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百年遅れの英雄譚  作者: すっとこどっこい
第二章 少年時代(魔竜討伐編)
13/49

フランへの旅路

 トリはシフの呼び方を兄貴と決めたらしい。

 馴染んだ様子で兄貴、兄貴と色々と話しかけてくる。トリは捕らえた獣や鳥のさばき方を知らないと言うので、シフが食べられるところ、食べられないが役に立つ皮や毛など、部位ごとの使い方を説明する。


「兄貴みたいに強かったら、町の外で働いたり、町でも仕事に就くの簡単なんだろうな」

「町に住んだことないから簡単かどうか解らないけど、生きていくだけなら、どうにでもなると思うぜ」

「俺、今からでも強くなれっかな?」


 トリも思うところがあるのだろう、獣をさばいた後、歩きながらぼそぼそと話を始める。

 シフも無下にあしらうのではなく、真剣に答えを返す。


「俺は、トリの年齢よりも小さな頃から鍛えてるからな。お前によほど才能があるってんでもない限り、あと三年やそこらで今の俺くらい強くはなれないよ」

「獲物を狩るのを見てたら凄いってのは解るけどさ、兄貴って、実際どれくらいの強さなんだ?」


 どう答えたものか、とシフは頭をひねる。力が倍加する『ヒーローブレイド』を持って生まれてきたのだと思っていたが、どうも動きも人並み以上だし、魔力消費すら人より少ない気がするのだ。

 村で鍛えるうちに、一般人の強さを逸脱したのは間違いないだろう。だが、ゲームをやっていた頃、最後の方の強さに比べてどの程度なのかは、ステータス画面が表示できるわけもない現状では知る方法がない。


「相当強いと思うけど、うーん、どう言えばいいかな……」


 シフはうまく説明できず、言葉を濁す。トリも聞き方が悪かったと判断したのか、質問を変えた。


「兄貴が村にいた頃にやっつけた奴で、一番強かったのって何?」

「ああ、それならポイズン・センティビートかな」

「何それ、ムカデ?」


 トリは知らなかったようで、首を傾げている。シフは簡潔に毒虫の説明をする。


「おう。胴回りが二メートルくらいあってな。異様に硬いのが面倒だった。毒液で大樹でも折れるほどだし、倒すのに時間がかかったぜ」

「へえ、そう。大きさは凄いけど、虫か……」


 トリはがっかりしたようで、しょんぼりと肩を落とす。

 シフは説明を続けるがトリに理解してもらえず、弱くはないがそれほどでもない、という評価を下されたようだ。



 それから数日後、シフの強さの片鱗をトリに見せる機会がやってきた。


「何か来る」


 シフが遠くを見ながら、つぶやいた。トリもシフが指を差した方向に目を向ける。


「馬に人が乗ってる。六頭くらい。二人で乗ってる奴もいるけど、何人だろう」

「んー? 兄貴、何も見えない……あ、あれか?」


 話しているうちに、トリの目にも何かが動いているのが見え始めた。かなり速度が出ているようで、見る間に大きくなってくる。


「あまり柄が良くない気がする。トリ、気をつけて」

「どう気をつけろってんだよ」

「あぁ、まあ変に挑発とかしないように」


 そして、馬に乗った連中がシフたちに気付いて近寄ってきた。近くまでくると詳細が解るが、不精髭やざんばら髪をそのままの状態に、格好も思い思いの鎧を着込んでいる。野盗という言葉がピタリとはまるような連中だ。合計八人。小柄な奴が二人乗りをしている。


