かい?」

「村を出てきて、傭兵になろうと思って」


 声をかけた相手はじろじろと上から下までシフを眺めて、心配そうに気遣ってきた。


「まあ、とりあえず言ってみれば良いさ。傭兵団とはいえ、今では国を管理している存在だからね。誰でも団員になれるわけじゃないから、落ちたとしても落ち込まないこったね」

「はあ、どうも」


 シフは適当に相づちを返して、教えられた場所へ向かった。



 到着すると、周りと比べても一段と高く、五階建てくらいだろうか、石造りでがっしりとした外観はまさに熟練の傭兵団に相応しい重厚な雰囲気だ。

 ちらりと掲げられている旗を見ると、日本語で『六歌仙』と洒落た字体で書かれている。

 入り口付近で建物を眺めていると、通りがかりの二十前後の男に声をかけられた。


「坊主、六歌仙に用か?」

「あっ、はい。傭兵の登録をしたくて……」

「はぁん? お前が?」


 男は値踏みするようにシフを見て、小さく肩をすくめる。今日はやたらと見られる日だなと思いながら、シフは黙って男の反応を待つ。


「俺も六歌仙の一員だからよ、試験を通ってお前が入ったら先輩ってわけだ。ま、せいぜい頑張りな」

「はい、頑張ります」


 シフは男に続いて建物の中に入る。石造りの外観と打って変わって、床や壁は木で作られている。

 中は大勢の人がいて、明らかに傭兵然とした者、依頼をしに来た者、職員などでごった返している。町自体も活気はあったが、建物の中でこれだけ活気があるのは前世以来かもしれない。

 内心で圧倒されつつ周りを見渡していると、男がぽんと肩を叩いてきた。


「二階に新規の受付があるからそっちに行け。俺ぁ受けていた依頼の完了報告だからよ」


 好き勝手に言いたいことだけ言って、男は立ち去っていった。シフは言われた通り二階に上がる。

 二階は一階ほど混雑しておらず、人もまばらだ。

 案内板を見ると、新規加入の受付窓口が見つかる。


「あの、加入の申し込みをしたいのですけど」


 シフは受付に座っているおっとりした猫耳の少女に声をかけた。少女はシフを見て、にこりと微笑む。


「はい、初めまして。傭兵団への加入ですね。希望の配属は?」

「配属?」


 配属があるとは聞いていない。シフが質問すると、少女は説明をし始めた。


「ええ。魔物退治を基本とした討伐隊、町中での仕事を基本とした治安隊、ここで仕事をする内勤隊、国政の手伝いをする政治隊。もっとも、政治隊だけは貴族かその紹介がないと配属されませんけど」


 シフなら、討伐隊が一番合っているだろう。ただ、治安隊というのも気になる。


「治安って、いわば衛兵みたいなもの?」

「そう思ってもらって構いませんわ。政治隊はいつまであるか解らないし、緊急時には別の部隊に応援に行くこともあります。私も、普段は討伐隊なんですけど、年末の人手不足で内勤やってますし」


