２２－２

　近所の喫茶店にて。

　ミン刑事はアイスコーヒーで喉を潤すと、わたしのほうを見た。

「ラオファの動向は、やはり気になる。仮に『虎（フー）』にがさいれをしたら、やっこさんの尻尾くらいは掴めるのかね」

「言いましたよ？　ミン刑事。彼女を殺（や）れるのはわたししかいないと」

「俺も言ったな。殺し屋ごとき、誰が沈めても同じだと」

「血の気の多いことですね」

「おまえに言われたかねーよ」

「ラオファの首はそう簡単には取れませんよ」

「物量をもってしても、どうにかできる相手じゃないかね」

「だと考えます。彼女の実績が、そうであることを物語っている」

「だからといって、ことをおまえに依頼しようとは思わねーな」

「話は変わるんですけれど」

「ああ。なんだ？」

「ミカミはどうしていますか？」

「おまえと以前、やり合った末にウチで連行したミカミ・カズヤのことか？」

「はい」

「ヤツは釈放されたよ」

「そうなんですか？」

「何せ、警察に顔がきくわけだからな。その上、何故か『グウェイ・レン』は金を抱えている。上層部にも幾らか渡していることだろうさ。つってもまあ、喧嘩の範疇だしな。そう長々と拘束することもできねーよ」

「ラオファにミカミ。わたしの周囲はことのほか賑やかです」

「おまえは好き好んで状況に首を突っ込もうとしているように見えるがな」

「マオさんほど大人しくありませんから。アクティヴなのがわたしです」

「話を戻すが、ラオファに満足いく報酬を払える以上、『虎』は誰だろうが好きに殺（や）れる」

「そうなんでしょうね」

「そういうこった」

「いつか『虎』にとって、わたしは邪魔になるんじゃないかなあ」

「予感か？」

「ええ」

「すっかり武闘派になっちまったな。今のおまえを見たら、マオのヤツはきっと驚くぜ」

「それならそれで本望ですよ。彼にはわたしの成長した姿を見せてやりたいですから」

「マオと会って、おまえは変わったんだな」

「それは言わずもがなです」

「しかし、マオはおまえが言うほど、愉快なニンゲンかね」

「わたしからすれば、彼ほど面白いヒトはいません」

「きっぱり言うんだな」

「事実ですから。マオさんはこの世界における、言わば特異点です。興味深い思考の持ち主です。彼のことについて思考を巡らせるたび、そんな思いに駆られるんです」

「まあ、確かに変てこりんなヤツではあったが」

「その変てこりんさが、わたしにとっては唯一のものなんです」

「唯一、か」

「そうです」

「マオは確かにオンリーワンだ。そんじょそこらのステレオタイプの頭でっかちとはまるで違う。本人は自覚していないかもしれないが、ヤツの言葉には力があった。それは思慮深さの結果なんだろう」

「確かに、彼の言うことには、一々、説得力がありましたよね」

「ああ。だからこそ、やっこさんには戻ってきてもらいたい。どんな事象にせよ、どんな状況にせよ、上手い答えを導き出すことだろうからな」

「恋しいなあ」

「それは知ってる」

「愛しくもあります」

「それもよくわかる」

「早く会いたいです」

「この街にいる限り、可能性はゼロじゃない。精々、目一杯、生き続けることだ」

「そのつもりですよ」