「おう、坊主ども。お前らだけで旅をしてるのか?」

「ああ、それがどうかした?」


 十メートルほど離れた距離で、男たちがシフに声をかける。だみ声で若干聞き取りにくい。


「坊主だけの旅は大変だろう。俺たちが目的地まで連れて行ってやろうか?」


 予想外の言葉に、シフは小さく驚いた。人目もないし、早々に身ぐるみを履ぐかと思ったのだ。


「いや、俺たち別に困ってないから、気にしなくていいよ。親切にどうもね。じゃあ」


 言ってトリの手を取って歩きかけるが、男たちが待ったをかける。


「へへ、そう言うなよ。この先にゃあ魔物もいるし、たちの悪い連中だっているんだ」


 たちの悪い連中はお前たちだろうと思いながら、シフは笑顔で応じる。


「いや、俺は結構強いから大丈夫。野盗だろうが魔物だろうが、やっつけるから」

「お頭、こいつ生意気ですぜ。やっちゃいましょうや」


 話しかけてきたのがお頭らしい。だが、部下に気の短い奴がいると、せっかく何やら企んでいたのも水の泡だ。


「馬鹿野郎、せっかくの子ども二人なのに、怪我でもさせたら値打ちが下がっちまうじゃねえか」


 それを言ってしまうと、すべて台無しだ。


「あんたらが、たちの悪い野盗連中?」

「ふん。確かに生意気な奴だ。こいつは売れなそうだから殺すか。もう一人の方だけ捕らえるぞ」


 男たちは持っていた武器を取り出した。深く考えて演技をしていたわけではないらしい。

 シフはトリに下がっているよう指示して、弓を取り出した二人に向けてスリングで石を投げつけた。入れ違いで飛んできた矢は、手刀で叩き落す。

 あっけに取られた男たちに足早に近づき、腰から抜いた剣で足を斬って回る。二人ほど膝の皿付近を斬ったあたりで、ようやく慌てた様子で距離を取ろうとする。

 斬った二人は、馬から転げ落ちて、何やら騒いでいる。


「残り四人。どう、降参する?」

「うるせぇ! 貴様、よくも!」


 逆上したお頭が、あっさりシフの挑発に乗ってきた。馬で突進してくるのを避けて、少し先で方向転換する途中に手で石を投げて妨害して、馬の制御に気を取られた隙を狙って『兜割り』を叩き込む。