 猫耳なので、種族はストレイキャットだ。サクヤがゲームで選んでいた種族。もっとも、目の前の少女はサクヤに比べて幾分おとなしそうだ。

 それでも討伐隊というからには、相応の戦闘能力はあるのだろう。


「希望を言えば通るんですか?」

「まず適正を見て、問題なければ通ります。例えば討伐隊を希望して戦闘能力に問題があっても、筆記で良い成績を残したら内勤隊で採用する例もありますわ」


 一通り説明を受けて、試験を依頼する。話によると十日に一回試験があり、費用も必要だそうだ。


「今なら三日後ですね。朝の九時にもう一度ここに来てもらえますか?」

「解りました。あの、話は変わるんですが……」


 名前や出身地を受付用紙に記載して渡して、処理が終わった後、シフは意を決して目の前の少女にケラシーヤについて問いかけた。


「今の団長って、ケラシーヤ……さん、ですか?」

「……それが何か?」

「えっと、ケラシーヤさんに会ったりできる機会ってあるのかな、って思って」


 今までの愛想良さが一転して、胡散臭そうな者を見る目に変わる。


「ケラシーヤ様にお会いする機会なんて、普通はないですが。政治隊だと直接話す機会も多いでしょうね」


 政治隊は無理ですけど、と冷たくあしらわれる。何とか会って話ができないかと考えるシフに、入り口で出会った男が声をかけてきた。


「よう、坊主。受付終わったか?」

「あ、さっきの。ええ、終わりました」

「んで、なんでミーアの姉ちゃんは険しい顔してんだ?」


 男の声に、ミーアと呼ばれた少女は輝くような笑顔を浮かべる。


「あ、ゲルハルトさん。討伐終わったんですか? お疲れ様です」

「それで坊主がなんか無茶でも言ったのか?」

「いえ、それが……」


 男、ゲルハルトとミーアでこそこそと話をしている。シフが話し終わるのを待っていると、ゲルハルトが振り向いてシフを見る。


「お前、ケラシーヤ様に会ってどうすんの?」

「その、もしかしたら知り合いかもって思って」

「お前が? ケラシーヤ様と? どういう繋がりだよ」


 ありえねえ、と言われては返す言葉もない。


「しかも、今のケラシーヤ様の立場も知らねえんだろ? それでよく知り合いかもなんて言えるよな」


 理由を言えないとはいえ、あまりに馬鹿にした口調で、シフも少しだけ腹が立ってくる。何か反撃の機会がないかと考えていると、ミーアがぼそりと呟いた。


「せめて旗に書かれた模様の意味が解るとか、何かあれば話もしやすいんですけど」

「旗? 掲げられている旗の文字、読めたらいいんですか?」

「はぁ? 旗って、あの記号がかかれた奴だろ? あれが文字なわけねえじゃん」

「シフさん」


 ゲルハルトを遮って、ミーアが話しかけてくる。先ほどまでのおっとりとした態度と一転して、鋭い眼差しをしている。


「あれがなんと書かれているか、言ってみてもらえますか? できれば、何文字目が何か、というのと合わせて」

「ああ、はい。一文字目が『ろく』、二文字目が『か』、三文字目が『せん』で、ろくは読み方が変化して『ろっかせん』ですよね」


 何を言ってるんだ、というゲルハルトの視線を無視しつつシフが説明をすると、ミーアは深いため息を漏らした。


「偶然ですけど、私が今日の担当で良かったのかもしれません。それで、あなたのお名前は?」

「え? シフって書いたけど」

「そうではなく。知り合いだとおっしゃるのなら、ケラシーヤ様にお伝えしたい、あなたのお名前はないのですか?」


 通じた、とシフは直感する。なぜミーアが理解できているのか解らないが、ちゃんとケラシーヤまで伝わるだろうという実感。


「ライデン。ライデンが会いに来たって言ってください」

「承知いたしました」


 その後、泊まっている宿を伝えて、会話から取り残されたゲルハルトの対処もミーアに任せて、シフは適当な食べ物を買い込んで宿へと戻った。



「お帰り」


 部屋に入ると、すでに風呂を済ませていたトリに出迎えてもらった。シフを待っていたというより、シフが持っている食べ物を待っていたようで目が袋に向けられている。


「ただいま。これ、買ってきたから食べよう。六歌仙の入団試験が三日後らしいから、明日から二日ほど、観光でもして回ろうか」

「観光? なにそれ」


 これまで旅をしていても、トリは娯楽に類するものを一切知らなかった。

 葉っぱに文字を書いて裏返し、交互に二枚ずつ当てていく記憶頼りの絵合わせや、交互に言葉を言い合って間違うまで続ける言葉遊びを教えると、しばらく夢中になっていたのだ。

 人数が多ければもっと色々と教えられるのだが、二人だけで、しかも移動しながらなので大して教えられなかった。それでも教えた遊びは全て理解して楽しんでいたから、それなりに知能は高いのだろう。



「観光ってのは、そうだな。例えばトリが生まれた町とこの町で様子は全然違うだろ? その違いを楽しむために町を散策するって感じだな」

「ふうん。とりあえず兄貴に任せるよ。ところで、兄貴が傭兵団に入ったら、俺は何をしたらいい?」


 旅の間はともかく、この町でしばらく過ごすのなら、シフに養われるだけではいけないとトリは思っているらしい。子どもが細かいことを気にするなと言っても、話をそらせない。仕方がなくシフはトリにできそうな仕事を提案する。


