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その答えを知るためならば、《死神》と取引することも厭わない。


《最後の竜》の復讐は終わった。


ここから先はその後の話。



申し訳ねぇ……。

島田、発熱しました。最近寒くなって体力落ちてきてんなと思って注意してたのに、やっちまったですよ……。

どんぐらいで治るか分からんので、一応ご報告。

次の更新までは予約済みなので、最後の更新は気長にお待ちくださると幸いです。よろしくどうぞm(_ _)m


 




 《創世の神竜》が支配する《第八神域》では、神域全体の輪廻転生を担う世界と神が存在する。


 それが《冥界》。死んだ魂が辿り着く世界。

 そして……《死神》と呼ばれる神が死んだ魂を綺麗に浄化(の記憶を消去)し、浄化された魂を輪廻転生の輪に送り出し、新たな命として生まれ変わらせていた。


 普段、基本的に《冥界》には《死神》以外の存在はいない。ここにあるのは生まれ変わりを待つ死んだ魂だけだ。

 だがその日──……《死神》は想像を遥かに超えるジンブツの訪問──襲撃??──を受けることとなった。





「初めまして〜! という訳でアルの魂、返して!」

「ギャアッ!?!? なんだぁっ!?!?」


 糸車の前に座った、真っ黒なくま持ちの黒髪黒目の美丈夫──なお、疲労からか草臥くたびれている──が悲鳴をあげた。

 薄暗い神殿の中で、ふよふよと至る所を飛んでいた丸い光──魂がドカドカと入ってきたカルディアに蹴り散らされる。

 それを見た《死神》はひくりと頬を引き攣らせる。


(やばいやばいやばいっ……! コイツは神竜様の愛娘じゃねぇか!)


 《死神》も、まぁそれなりに古参の神だ。ゆえに実際に会うのは初めてだが……この、神でない癖に神よりも先に産まれた竜の存在ことは知っていた。

 …………あの、倫理観がぶっ飛んでる、最上位神なのに神として色々と終わってる──いや……神なんてどいつもこいつも破綻しているのだから、別に普通なのかもしれないが……──の特別製。自身の血肉から生み出した世界の破壊おわり再生はじまりを担う《根源竜》──こちらも神ではないのに、神より先に生まれているという意味不明さ──の次に作られた、竜の試作品(プロトタイプ)

 あの神竜が支配者をやっているだけあって……この神域に生まれ落ちる竜は大概が神竜の影響を受けてしまうのだが。《根源竜》とこの竜は特に、その影響が強い。つまり、他の竜達よりもはるっっかにヤバいレベルで、どこかしらがぶっ壊れている。狂っている。

 現にこうして。《冥界》にまで殴り込み(?)にきているぐらいだ。カルディアの頭のおかしさに……《死神》は頭痛を覚えずにはいられなかった。


「ねぇ〜? 聞いてる〜? アルの魂返して〜?」

「……いや、あの。いきなりそう言われてもな? 何が何だか分からんのよ。どういうことよ」

「神様なのに分からないの?」

「神様でも分かんないことあんのよ!?」

「仕方ないなぁ〜……あのね? 私の眷属が殺されたの。でも、死ぬ直前にすっごい答えを聞きたいことを言われちゃってね? 答えを聞きたいから、生き返らせたいの」


 …………《死神》は頭を抱えた。

 ……やっぱり、神竜の特別製なだけあって……だいぶイかれたことを言ってきた。

 生き返らせたい? そんなの、できるはずがないじゃないか!


「無理。無理です。死んだら、生まれ変わるしかありません」

「え? やだ」

「やだじゃねぇーの! 死んだ魂はここに来る! で、魂の浄化(記憶の消去)を受けて輪廻転生を! そういうルールなの! 無理なモンは無理!」

「じゃあ、壊す」

「…………は??」


 ──ピタリッ。

 《死神》の動きが止まった。

 にっこりと、爛々とした瞳で微笑むカルディアの姿に。まさか、まさかと冷や汗が湧き上がる。


「ここは、死んだ魂がやってくる世界。輪廻転生を担う世界なんでしょ? なら、世界を壊しちゃえば……アルの魂、輪廻転生なんて、できなくなるよね?」

「っっ……!?!?」


 そんなことをされたら。この世界を破壊されたら、魂の循環は上手くいなくなる。死んだら終わり──……魂が、消滅してしまう。新たな命に生まれ変われなくなる。

 それを分かっているのか? 分かっていてこう言っているんだろう、この竜は!

 たった一つの魂のために、他の魂を犠牲にするつもりだなんて! 狂っている!


