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シーアンには身内がいない。すぐに荼毘に付したらしい。墓地に葬るところに、わたしは立ち合った。制服警官によって墓石の裏手にある共同の堂に彼女の骨は納められた。警官はミン刑事とわたしに敬礼をすると去っていった。礼儀正しいことである。
改めてミン刑事が合掌し、わたしもそれに倣った。
「シーアンは不幸だったのかね。どう思う?」
「客観的に観察するとそうなのかもしれません。ですけど、狼という存在に触れることで、また狼に思考を近付けることで、彼女は悦を得ていた」
「狼ってのは罪深いな」
「カリスマ、そしてアジテーターというのは、総じてそういうものでしょう?」
「どうあれ、この街の貴重な市民を、また失っちまった」
「シーアンも含めて、ですか?」
「そうだよ。彼女だって、かつては善良なニンゲンだったと思うからな」
「やっぱり、狼の影響力は認めざるを得ませんね」
「言ったぜ? 何度も何度も何度もよ。俺は狼がゆるせねーんだ。しかし、公安の連中も宣っていたことではあるが、確かにやっこさんは人類史上稀に見る殺人鬼なのかもしれねーな」
「ですけど、一人のニンゲンであることには違いありません」
「これは疑問なんだが」
「なんです?」
「シーアンは本当に狼と連絡を取り合っていなかったのかね」
「彼女は狼に会いたいと言っていました。嘘はないでしょう」
「そこんところについて、詰問を浴びせてやりたかったな」
「現時点における彼女の評価はコピーキャットですか?」
「その通りだよ。それ以外にどう処理すればいい?」
「それはわかりませんね」
「だろう?」
「ええ」
「おまえにお願いがある」
「なんでしょうか」
「ウチの連中に稽古をつけてやって欲しい」
「婦警さんにですか?」
「男にもだ。最近の若造は実に弱っちぃ。嘆かわしい限りさ」
「警察もわたしも、その他の人々も、いよいよ思い知る必要があると思います。力こそがすべてで、それこそがこの世における唯一の戒律だと」
「生憎、どいつもこいつもおまえみたいに強くできてねーんだよ」
「肝に銘じておくことくらいはできるでしょう?」
「だが、基本的に法とヒトを守るのは警察の仕事だ。そのへん、信じてもらうしかない」
ミン刑事は煙草の切っ先に火を灯すと身を翻し、歩み出した。
「また何か起きたら連絡する」
「了解しました」




