17-2
被害者の文通相手を訪ねた。立派なアパートだったので、思わず「おぉ」と驚いてしまった。三階の一室のドアをノックする。覗き窓から客の様子を見定めるのは、この街にあっては当たり前のことだ。
「貴女はどなたですか?」
「探偵をやっています。メイヤ・ガブリエルソンといいます。ミンという刑事から連絡がありませんでしたか?」
「ありました。ジウさんのことを知りたいんですね?」
「はい」
「私はシナといいます」
「存じ上げています。とりあえず中に入れてはもらえないでしょうか?」
「かまいません」
シナ氏の一室に通してもらった。広い。特に飾り物もないシンプルな部屋である。「どうぞ、お座りになってください」と黒いソファを勧められた。気遣いが出来るニンゲンなのか、頬の傷については触れられなかった。
「紅茶ですか? それともコーヒー?」
「結構です。長居をするつもりはありませんので」
「わかりました」
シナ氏はテーブルを挟んで向こうの席についた。
「ジウさんが亡くなられてしまったことについて、私は心を痛めています」
「文通をしたり、時折電話で話す程度の仲だと伺いましたが」
「それでも悲しいものは悲しい。いけませんか?」
「そうは言いませんけれど。会いたくなるということはなかったんですか?」
「会わない方がいいだろうというのが共通の認識でした。あえて会わないことで、信頼関係が生まれることもあると思うんです」
「まあ、それはそうかもしれませんね」
「ジウさんはどうやって殺されたんですか?」
「それは明日の朝刊に掲載されるでしょうし、ご遺体の様子についてお話しさせていただくのは、なんとも気が引けてしまいます」
「そうですか。相当、悲惨な殺され方であったわけですね……」
「本当に、文通と電話しかしない間柄だったんですか?」
「そこに嘘はありません」
「誰かに付きまとわれている。そんな相談をジウさんから聞かされたこともなかった?」
「はい」
「となると、捜査は行き詰まっちゃうなあ……」
「ただ、彼女は本当に美しい女性だったのではないかと予感しています。だから誰かに目を付けられていてもおかしくないんじゃないかな、って」
「冷静なんですね」
「そうあろうと考えています。だけど、彼女を殺したという人物がいるのだとすれば、私はその当人をゆるすことができません」
「わかりました」
「質問はもういいんですか?」
「はい。貴方が犯人ではないであろうことは窺えましたから」
「意外と簡単に判断されるんですね」
「いいえ。熟慮した結果ですよ」
「犯人は必ず捕まえてください」
「しょっぴくのは警察の仕事です」
「まあ、そうですね」
「探偵として、やれるだけのことはやってみます。そうした上で結果が得られればと思います」