「止めろっ……止めろ! そんなことをしたら、無数の魂が! 消えてしまう!」

「なら、アルの魂を返して。まだ、輪廻転生の輪には入ってないでしょ? 死んだばっかりだもん」

「…………」


 死んだばかりだというのなら、確かにまだ、輪廻転生の輪には入っていないだろう。

 なんせ《死神》ヒトリでこの《第八神域》──無数に生まれては消える世界の魂の、輪廻転生を担っているので。不眠不休で働いたって、仕事が追いつかないのだ。何十年も転生を待っている魂が五万といる。

 けれど──……。


「認める、訳には……認める、訳にはっ……! たった一つの例外を許してしまったら、他の魂がっ……!」


 贔屓をするなんて許されるはずがない。特別扱いなんて許されない。どんな魂だろうが、平等に扱われなければならない。

 たった一度でも、生き返ることを許してしまえば。他の魂を許さない理由が、なくなってしまう。


「でも、ここで私に《冥界》を壊されたら……輪廻転生どころじゃなくなっちゃうと思うけどね?」


 だが、悔しいことに……カルディアの言う通りだった。

 この世界を破壊されたら。魂は全て、消滅してしまう。輪廻転生でどころの話ではなくなってしまう。


(一体、どうすれば──……)


 どう答えるのか正解なのか──……《死神》は呻き声を漏らす。

 しかし、そんな彼に……一筋の希望がもたらされた。

 …………いや。ある意味カルディアとは別口の、絶望だったかもしれないが。



「あっははは! 相変わらず真面目だなぁ。シッニー君は。言うこと聞かなきゃ世界を壊すぞって脅されたんだから、素直に応じりゃいいんだよ〜。あっはははは!」



「…………ゲェッ!?」


 《死神》は薄暗い神殿に入って来た〝ソイツ〟に頬を引きらせる。

 右が白、左が黒という……真ん中でピッタリと色が分かれた長髪に、ギラギラと輝く黄金の瞳。質素なブラウスにタイトスカート。更には白衣という……どこかの研究員を思わせるような格好をした美女は、ピンヒールの音を響かせながら二人の側までやって来る。

 側に来た美女を見たカルディアはきょとんと目を丸くするが……ハッと何かに気づくと。心の底から驚いた様子で、大きな声をあげるのだった。


「まさかっ……《創世の神竜(おとー)》様!?」

「おっとぉ? 気づいてなかったのかい、愛娘カルディア

「うん! だって、おとー様の女性型、初めて見たし! おとー様自身と会うの数百年? ん? 数千年? ぶりだし!  久しぶり過ぎて全然気づかなかったよ!」

「あっははは! 相変わらず素直だなぁ! まぁ、何はともあれ。元気にしてたかい? カルディア」

「うん、元気だよ。おとー様も元気そうでなにより〜」

「うんうん、わたしも元気だよ。やっぱり、生意気な息子(ラグナロク)よりも素直な娘(カルディア)の方が可愛いねぇ〜」


 にっこりと笑いながら、カルディアを撫で撫で猫可愛がりするこの美女こそが……《第八神域》の支配者である最上位神《創世の神竜》ウロボロス。

 《死神》は〝頭のおかしいぶっ壊れた神+狂った竜〟という最凶最悪コンビに……もう、どうしようもできないことを悟った。


「にしても、カルディアがその……なんだっけ? その竜」

「アル?」

「そうそう、アル君。君がそこまで、そのアル君に執着するのも珍しいねぇ。今までは死んだら、カルディアの好奇心もそこでおしまいじゃなかったかい?」


 …………神竜の言う通り、カルディアの好奇心はかな〜り気まぐれだ。今までであれば確かに、好奇心の対象が死んだら、そこで終わりだった。

 けれど──……。


「今までの竜生(じんせい)で初めてのことされちゃったから。アルが死んだのに、気になって仕方ないんだよ」

「初めて?」

「そう、初めて。弱い奴に守られちゃったの。利用しようとしてくるとか、されるんじゃなくて。ほんとーに命懸けで守られちゃったの。だからね? その理由を知りたくて知りたくて仕方ないな。私の方が強いって知ってるはずなのに、なんで守ったのか。アルに直接、聞きたい」


