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下水道の端の通路を伝って、現場を訪れると男がいた。細身に細面の長身。前に出会った爆弾魔と同一人物である。この地下で爆破をやらかした上でここに立っているのだろう。悠然としていて、その顔は無表情そのものだった。
すかさず男に銃を向けたミン刑事。わたしもそうした。
ルイ刑事が「初めてお目にかかります。ここ最近起きた一連の爆破事件の犯人は貴方ですか?」と尋ねると、男は「それはそっちのお嬢さんに確かめてみるといい」と答えた。
「メイヤさん」
「あの男に違いありませんよ」
わたしは言葉を紡ぐことにする。
「ヒトをたくさん殺したいと言っていたように思うけれど?」
「その言葉に嘘はない。人間爆弾だって悪い選択肢じゃなかったと思う。だが、この世にはヒトが多過ぎる。皆殺しにするのは困難だ」
「でしょうね。一応の確認だけど、マンホールを吹き飛ばしたのも貴方?」
「そうだ」
「今しがたの爆発も貴方の仕業ね?」
「ああ」
「どうしてそんな陳腐な真似をしたの?」
「さあな。どうしてかな」
「とぼけないで」
「マンホールを吹き飛ばしたのは単なる気まぐれだ」
「気まぐれ? 理由なんてないって言うの?」
「お嬢さんはヒトに動機を求めすぎだ」
「じゃあ、さっきの爆発は?」
「セムテックスが手に入ったんだよ。最後にその威力を試してみたかったというだけだ」
「最後?」
「ああ。最後だ」
細身の男は右手を使って懐から銃を取り出し、それを自らのこめかみに突き付けた。
「俺はニンゲンすべてを滅ぼすことは困難だと言った。それでも、どうしたって同族嫌悪という感情は消えなくってな。そこで一つの結論に辿り着いた」
「それは?」
「簡単な話さ。俺自身がニンゲンから乖離してしまえばいい」
ルイ刑事が計三発、銃を撃った。一発は右腕に、二発は胸に命中したものの、男は倒れない。こめかみに銃口を押し当てたままでいる。
「やめなさいっ!」
そう言って、わたしが突進してまもなく、男はこめかみを撃ち抜いた。どっとうつぶせに倒れる。近付く。脈を取るまでもない。もうすでに絶命していることがわかった。頭に銃弾を浴びせたわけだから、当然と言える。
ルイ刑事が近寄ってきた。
「犯人は死亡。男が抱いていた思想は聞き出せたものの、それだけですね」
「ルイ刑事は、案外、思い切って、銃を撃たれるんですね」
「しかし、収穫はなかった。男は自ら死んでしまったわけですから」
「追い詰めたのは事実です。そして、犯人が乖離という言葉を用いた以上、逮捕できる状況にはなかった」
「そうとも言えますが。やれやれ。面倒な報告書を書くことになりそうだ」
ルイ刑事は表へと続くはしごをのぼってゆく。わたしもあとに続く。結局、爆弾騒ぎの犯人を捕まえることはできなかった。なんとなく、後味は悪かった。




