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『四星』の構成員を名乗る黒服の男が事務所を訪れ、ワンロンのところへと案内された。街中にある自前のビルの五階。その最上階に彼の居室がある。
「まったく、ラオファには困ったものだ」
恰幅が良く、鵺のような迫力があるワンロンは、すっかり禿げ上がった頭をつるりと撫でた。
「幹部を的にかけられているようね。ウェイだったかしら。彼にはそれなりの力と男気と覇気があったわ」
「やっこさんがやられたのは痛い。いずれは若頭に据えてやろうと考えていた男だからな」
「ユアンから聞いたわ。今になって、息子のソウロンを失ったことが痛手になっているようね」
「ああ。組の長を務めるニンゲンに必要なのは、何を差し置いても人望だ。息子にはそれがあった。なんとも得難い資質だよ」
「現状、『虎』のほうが優勢であるように思うけれど」
「以前に依頼したことではあるが、なんとかしてラオファを殺って欲しいんだがね、探偵さん」
「ヤツを仕留めたい気持ちは確かにある。だけど、それってわざわざヤクザの言いなりになってすることじゃないわ」
「やれやれ。ワシはまだまだ退けんな」
「その歳になっても隠居できないとなると、まあ、頭が痛いところよね」
「だからこそ、『虎』についているラオファをを始末する必要がある。しつこいようだが、請け負ってもらえないかね。無論、報酬は、はずむ」
「何を言われたところで、ヤクザからの依頼を快く受けるなんてことはしないわよ」
「だが、これ以上幹部連中を殺されたらたまらんのだよ」
「いっそ、ラオファを取り込んでみたら?」
「目下のところ、『虎』のほうが資金力がある。かなわんさ」
「ふぅん」
「ワシはメイヤさんとラオファは同格だと思っている」
「お褒めにあずかり光栄だわ」
「三度になるが、ラオファを是非、殺してもらいたい」
「殺すより、捕らえたほうが有意義でしょう?」
「それはそうだ。ラオファともあろう者を突き出せば、警察にとっても喜ばしいことだろうからな。その場合、ヤツらに恩を売ることができる」
「裏の世界の話って、つくづくしょうもないわね」
「そうかね」
「貴方は怯えるような人物じゃないと思っているけれど」
「それでも、少なからずラオファは怖い」
「貴方もニンゲンだってことね」