 …………気づいているだろうか? いや、きっと気づいていないのだろう。そう告げるカルディアの表情が……どこか、()()()()に。

 神竜は〝もしかして……〟と思いながら、問いかける。


「…………そんな些細な理由で、《冥界》を壊しちゃうのかい?」

「うん。だって、私が聞きたいのは〝アル〟からの答えだから」

「生まれ変わってしまったら、それはカルディアの求めるアル君ではなくなってしまうものね?」

「そう。だから、どーしてもアルの魂を、返して欲しいの」

「…………」


 神竜は愛娘に抱きついた。そしてそれはもう全力で撫でまくった。だって、可愛いのだもの。

 鈍感ゆえに。その気持ちが分からないがゆえに。その心に芽生え始めた気持ちに自覚がないのが更に可愛い。

 ……とはいえ、愛娘を取られるのは悔しいので。敢えて自覚させるようなことは言わないが。

 まぁ、それでも大切な愛娘なので。愛娘の幸せが第一なので。神竜は自分と同じように無自覚なカルディアを生温〜い目で見ている《死神》に声をかけた。


「《死神》」

「…………なんだ」

「一個だけ、例外があるだろ? 魂を、特別扱いする例外がさ」

「…………あ?? …………。……………………。………………あっ」


 そう言われた《死神》は暫く考え込むと……やっとその〝例外〟を思い出したのか、ハッと息を呑む。


「この子はいいジン材だと思うよ? なんせ自前で世界を渡れる力を持ってる。そして眷属の彼も同様。逃げた魂をとっ捕まえる役目を負わせたら、適任なんじゃあないかなぁ」

「あ〜……。あぁぁぁ〜……」

「生まれ変わっちゃったら眷属の繋がりも切れちゃうからねぇ。()()彼じゃないと、役には立たないだろうねぇ〜。だって生まれ変わったらもうその子はアル君じゃないから。カルディアが眷属契約を結ぶとは思えないし〜」

「うぅぅぅぅん〜……」


 《死神》は神竜の言いたいことを察して言葉に詰まる。

 先も言ったように……《第八神域》の生き物全ての輪廻転生を《死神》ただヒトリが担っている。そのため、輪廻の輪に乗るまでの間に……待ちきれなくなったり、生まれ変わることを恐れたり、未練なり何なりといった理由で、《冥界》から違う世界へと逃げ出す魂が出てきてしまうことがあるのだ。

 当然、肉体という魂を守る器がないのだから、魂は傷つき、劣化する。下手をすれば穢れ過ぎて〝()()()()()()〟に変質してしまい、逃亡先に悪影響──災厄を振り撒く──を出すこともある。

 そうならないように逃げ出した魂の回収も《死神》の仕事となっているのだが……。当然、逃げた魂を追うことになれば仕事に遅れる。で、遅れて仕事を挽回しようと頑張っているとまた違う魂に逃げられる……という大変、非効率的な悪循環に陥っていた。

 その魂の回収役を、世界を渡ることができる竜──カルディアに任せてはどうかと、神竜は言っているのだ。

 そしてそれは……神竜が提案した割には案外、悪くない提案であった。

 神竜が! 提案した割には!!


「…………シッニー君も分かってるだろ? この子は最強種である竜だ。回収率は確実に、百パーセント。今まで君がやってたことを代わりにやってくれるようになるから、君は転生だけに集中できるようになるって訳。案外、最高な案だと思うけどなぁ〜??」

「うぐぅぅぅぅぅぅうっっ……!!」


 カルディアはニンマリと笑う神竜と、唸る《死神》を交互に見つめる。

 どうやら、一つだけ。アルフォンスを取り戻す術があるらしい。

 カルディアはジッと。それはもう穴が空くんじゃないかってぐらいにジッと、《死神》を見つめる。

 その視線が堪えられなくなったのか……彼は大きな溜息を吐いて、カルディアに問いかけた。


「おい、神竜の愛娘」

「カルディア。《渡界の界竜》カルディアだよ。司るのは《界》」

「(…………うげぇ。だから、世界を渡れんのか……神竜の特別製ってのは伊達じゃねぇな……)えっと……カルディア。取引だ」

「…………?」


 ──きゅるり。

 カルディアの瞳孔が細まる。

 何かしたって訳でもされた訳でもなかったが……《死神》はビクリッと無意識に身体を震わせてしまう。それを見た神竜はクスクスと笑うが……《死神》は必要以上にビビったことを誤魔化すように、大きな咳払いをしてから改めて、本題を告げた。


「お前が、オレの部下──《死神の使徒》として、オレの下で働くなら。そのアルとかいう魂を返してやってもいい」

「!!」

「勿論、アルって奴もオレの使徒として働いてもらうが。それが受け入れら──」

「いいよ。《死神の使徒》、なってあげる」

「…………そうかい」


 即答だった。間髪入れずっていうのは、こういうことを言うのかもしれない。逆を返せば……それほど、この竜はその魂に執着しているということで。

 自覚がなさそうな感じでこれなのだから……《死神》は界竜が求める魂に同情を禁じ得なかった。

 だって自覚をしたら、もっと凄いことになりそうだろう?