「どこかの店で下働きするとか、かなぁ。何にしても、その乱暴な口調だと接客は無理だよな」

「うっさいなあ。言葉遣いくらい、徐々に覚えるよ」


 どうだか、とからかって遊びつつ、夜が更けてきたので、これまでの旅で疲れているのもあり、明日に備えて早めに就寝した。



 翌日、シフが目が覚めるのと前後して、部屋の外から扉を叩く音がした。


「おい、シフさん。起きてるか」

「ん、連れが寝てるから静かにね」


 声が昨日の店員だったので、シフは警戒せずに扉を開く。すると、扉の向こうには店員と一緒に、厳つい背の低い男と、ひょろりと一見して学者肌と解る男が待っていた。


「あー、おはようございます」

「おはよう、シフ殿。お連れの方が寝ているのでしたら、下で話をした方がよろしいかな」

「そうですね、できれば」


 ひょろりとした男が話し出す。背の低い男は、どうやら護衛のようだ。シフは首を縦に振って一階へと連れだって歩く。

 空いている席に座り、店員に飲み物を用意してもらうよう依頼する。


「さて、私たちが来た理由はお解りと存じますが、一応自己紹介をさせていただきます。私は六歌仙政治部の責任者をしております、ゼロと申します。こちらは護衛で治安部所属のガスト」

「ゼロ?」

「はい。それが何か?」

「いえ、失礼しました。私は六歌仙の加入志願者で、シフと申します」


 シフの挨拶でゼロと名乗った男は大きく頷き、本題を持ち出す。


「なるほど。書類にあった通りの育ちにしては、丁寧な言葉遣いですね。それで、ケラシーヤ様と会いたいと言っておられましたが、何のために?」

「約束を守るために」

「約束? どのような?」


 ゼロは値踏みするような目をしたまま、内容を聞いてくる。代理で来た者に伝える気がないシフは首を横に振る。


「あなたに言っても理解してもらえないと思います。直接本人と話がしたいです」

「ふむ、ですが……」


 ゼロが困ったように話し始めた時、宿屋の扉が勢いよく開く。


「ゼロ! 抜け駆け禁止って言ったでしょう」


 入ってきたのは、一人のエルフ。燃え上がるような赤い髪に、茶色の混ざっていない真っ黒な瞳。それに非常に整った顔立ちにエルフにしては立派な胸元と、目を引く要素は満載だ。実際、シフも目を離せなくなってしまう。


「いや、抜け駆けではなく。本物かどうか不明な上に、もしまた危害を加える輩だったらどうします」

「私より防御力が高い存在が、この町にいるとでも?」


 ぐっと言葉に詰まったゼロを放置して、エルフの女性はシフに目を向ける。


「で、あなたがシフで、ライデン? 証拠は?」


 リラーってこんな性格だったかなぁ、などと思いながら、シフは口を開く。


「場所、変えない?」


 今更ではあるが、エルフ女性の登場で宿屋中の視線を一身に浴びるのがいたたまれなくなって、シフが提案して皆が乗った。そこかしこからゼロ様が、ケラシーヤ様がと聞こえてくるので、エルフの女性がケラシーヤなのは間違いないだろう。


「とりあえず、本部に行こう。お連れさんいるだっけ? その人も連れてきなさい」


 ケラシーヤの言葉に頷き、部屋に戻ろうとすると、階段の上から覗いている人の中にトリの姿が見えた。


「トリ、これから出かけるから、準備して」

「お、おう。兄貴って本当に知り合いなのか?」

「まあな」


 接点が解んねえとつぶやきながら用意をするトリに、シフは申し訳ない気持ちになる。今生の接点ではないので、解りようがないのだ。


「お待たせしました」


 準備を終えて宿屋の外に出ると、二頭立ての立派な馬車が止まっている。

 躊躇するシフとトリを乗るように促し、ケラシーヤたち三人が後から乗る。

 馬車が動き出すと同時に、ケラシーヤが話し出した。


「ちょっと解らないと思うけど、ごめんね」


 トリに一声詫びてから、シフに対して地球の言葉で話し出した。


『さて。シフでライデンと名乗った少年よ。証拠はあるの?』

『証拠って、例えば今俺がこの言葉を話してるのは証拠にならねえ?』


 はんと鼻を鳴らして、ケラシーヤが手を横に振る。


『話にならない。あのねえ。私はこれで百年以上生きてるの。その間、他に転生者がいなかったとでも? しかも、あなたみたいなライデンが転生失敗したと知って偽る奴もいたの。前は少しの間騙されたけど、同じ手が通用すると思ったの?』


