表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/155

20-3

 下水道の端の通路を伝って、現場を訪れると男がいた。細身に細面の長身。前に出会った爆弾魔と同一人物である。この地下で爆破をやらかした上でここに立っているのだろう。悠然としていて、その顔は無表情そのものだった。


 すかさず男に銃を向けたミン刑事。わたしもそうした。


 ルイ刑事が「初めてお目にかかります。ここ最近起きた一連の爆破事件の犯人は貴方ですか?」と尋ねると、男は「それはそっちのお嬢さんに確かめてみるといい」と答えた。


「メイヤさん」

「あの男に違いありませんよ」


 わたしは言葉を紡ぐことにする。


「ヒトをたくさん殺したいと言っていたように思うけれど?」

「その言葉に嘘はない。人間爆弾だって悪い選択肢じゃなかったと思う。だが、この世にはヒトが多過ぎる。皆殺しにするのは困難だ」

「でしょうね。一応の確認だけど、マンホールを吹き飛ばしたのも貴方?」

「そうだ」

「今しがたの爆発も貴方の仕業ね?」

「ああ」

「どうしてそんな陳腐な真似をしたの?」

「さあな。どうしてかな」

「とぼけないで」

「マンホールを吹き飛ばしたのは単なる気まぐれだ」

「気まぐれ? 理由なんてないって言うの?」

「お嬢さんはヒトに動機を求めすぎだ」

「じゃあ、さっきの爆発は?」

「セムテックスが手に入ったんだよ。最後にその威力を試してみたかったというだけだ」

「最後?」

「ああ。最後だ」


 細身の男は右手を使って懐から銃を取り出し、それを自らのこめかみに突き付けた。


「俺はニンゲンすべてを滅ぼすことは困難だと言った。それでも、どうしたって同族嫌悪という感情は消えなくってな。そこで一つの結論に辿り着いた」

「それは?」

「簡単な話さ。俺自身がニンゲンから乖離してしまえばいい」


 ルイ刑事が計三発、銃を撃った。一発は右腕に、二発は胸に命中したものの、男は倒れない。こめかみに銃口を押し当てたままでいる。


「やめなさいっ!」


 そう言って、わたしが突進してまもなく、男はこめかみを撃ち抜いた。どっとうつぶせに倒れる。近付く。脈を取るまでもない。もうすでに絶命していることがわかった。頭に銃弾を浴びせたわけだから、当然と言える。


 ルイ刑事が近寄ってきた。


「犯人は死亡。男が抱いていた思想は聞き出せたものの、それだけですね」

「ルイ刑事は、案外、思い切って、銃を撃たれるんですね」

「しかし、収穫はなかった。男は自ら死んでしまったわけですから」

「追い詰めたのは事実です。そして、犯人が乖離という言葉を用いた以上、逮捕できる状況にはなかった」

「そうとも言えますが。やれやれ。面倒な報告書を書くことになりそうだ」


 ルイ刑事は表へと続くはしごをのぼってゆく。わたしもあとに続く。結局、爆弾騒ぎの犯人を捕まえることはできなかった。なんとなく、後味は悪かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