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翌朝、十時。
この界隈で大規模なヤクザ稼業を営んでいる『四星』を訪ねた。様々な経緯があって、わたしはその組織の大親分であるワンロン知っている。彼の居室へと通してもらった。顔パスがきくのだから、それほどまでに買ってもらっていると言っていい。
マホガニーの机の向こうにどっしりと座っているのがワンロンである。頭髪はなく、顔も体もとにかく大きい。葉巻を吸っていて、その様子には貫禄がある。
わたしは彼の机の前に立ち、ことの次第を話した。
「つまらんことだ。ただの貧乏な絵描きを襲ったのか」
「つまらないことじゃないわよ。ゆるしがたい話じゃない」
「まあ、メイヤさんならそう言うんだろうが」
「貴方のところの三下が遊び半分でやらかしたんじゃないの?」
「それはないだろう」
「何故、そう言えるの?」
「カタギには手を出すなと言ってあるからだ。厳命だ。三下であろうと、その行いが露見した日には拷問に処すと知らせてある」
「とてもじゃないけれど、信じられないわね。実際、未だ、そのカタギにクスリを卸しているんでしょう?」
「それとこれとは話は別だ。クスリは欲しがる者にしか与えない。ヤクザの論理だよ。そしてそれがヤクザのやり方でもある」
「ジャンキーをわんさかこしらえているくせに」
「シノギはシノギだ。否定せんでほしい」
「貴方の組織のニンゲンの仕業じゃない。それ、自信を持って言える?」
「わしの名をもって周知してあるんだ。間違いなど起きんだろうさ」
「その言葉を信用するとして、だったら、誰が犯人だというの?」
「くだらんチンピラの仕業だろう。そうとしか考えられん」
「この街のヤクザすべてを調べるとなると骨が折れるわ」
「まずは知っている組織から当たったらいい」
「そうするしかなさそうね」
「どこから洗うつもりかね」
「そうね……例えば、『グウェイ・レン』とか」
「ミカミのところだな」
「ミカミを知っているの?」
「メイヤさんこそどうしてヤツ知っているんだ?」
「二度ほど、吹っ掛けられたことがあるの」
「喧嘩か」
「ええ。偶然、知り合いになったのよ」
「『グウェイ・レン』は『虎』の直参らしいが、上層部も手を焼くトラブルメーカーらしい」
「それは知ってる。で、ミカミのところなら、ことを起こしそう? 彼はつまらない人物ではないように思うけれど」
「メイヤさんはミカミのことを、いいほうに評価しているようだ」
「幾分ね」
「わしはミカミという名を知っているだけで、やっこさんの人柄までは知らんよ。だから、質問には答えようがない」」
「オッケー。なんにせよ、草の根を分けてでも探し当てるつもりだから。どこから洗ったところで一緒よね」
「勇猛すぎるのもどうかと思うが」
「余計なお世話よ。連中の居所はわかる?」
「押さえてある。街外れにある”シャーコック・ビル”だ」
「ああ。そのビルなら知っているわ」
「さすがメイヤさんだな。この街のことを知り尽くしているという噂は本当のようだ」
「知り尽くしているとまでは言わないけれど」
「無茶はせんようにな」
「心配してくれるのは、どうして?」
「そこに理由は必要かね?」