 切れ味は悪いが頑丈に作っている剣は、折れることなくお頭の頭蓋をかち割り、一撃で絶命した。

 その攻撃を見て、残った奴らは悲鳴を上げて逃げ出した。


「本当に強かったんだ」


 シフは逃げた者を追わず、残った連中も殺してしまう。

 見ていたトリは、少し顔を背けながら、シフに疑問を投げる。


「いやにあっさり殺すね」

「だって、足を斬られた状態で放っておいても死んじゃうだろう。ある意味、殺す方が楽かもよ」

「口減らしには嫌な顔をするし俺なんか助けるのに、こいつらの命を奪うのに躊躇しないし、よく解んねえ」


 トリの疑問も解らないわけではないが、シフも自身の考えによって動いている。


「口減らしは、親の都合で何も解ってない子どもを殺したり売ったりするんだろう。お前もまだ子どもだからな。大人だったら最初の倒れた時に放っておいたよ」

「子供じゃねえよ。ここじゃ無理だけど、町なら一人で生きていけるさ」

「泥棒やって? まともに生きられないのに、生意気言ってんじゃないよ」


 シフの諭すような物言いに、トリがむっと顔をしかめる。


「俺だって好きで泥棒やってたわけじゃねえよ」

「うん、だからな、そんなのしなくても生きていけるように何とかしてやるよ。もし、その後にこいつらみたいな真似をするなら、その時は容赦しないぜ」

「お、おう。生きていけるなら、好んで悪事なんかしたくねえから、大丈夫だ」


 でも、とトリが死体を見渡す。


「こいつら、どうするんだ? このまま野晒しか、埋葬するか。ついでに荷物も、死人にゃ必要ないと思うけど」

「ん、そうだな。放っておいて病気の元になったり魔物を呼び寄せてもまずいし、埋葬するか。金だけ頂戴して、荷物も一緒に埋めておこう」


 シフは手頃な木切れを使って穴を掘り、男たちを埋める。どうやって入手した金かを考えるとあまり手を付けたくないが、トリが増えたために、次の町で泊まる金も怪しい。

 トリはぼろ布を巻いているような格好だ。町に着いたらすぐに服を買う必要がある。

 野盗はあまり金を持っていなかったが、馬を入手できたのでシフは運が良かったと喜んだ。


「トリ、馬の乗り方は知ってるか?」

「知ってるわけねえじゃんか」


 ずっと町で暮らしていたトリは、馬に乗ったことなど一度もない。シフは一番元気が良さそうな馬を選び、鞍の位置を調整して、二人乗りをしていた馬のように並べて置く。

 あぶみに足を置いて一気に馬上へ上がる。


「ほら、手を出せ」

「う、うん」


 シフが手を出したのを見て、トリは恐る恐るシフの手を掴む。

 シフは力を入れて引っ張り上げて、自身の後ろに座らせた。


「大丈夫そうか?」

「うん。ははっ、高いな」

「気に入ったのならなによりだ。動かすぞ、しっかり掴まってろよ」


 ゆっくりと馬を歩かせると、トリは慌ててシフの腰にしがみつく。

 トリは女だが、残念ながら二人乗り特有の胸が押し付けられてドキドキするような事態にはならない。もっとも、シフは前世を含めてそんな経験はしていない。


「もうちょい速くても大丈夫だぜ」


 トリは馬に乗れて嬉しいのか、普段より明るい声を出している。

 夜は大変だろうが、シフはトリの言葉に従って速度を上げる。もっと速くと急かすトリに、馬も疲れるからと自重するシフ。

 徒歩に比べてゆうに数倍の速度が出ており、あっという間に次の町に到着した。



 シフは門で衛兵に野盗を退治したと伝えて、トリは野盗に捕まっていたと説明する。そのせいでぼろ布を身につけており、この町で服を買ってあげるのだと言う。

 衛兵に安い服屋を紹介してもらい、宿を取る前に服屋へと向かった。


「いらっしゃい。ん、ガキか」


 中にいた店の親父が、入ってきたシフたちを見て、あからさまにがっかりした声を出す。すると、シフが反論するより先に、少し離れた場所にいた十代後半くらいの少女が親父の頭を叩いた。


「子どもでもお客様よ。父さん、接客は駄目なんだから、引っ込んでて」

「いや、でもよ……」

「いいから。えっと、お見苦しいところをお見せしてしまいすみません。いらっしゃいませ、お客様」


 親父はグイグイと店の奥に押されて出ていき、残った少女が笑顔で応対してくる。

 そのやりとりに、トリは目を丸くしている。


「ああ、この子の服を見繕いたいんだが、ちょうど良い大きさのあるかな?」

「はい、えっと、坊やは九歳くらいかな? 大きさが合うので気に入ったのがなければ、寸法合わせをしてあげるからねー」


 少女はしゃがんでトリと目線の高さを合わせながら、見た目から年齢を推測する。

 途端にトリの機嫌が悪くなり、シフは思わず吹き出した。


「くっくっ、ごめん。はじめに説明しなきゃ駄目だったね。この子、トリっていうんだけど、これでも女の子なんだ。それで、年齢は十二歳」


 少女は驚きの声を漏らす。トリがふて腐れた様子でそっぽを向くと、少女はゆっくりと身を起こした。


「へえぇ。女の子だったんだ。ごめんなさい。あなた、この子の保護者ですか?」

「うん、シフっていうんだ。まあ一応、保護者ってことになるかな?」

「そう。私はユウネ。よろしくお願いします。それで、服は当然ですけれど、もうちょっと小綺麗な格好にした方が良いと思います」

「そうだね。この子、一つ前の町を出てから会った野盗に捕まっててね。助けたところなんだ」


 元々泥棒だったというより、この方が問題は起きにくい。案の定、ユウネも痛ましげな顔つきでトリを見る。


「そうだったの。苦労したのね。少し時間はありますか?」

「どこかで宿を取るけど、その後なら大丈夫」

「そう。じゃあ宿で荷物を置いたら、この子貸してくれますか? あ、服代と合わせて、ご予算はいかほど?」


 トリが何とも言えない顔になっているのを無視して、シフはユウネの質問に野盗から奪った金のうち、およそ半分を提示する。大した額ではないが、服の数着分くらいはあるだろう。


「それじゃ足りない?」

「いえいえ、大丈夫です。じゃあ、こちらも準備するから、また後でお越しくださいませ」



 店を出てから、トリがぼそりとつぶやく。


「変な店」

「ん、どこが?」

「俺みたいな奴にも丁寧な態度でさ。なんか裏でもあるんじゃねえか。ちょろそうと思われて、根こそぎ金を使わせようってんかもな」


 シフはトリの言い分に首を傾げる。


「どうした、何か機嫌が悪そうだな。さっき年齢を間違えられたの、そんなに嫌だったのか?」

「そんなんじゃねえよ。あぁ、もう。宿に行くんだろ、さっさと歩けよ」


 トリはシフの太もも辺りをぺしぺしと叩いて、歩くよう促す。言われるまでもなく歩き出して、目についた安宿に入った。

 受付に若い男がいて、シフたちを見て小さくいらっしゃいと声をかけてくる。シフが空いているか聞くと、問題ないと回答があった。


「じゃあ、二部屋頼むわ」

「え、二部屋?」


 トリが驚いてシフを見上げてくる。


「ん、なんかおかしいか?」

「もったいねえだろ、一部屋で充分だ」

「そう? トリがいいならいいけど」


 一部屋で言い直し、部屋に荷物を置く。荷物の管理は完全に自己責任なので、もし紛失しても問題がないように、大事な物は身に付けている。

 異様に重くて使いにくいナイフ、獣の皮をなめして作った専用のスリング。他にもシフにとって便利な、それでいて他の人には使いどころの困るものを残して、シフは宿を出て先ほどの服屋に戻る。