「うんうん。取引は成立だね。《創世の神竜》ウロボロスが、見届けたよ」


 だからと言って、覆す気はない。こうして最上位神に見届けられてしまったことだし。反故にしたら、痛い目を見てしまう。


「……はぁ〜……仕方ねぇ。まずは見つけっとこから始めるか……」


 《死神》は大きな、それはもう大きな溜息を零してから、アルフォンスの魂をふよふよ浮いている光の塊達の中から見つけ出そうとする。

 が、その前に思い出す。


「そーいや……そのアルとかいう奴の肉体は──」

「あっ。あるよ?」

「あるんかい。いや、普通にある方が助かっけど」


 カルディアが時間を止めていた《箱庭》からアルフォンスの肉体を取り出す。

 《死神》は床に寝かされたアルフォンスの肉体の前にしゃがみ込むと、その胸に手を当てて魔力を込めた声を発する。


「《来い、来い。この肉体に呼応する魂よ。アル、アル。戻って来い》」

「アルの名前はアルフォンスだよ?」

「そーゆー大事なことは先に言っといてくんね!?!? 《アルフォンス、アルフォンス。戻って来い》!!」


 《死神》を中心に、魔力の声が広がっていく。永遠の夜が続く《冥界》全域に響き渡る。

 そして、《冥界》の端っこでふよふよと浮かびながら、雲一つない星空と満月を見上げていた魂がそれに反応を示す。

 光の粒は最初はゆっくりと、けれど徐々に飛ぶように《冥界》の中心──《死神》の神殿へと移動する。最後はもう、殆ど瞬間移動も同然の速度で。

 アルフォンスの肉体な上、《死神》の目の前にその魂が現れた瞬間──呼び出した本人がビクッとしながら、あまりにも速い到着にドン引きしたような声を、漏らした。


「……さ、流石は(生前)竜種……。死んでも他の魂と比べて動きが機敏だな……」

『…………あの?』

「そしてやっぱり流石は(生前)竜種……。死んだら魂を守る肉体うつわが失くなっから、言語機能とか直ぐに劣化してくはずなのに……まだ喋れんのか……スゲェな、最強種……」

『…………?』


 光の粒なのに、心底不思議そうにしている雰囲気が伝わってくる。

 そんな中、カルディアは《死神》を押し除けて彼に声をかける。


「アル」

『…………? …………!? カ、カルディアッ!?』

「うん」

『ちょ、なんでここに!? まさかお前も死んで──』

「死んだのはアルだけだよ。ただ、アルの答えを聞くためにここまで来ただけ」

『えっ!?!?』


 ──チカチカ、チカチカチカッ……。

 アルフォンスの魂が困惑を示すように明滅を繰り返す。

 《死神》は何故かは分からないが若干、気まずくなりながら二人の会話に割り込む。


「……とにかく。魂を戻すぞ。そいやっさっ!!」

「『!?』」


 《死神》がアルフォンスの魂を掴んだ。そしてそのまま思いっきり、彼の身体へと投げつける。

 あまりの暴挙(!?)に、カルディアは反射的に《死神》をブン殴ろうとしたが。

 その瞬間──肉体と魂が再び結びつき、アルフォンスは息を返す。


「っ……ブハッッッ!?!? ゴホゴホゴホッ……!!」

「ア、アル!? 大丈夫!?」

「ゲホゲホッ……はーはー……はぁ〜……。すまん、大丈夫だ。かなり、衝撃があったけど……うん。一応大丈夫だ」


 最初は激しく咳き込んだアルフォンスだったが、直ぐに調子を取り戻す。ついでに、魂状態ではよく見えていなかった──肉体がないので、五感なんかも徐々に劣化していた──周りの様子を確認する。

 黒髪黒目の草臥れた男性。白からの、だいぶ特徴的な髪色の美女。そして──……。


「カルディア……」

「アル。お帰り」

「……ただ、いま。カルディア」


 自身アルフォンスの主人。世界を渡る竜──カルディア。

 アルフォンスは彼女が生きていることに、ホッと、安堵の息を零す。


「…………あの。今は、どういう状況で?」


 色々と聞きたいことがあった。話したいことがあった。

 だが、今は現状を把握する方が先だろうと判断して問いかける。なんせ知らないヒトが二人もいたので。

 そんな彼からの問いに、神竜がにっこりと笑いながら答える。


「まぁ、色々と聞きたいことはあるだろうけれどね? 君が優先すべきはわたしの愛娘カルディアだ。だって君が蘇ったのは、この子が君からの答えを聞きたかったから──……なんだからね」

