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ヤクザ組織『四星』の構成員であるユアンと、街角で立ち話をしているところである。
「最近殺されてるのは、いずれもウチのニンゲンだよ。ソウロンの兄貴が亡くなって以降、まだ後釜は決まってないんだけどよ、若頭の補佐っつー立ち位置にあるヒト達が、次々にこの世とはおさらばってことになってる」
「若頭候補にだったら、ボディガードがわんさか付いていてしかるべきだと思けれど、やっぱり、ラオファが相手だと、数をこしらえたところで、意味をなさないってことね」
「そうみてーだ」
「親分のワンロンさんは怯えているのかしら」
「ウチの親父に限って、それはねーよ。むしろ、近々『虎』と一戦、交えるつもりなんじゃねーかな。もしそうなら、大戦争になるぜ」
「その際にはアンタも加わるの?」
「小鳥みてーにピーチクパーチク喚いたところで何も始まらねー。兵隊の一人として参加することになるだろうさ」
「ご愁傷様」
「ラオファを殺るにあたって、親父は手段を選ばねーって言ってる。きっとおまえにもお呼びがかかるぜ」
「報酬が発生するのは嬉しいけれど、そうでなくたって、わたしはラオファを仕留めるつもり」
「そりゃまた、どうしてだ?」
「面白い手合いだからよ」
「危なっかしい話だ。にしても、ソウロンの兄貴が生きてりゃあ、また話は違ったんだろうけどなあ」
「ソウロンは人望だけはあったみたいね」
「人望だけはって言い方は気になるけど、仮に親父が殺やられるようなことになったとしても、ソウロンの兄貴がいりゃあ、組織は一枚岩になると思うんだ」
「だったら早いとこ、彼の代わりを見付けるしかないわ」
「そうなんだけど、それが難しいんだよなあ。ここだけの話、若頭補佐のかたがたは我が強いっていうか、揃いも揃って個人主義らしいんだよ」
「だとすると、いくらワンロンさんとは言え、頭の痛いところね」
「そうなのかもしれねーな。だけど、ウルトラCがある」
「それは?」
「『虎』以上の金を払って、ラオファを取り込んじまえばいい」
「だけどそんな真似をしたら、下っ端連中からの不満が噴出するでしょう? だって身内を何人も殺されているわけだから」
「そうなんだよ。どうしたもんかなあ」
「なんにせよ、そんなことについて、アンタが頭を使う必要はないわね」
「俺が三下だからか?」
「その通り」
「ひっでぇ」
「わたしは、ラオファとは相性がいいって考えてる」
「そうなのか?」
「何せ、出会うケースが多いみたいだから」
「でもよぅ、実際、勝てそうなのか?」
「鉄針が厄介」
「鉄針?」
「アンタは知らなくていい」
「殺られちまったら困るよ。俺はまだ、おまえとヤれてねーんだから」
「はいはい。言っときなさい」
「こえーよ、正直。俺がラオファと出会った日にゃ、ちびっちまうと思う」
「安心しなさい。たかが一構成員をやっているうちは、狙われるはずもないんだから」
「知ってるか? ラオファの姿を見たニンゲンって限られてるんだぜ?」
「まさしく幻の殺し屋ね」
「本当に、やられてくれんなよな」
「もっと気のきいたことは言えないの?」
「だったら、おまえの葬儀になんて出させてくれんなよって言っときたい」
「鉄針で殺されたら、どういう死体になるか知ってる?」
「知らねーけど?」
「刺されたところから血が流れ出るの。とめどなく、大量にね」
「想像するだけで鳥肌が立っちまう。キンタマも縮み上がっちまいそうだ」
「小物ね、アンタは、つくづく」
「だから、それは自覚してるっつーの」
「ドンパチが得意になることね。自衛をするには、それが一番」
「性に合わねーんだよなあ」
「だったら、ことに突き当たれば速やかに死ぬしかないわね」