「いらっしゃい……おう、あんたらか。ユウネが裏で待ってるから入れ」


 店に入ると、親父がちょいちょいと店の奥を指し示す。言われた通りに入っていくと、服がたくさん置かれた場所で、さらに奥からユウネの声が聞こえてきた。


「あ、来ました? こちらへどうぞ」


 シフたちが声の方へ向かうと、ユウネが桶に湯を用意していた。


「シフさんは表に戻ってもらえますか? トリちゃんを洗ってあげようと思いまして」

「ああ、うん。そうだね、お願いします」


 ユウネはトリを洗うためのお湯を用意している過程で暑くなったのだろう、手足が剥き出しの薄着をしており、見ていて非常に寒そうだ。

 シフは表の店に戻り、親父と世間話をしながら時間を潰す。当然ながらシフが住んでいた村よりも情報が早く、フランが魔竜に襲われた件も、被害はかなり小さいとの話だった。

 被害の大きさで解るものでもないが、リラーが無事な可能性は上がったのではないか、とシフは考える。



 そうしているうちに、ユウネがトリを引っ張って戻ってきた。トリは何やらユウネの後ろに隠れている。


「お待たせしました。ほら、可愛らしく仕上がりましたよ」


 言いながら、自慢するようにトリを前に押し出す。トリは抵抗していたが、渋々といった風情でユウネの後ろから出てきた。


「えっと、トリ、だよね」

「そうだよ。なんか悪いか」

「いや、悪くないよ。可愛い。似合ってるよ」


 トリは太ももまで隠れる赤いチュニックに、白いパンツが足首までを覆っている。

 そして何より、灰色がかった髪が赤みがかった黒髪へと変化を遂げている。よほど長い期間、放ったままにしていたのだろう。後ろ髪が腰近くまでボサボサに伸びていたのを、胸元程度まで切り揃えている。前髪も目が隠れるのを鬱陶しそうにしていたが、目も眉毛も見えるくらいになっていた。

 髪と服装も合っていて、活発な印象を与えている。


「嘘つけ、可愛いわけがあるか」

「あら、トリちゃん可愛いわよ。ねえ、父さんもそう思うでしょう?」

「いいんじゃないか」


 親父の声が、シフには棒読みに聞こえる。しかし、トリの見た目が良くなっているのは間違いないので、シフが機嫌を損ねないように注意しながら褒めた。


「それに、洗ってもらってさっぱりしただろ。ぼろ布を着てるより、清潔感もあっていいしな」

「まあ確かに、頭は凄く楽になったけどよ」

「じゃあ、それでいいじゃん」


 そんな会話をしながら、替えの肌着なども含めて、言っていた金額を支払う。その後も少し世間話をして、シフとトリは宿に戻った。



 部屋に入り、道中で採って保存しておいた木の実や肉を食べる。


「なあ、狩りで食べ物が確保できるなら、町に寄る必要はないんじゃねえか?」

「そんなわけにもいかないよ。町でなきゃ手に入らない物もあるし、せっかく旅してるんだからさ、町に入らなきゃもったいないじゃん。馬も手に入ってこれから移動速度も上がるし、寄り道ってほどでもないしさ」

「いいけどさ、無駄に金を使ってるように思ったからさ」


 服とか宿とか、と言うトリに、シフが待ったをかける。


「でも、服を変えられて良かっただろ。宿はまあ、たまにはいいじゃん。俺は野宿より、ちゃんとした寝台の方が寝やすいよ」

「今までこんな服着たことなかったけどな。まあ、悪くはないかな」


 自らの格好をちらりと見下ろし、替えの服にも少し視線を向けて、僅かに微笑む。贅沢どころか生きるか死ぬかという生活だったせいだろう、金のかかった格好をするのに戸惑いもあるようだ。


「それに、冬は凍えて死んだり、死なないまでも手足が凍傷でやられるかもしれないからね。暖かい格好は大事だよ」


 寒さが厳しいのも、身に染みて解っているのだろう、トリは大きく頷いて納得している。

 そして食べ終えて、明日に備えて寝台に潜り込む。その際、買った服は傷みにくいように脱いでいる。明かりを消して少し経ってから、トリが小さく呟いた。


「兄貴、ありがとな。いつか、できるようになったらお礼するから」

「子どもが細かいこと気にすんな。いいから寝ろよ、明日も早くから出るんだからな」


 今までシフはエレイナに甘える機会が多かったが、妹がいたらこんな感じだったのかなと少し嬉しくなる。

 フランまではまだ少し距離があるものの、一人旅に比べて気持ちに余裕が生まれているので、シフこそトリに礼を言いたい気になっていた。もちろん、礼なんかを言ってもトリは解らないか、もしかすると怒り出すかもしれないので、シフはそれには触れず眠りについた。


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