19-3
問題のビルを訪れた。コンクリート造りの建物には寂れた感がある。一階の各部屋は使われていないようだ。
エレベーターに乗り、二階のボタンを押した。着いた先で短い廊下を歩く。空き家ばかりだ。だけど、奥の一室からヒトの気配が感じ取れた。わたしはノックをすることもなく、その部屋の扉を引いて開けた
扉を開けると、事務所らしき風景があった。スチール製のデスクが向かい同士で計四つ並んでいる。その奥にソファセットがあるけれど、けして大きくはない。
わたしの顔を見た瞬間、構成員はこぞって懐から抜き払った銃を向けてきた。なんとも剣呑な雰囲気である。
「ここが『グウェイ・レン』の事務所で合ってるかしら?」
「だったら、なんだってんだよ」
「話を聞きにきただけ。だから銃をおさめてくれる?」
すると、銃を構えているスキンヘッドの男が、じりじりとこちらに、にじり寄ってきた。「だ、誰なんだよ、おまえは」と戸惑った様子で言う。
「誰だっていいじゃない。とにかく、ちょっと用事があるの」
「いきなり押し掛けてきやがったんだ。女だろうが殺すぞ」
「親分はいないようだけど?」
「なんで親父を知ってんだ?」
「企業秘密」
「親父は今、外してる」
「じゃあ、留守を預かっている責任者は?
「んなことわざわざ言うわけねーだろ。本当に殺すぞ?」
「やってごらんなさいよ」
わたしはスキンヘッドの男の右手を蹴り上げることで銃を弾き飛ばすと、素早く背後に回り込み、その右腕を捻り上げた。彼を矢面に立たせることで盾にし、放たれた弾丸を無難にやり過ごす。わたしってひどいなと思う。
連射が止んだ。撃ったところで同僚にしか当たらないからだろう。弾よけになってもらった男を捨て、わたしは続いて素早くパンチパーマの男に襲い掛かる。また即座に後ろに回り込み、右腕を絞り上げた。撃ってくるなら、それはそれで結構。今度はこの男を盾にするだけだ。
「さあ、責任者は誰?」
「お、俺だ」
幸いなことに、今、拘束している男がそうであるらしかった。彼は「撃つな! 撃つんじゃねーぞ!」と叫んだ。
「降参?」
「あ、ああ。それで、何が目的なんだ?」
「貴方達、場末の路地で店を構えている絵描きは知ってる?」
「そ、そんなのもん、俺は知らねー。おまえらはどうなんだ!」
すると、下っ端らしき男の一人が「へ、へい。知ってます」と返事をし、「遊び半分で襲っちまって……」と答えた。
責任者であるらしいパンチパーマの男は「ば、馬鹿野郎!」と声を大にし、「カタギには手を出すなって、親父に言われてるだろうが!」と続けた。「わたしもカタギなんだけどね」と言うと、「ただのカタギじゃねーんだろ?」という返答があった。実際、そうかもしれない。
「ちょっと会っただけだけど、確かにミカミが一般市民を手に掛けるとは思えないわね」
「お、親父とはどういう関係なんだ?」
「喧嘩をした仲なのよ。それにしても」
「な、なんだよ」
「ミカミは貴方達のことを信用していないだろうなって思って」
「なんでそんなこと言えるんだ?」
「決まってるじゃない。簡単に口を割るからよ」
わたしはパンチパーマの男の首を絞めて気絶させ、彼を人質に取りつつエレベーターに向かった。そして、エレベーターのドアが閉まる間際に、彼のことを前に突き飛ばしたのだった。