 色々と寝耳に水だが、シフとしては確認しておきたい最重要項目がひとつある。


『そういえば、転生する時に第二陣以降がどうこう、って言われてたな。それと、お前に色々と鬱憤が溜まってるみたいなのは解った。俺が何か手伝えるようなら手伝うよ。それで質問なんだけど、お前ってリラー、だよな?』

『白々しい。本当に白々しい。とぼけたふりして当たり前の確認してくるなんて、詐欺の常套手段よ』

『いや、能力だけ聞いた話じゃリラーだけどさ、話してみるとリラーっていうよりサクちゃんっぽかったから』

『……よく勉強してるのね。そうまでして騙して、あなたたち何が目的なの?』

『あなたたち? リラー、俺が偽物だと思うのはともかく、変にややこしく勘違いしてねえ?』


 今の話でシフが解ったことと言えば、過去にもライデンを名乗った人物がいたこと、地球側から何か仕掛けられていること、リラーからケラシーヤになって百年と少し、随分と性格も変わっていることくらいだ。

 もっとも、百年も経って老成するかと思いきや、真逆の方向に向かっている感もあるのは不思議なものだとシフは感心する。


『まあいいわ。着いてから、本物のライデンくんでないと解らない質問とかしてあげましょう』

『いいけど、お前百年以上前の記憶だろう、覚え間違いとかしてるんじゃねえの?』

『へえ。今から間違った時の言い訳? 心配しなくても、私は前世から記憶力が凄く良いの。普段から思い出す訳じゃないけど、くだらないやりとりなんかも覚えてるわ』

『へえ。じゃあドワーフでやっていた頃、鞭でPvPやって、相手から男のくせにお姉ドワーフって言われたのも覚えてるんだ?』

『よりによって……そんなくだらないネタをよく引っ張ってきたわね。何よ、ライデンくんなんか一時期爆弾造りにはまったせいで、歩く火薬庫なんて言われてたくせに』

『あったな、そんなのも。そういやさ……』


 シフはケラシーヤと昔話に華を咲かせていると、ゼロから声がかかる。


「着きましたよ」


 一行が馬車から降りると、非常に大きな屋敷の玄関が待ち構えていた。

 促されて中に入り、しばらく応接室で待つよう言い渡される。応接室で、トリが小声でシフに質問する。


「さっき話していたの、あれ何?」

「えっと、別の国の言葉」

「ふうん。他の兄ちゃんも解ってなかったみたいだし、なんでそんなの話せるんだ?」

「色々あるんだよ」


 トリの追求をごまかしながら、周りを見る。

 座っている椅子も柔らかく、手すりの木も丁寧に型が取られており、高級感がにじみ出ている。かけられた絵も花を生けてある花瓶も素晴らしい出来映えで、相当なお金がかかっているだろう。


「お待たせしました。シフさん、悪いのだけれど一人で来てもらえますか。そちらの方は、もう少しここでお待ちを」


 待たされてばっかだと愚痴るトリに謝りながら、シフは立ち上がりケラシーヤの後を歩く。

 最上階の五階まで階段を上がり、ひときわ立派な両開きの扉へと向かう。扉の両脇にはそれぞれ一名ずつ陣取っており、ケラシーヤがたどり着くまでに、通れるように扉をゆっくりと引いた。


「ありがとう。扉を閉めたら、しばらく席を外してちょうだい」

「はっ、かしこまりました」


 ケラシーヤは部屋に入り、奥にある豪勢な執務机にもたれかかって、シフにも入るよう促す。言われるままに入り、扉が閉まるのを確認してから質問をぶつけた。


「なあ、俺が本物かどうか試すんじゃなかったの?」

「ライデンくん……いえ、シフくんね。来る途中の問答で、本人でないと知り得ない情報を話していたわ。だから、本物に間違いないと判断したの」


 シフは全然気付かなかったが、どうやら無駄話ではなく試されていたらしい。


「そっか。まあ、信じてくれたんならそれでいいんだけど」

「なんで今なの? なんで、百年も遅れて……」


 なじるような、怒っているような言い分だが、涙声では迫力も何もない。

 ぽろぽろと大粒の涙を隠そうともせず、ケラシーヤはゆっくりとシフに近づいてきて、そのまま抱きしめた。


「ちょ、え、リラー」


 わたわたと慌てるシフ。言葉にならないまま抱きしめる手を緩めず、ケラシーヤは泣き続けた。


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