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19-2

 翌朝、十時。


 この界隈で大規模なヤクザ稼業を営んでいる『スーシン』を訪ねた。様々なけいがあって、わたしはその組織の大親分であるワンロン知っている。彼の居室へと通してもらった。顔パスがきくのだから、それほどまでに買ってもらっていると言っていい。


 マホガニーの机の向こうにどっしりと座っているのがワンロンである。頭髪はなく、顔も体もとにかく大きい。葉巻を吸っていて、その様子には貫禄がある。


 わたしは彼の机の前に立ち、ことの次第を話した。


「つまらんことだ。ただの貧乏な絵描きを襲ったのか」

「つまらないことじゃないわよ。ゆるしがたい話じゃない」

「まあ、メイヤさんならそう言うんだろうが」

「貴方のところの三下が遊び半分でやらかしたんじゃないの?」

「それはないだろう」

「何故、そう言えるの?」

「カタギには手を出すなと言ってあるからだ。厳命だ。三下であろうと、その行いが露見した日には拷問に処すと知らせてある」

「とてもじゃないけれど、信じられないわね。実際、いまだ、そのカタギにクスリを卸しているんでしょう?」

「それとこれとは話は別だ。クスリは欲しがる者にしか与えない。ヤクザの論理だよ。そしてそれがヤクザのやり方でもある」

「ジャンキーをわんさかこしらえているくせに」

「シノギはシノギだ。否定せんでほしい」

「貴方の組織のニンゲンの仕業じゃない。それ、自信を持って言える?」

「わしの名をもって周知してあるんだ。間違いなど起きんだろうさ」

「その言葉を信用するとして、だったら、誰が犯人だというの?」

「くだらんチンピラの仕業だろう。そうとしか考えられん」

「この街のヤクザすべてを調べるとなると骨が折れるわ」

「まずは知っている組織から当たったらいい」

「そうするしかなさそうね」

「どこから洗うつもりかね」

「そうね……例えば、『グウェイ・レン』とか」

「ミカミのところだな」

「ミカミを知っているの?」

「メイヤさんこそどうしてヤツ知っているんだ?」

「二度ほど、吹っ掛けられたことがあるの」

「喧嘩か」

「ええ。偶然、知り合いになったのよ」

「『グウェイ・レン』は『フー』の直参らしいが、上層部も手を焼くトラブルメーカーらしい」

「それは知ってる。で、ミカミのところなら、ことを起こしそう? 彼はつまらない人物ではないように思うけれど」

「メイヤさんはミカミのことを、いいほうに評価しているようだ」

「幾分ね」

「わしはミカミという名を知っているだけで、やっこさんの人柄までは知らんよ。だから、質問には答えようがない」」

「オッケー。なんにせよ、草の根を分けてでも探し当てるつもりだから。どこから洗ったところで一緒よね」

「勇猛すぎるのもどうかと思うが」

「余計なお世話よ。連中の居所はわかる?」

「押さえてある。街外れにある”シャーコック・ビル”だ」

「ああ。そのビルなら知っているわ」

「さすがメイヤさんだな。この街のことを知り尽くしているという噂は本当のようだ」

「知り尽くしているとまでは言わないけれど」

「無茶はせんようにな」

「心配してくれるのは、どうして?」

「そこに理由は必要かね?」


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