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ミン刑事が事務所を訪れた。コーヒーを振る舞うと、「いつも美味いな」と褒めてもらえた。
「『虎』の根城をご存じありませんか?」
「またいきなりだな。知ってるよ。むしろおまえが知らないのが不思議なくらいなんだが」
「どこなんですか?」
「街中だ。でも、中心部からは少し離れている」
「住所を教えていただけますか?」
「おいおい。やっこさんら相手に何をしでかそうっていうんだ?」
「クスリの件で話をつけたいんです。子供には売るなって」
「そんな理由で中に通してもらえると思うのか?」
「まあ、それはごもっともな意見ですけれど」
「ヤツらの組織はデカい。軽率に関わるべきじゃない」
「それは承知しています。だけど、そもそも警察はどうしてアジトに踏み込まないんですか?」
「軽々に突っ込めばこっちの被害も相当なもんになる」
「でも、いつか誰かがやらないと」
「そりゃそうだ。『四星』についても、俺は潰したいと思ってるよ。この街で幅をきかせている以上はな」
「優先すべきは『虎』ですよ。言いませんでしたっけ? クスリの売買については、『四星』と和解が成立したって。そうである以上、やっぱり真っ先に切り込まなければならない相手は『虎』なんです」
「それは理解できる話ではあるが」」
「どうしたら連中にぎゃふんと言わせられるでしょうか」
「おまえみたいな腕利きが何人もいれば、あるいは容易なのかもしれんな」
「厄介なのはやっぱりラオファですね」
「そうなる。以前、おまえが接敵するようなことがあれば殺ってもいいと言った覚えはあるが、何せヤバいニンゲンだ。そこでだ。ヤツには賞金をかけようかと考えている」
「賞金、ですか?」
「ああ。デッド・オア・アライヴだ。是非ともジョブキラーどもに狙いを定めてもらいたい」
「とはいえ、幻の殺し屋と呼ばれる女ですからね」
「そうだ。幻だ」
「でも、いくら幻だとは言っても、確かに存在するわけです。そして彼女だって一人のニンゲンです。駆逐することが不可能だとは言い切れません」
「そういう意気込みで仕事をするしかないな」
「気合いを入れて立ち向かいましょう」
「そうだな。気合いってのは大切だ。ところで、ビラはどうなってる?」
「ビラ? ああ、麻薬の撲滅を啓蒙しているビラのことですか?」
「効果はありそうか?」
「なさそうです。悲しいです」
「それでも続けることには意味がある。俺はそう思う」
「そうでしょうか?」
「一所懸命に配っていれば、いつかヒトの心に響くだろう」
「意外です。ミン刑事の口からそんな言葉が出てくるなんて」
「俺はこの街に、この世界に、それほど絶望しちゃいない。今度、束で持って来いよ。ウチの下っ端に配らせるから」
「ミン刑事も参加してください」
「やぶさかじゃねーよ」
「本当ですか?」
「おまえに頼まれちゃあ、嫌とは言えんからな」
「どうかお願いします」
「頭なんて下げなくていい。おまえがやっていることは、まったくもって正しいんだからな」
「ですけど、受け取ったそばから捨てられてしまうと、本当に凹みますよ?」
「繰り返しになる。それでもいいんだ。やっている行為が実らなかったとしても、やっていることに価値があるんだからな」




