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街中で、男と肩と肩とがぶつかった。こちらは半歩よけたのだから、向こうにも半歩よけてもらいたかった。なのに相手はチンピラよろしく絡んでくるだけ。非常識なヤツらしい。
「いてーな、ねーちゃんよぉ」
「わたしはちゃんとよけようとしたわ。まっすぐに歩いてきたそっちが悪いのよ。ところで、貴方はヤクザさん?」
「そうだよ」
「どこの組織のニンゲン?」
「カタギに言ってもしょうがねーかもしれねーが、『虎』だ」
「素直に答えるのね」
「別に名乗るなとは言われてねーからな」
「そっか。『虎』か……」
「知ってんのかよ」
「一応ね。それにしても、底が浅いわね」
「ああん?」
「ちょっと肩が当たったくらいで因縁をつけてくるなんて。そこらの三下と変わりないじゃない」
「死にてーのか?」
「そんなわけないでしょ」
「それにしても、ねーちゃん、えらい体してんな。ヤらせてくれるってんなら、ゆるしてやってもいいぜ?」
「ああ、男ってホント、そればっかり」
「やるってのか?」
「アンタ、ピストルは持ってるの?」
「そりゃあな」
「じゃあ、遠慮なく」
わたしは男の顎に右肘をぶつけた。一発で仰向けに転がしてやった。周囲からは拍手喝采。男はなんとかといった感じで上半身を起こした。ビビったようで、しりもちをついたまま後方へと退く。
「目が眩むほど弱いわね」
「ウ、ウチに手を出したらたたじゃ済まないぜ」
「どういった目に遭うのかしら」
「軽口叩ぎやがって。てめぇ、命が欲しくねーのか」
「率直に言うわ。貴方達のアジトを知りたいの」
「そもそも、どうして俺達を敵に回そうってんだ?」
「気に食わないからよ」
「危ない橋を渡ることになるぜ」
「もう一度言うわ。アジトを吐いて」
「吐かねーっつったら?」
「こうするのよ」
わたしは素早く距離を詰め、男の側頭部を蹴飛ばした。横っ面へのローキックだ。狙い通り、失神させることができたようだ。
すると、周りからまた拍手。大したことをしたわけではないんだけどなあと思った。