「? 答え?」

「そう! 教えて、アル! 私を守るために命を賭けたその理由を!」

「……………。」


 カルディアに問いかけられて……アルフォンスは暫く考え込む。

 そして、「あぁ」と納得したように頷くと……思いっきり、爆弾発言を、叩き落とした。


「カルディアのことが、好きだからだが? 結果的に命を落とすことになったが……ただ、好いた女を守りたかっただけだ」

「…………」


 あまりにも、ド直球(ストレート)な言葉に、カルディアが固まる。

 そのまま数十秒。固まっていた彼女は目をパチパチと瞬かせながら、こてんっと首を傾げた。


「……好き?」

「あぁ、カルディアが好きだ。恋愛的な意味で」

「恋愛的な意味で、好き」


 照らいも何もなく。〝ただ事実を言っているだけだが?〟と一切動じることのないアルフォンスと、(本人的には)思わぬ言葉に驚いている様子のカルディア。

 そんな、ちょっとむず痒くなる──かつ、カルディアの反応的にちょっと先行きが不安な……──やり取りをする二人を尻目に、神竜は《死神》に合図アイコンタクトを出し、彼を伴ってその場を後にする。

 後についてくる《死神》は、心底驚いたように呟いた。


「……驚いた。お前、色々終わってる癖によく空気読めたな。お前のことだから、最後までアイツらのやり取りを観察する──……出歯亀デバガメすっかと思ったぜ」

「そりゃあ観察して(見て)いたかったよ? あんなに動じるカルディア、初めて見たし。でも、流石に色恋ごとに深く関わんのは不躾だろーしねぇ?」

(不躾って概念、一応コイツも持っとったんか……)


 《死神》は、割と本気で驚いた。

 だって、家主(?)なのに空気を読んで神殿を出た自分と違って、神竜は空気を読むとか絶対無理だと思っていたからだ。少し前までの神竜だったならば絶対に、遠慮なく。不躾とか空気とか考えずに、ジィィ〜……と見続けたはず。


「それにさ?」

「?」

「こーゆーことは部外者が出しゃばるモンじゃないよ。詳しいことを知るのは当事者達だけで充分さ」

(…………。まともなことを! 言ってるだと!?)


 …………《死神》はビビるレベルで驚いた。

 本当に! まともなことを! 言ってやがるからだ! あの倫理観が終わって(以下略)な、()()神竜が!

 ……だがまあ、割と。自分達があの場に残らなかったのは正解だったと思う。

 だって……自分カルディアのために命を賭けて守る理由なんて殆ど一つ──好いた女を守るため──しかないというのに。本人にその理由をを問いただされるなんて。かな〜りの羞恥プレイだと思うので。

 …………いや。あのアルフォンスの堂々っぷりを考えると、案外彼にとっては羞恥プレイでもなんでもないかもしれないが。とにもかくにも。


「…………ま。なんだろーがアイツらの関係がどーなろーが……仲違いだけしなけりゃなんでもいーわ。これから永い付き合いになるってのに、ギクシャクされちゃあ面倒くせぇからな」


 ……どうせ、これからあのフタリは《死神じしん》のパシリとして永い永い刻を生きることになるのだから。拗れてなければなんでもいい。


「…………大丈夫だよ。あの子達は仲良くやるさ。もちろん、君ともね?」

「……ふぅん? 我らが主神のお墨付きとありゃあ、確かなんだろーな」

()()()()ね、シッニー君」

「…………」


 何故だろう。どうしてだろうか。〝頑張ってね〟なんて言われた所為か……奴らの所為でこれから、すっっっごく苦労する予感が、してしまった。


「早まったか……? オレ……」

「あっははははは! あっははははははははは!」

「…………」


 神竜の大きな笑い声。ある意味それが、答えみたいなモンである。


「やっぱ早まったかぁ……はぁ……」



 これからのことを思うと……神竜の愛娘と取引したことをちょっと後悔してしまう《死神》なのであった。





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― 新着の感想 ―
壊れた竜たちのシリーズ、好きすぎて何度も読み返してます( *´︶`*) ストーリーも深くて、世界観やキャラ達の性格とかも引き込まれる要因だなぁと感じます。 これからも続きも楽しみに正座待機しております…
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