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15-3

 翌朝、ワンロンの事務所にて。


 ソファを借りて眠っていたところを、黒服の男に起こされた。寝惚け眼をこすりつつ、ボルサリーノをかぶって立ち上がる。なんでも親分ワンロンがお呼びだとのこと。せっかく気持ち良く眠っていたのにと多少の怒りを覚えた。


 ワンロンの居室に入ると、彼はマホガニーの机の向こうに座っており、わたしは接客用の黒くて長いソファにどっかりと腰を下ろした。


「昨日は危ないところだった。助かったよ、メイヤさん」

「仕留めることはできなかったけれど」

「ああ、そうだ。契約はまだ、果たされていない」

「でも、ずっとボディーガードを勤めるのは嫌」

「何故だ?」

「性にも合わないからよ。警護対象が大嫌いなヤクザともなると、尚更ね」

「折れてくれないかね」

「交渉の順番を間違っていたわ。貴方の組織が子供達にクスリを売らないって約束してくれるのであれば、もうしばらく付き合ってあげてもいい」

「クスリの件は話がついている」

「それは吉報ね」

「ああ。昨日の連絡会で強く言った」

「だけど、それでもなあ…」

「やっぱり嫌かね。わしの護衛を担うのは」

「だから、御免こうむりたいっていうのが、正直なところなの」

「実を言うと、わしは四六時中、メイヤさんにそばにいてもらおうなどとは思っておらん」

「そうなの?」

「ああ。こちらから頼んだ時にだけ相談にのってくれればいい。契約内容はそう変更しよう」

「いいの?」

「ヤヨイのことが不憫に思えてならんのだよ。ヤツだって、恋くらいはしたかったはずだ」

「恋?」

「ああ。女は子を産んで育てる方がいい」

「それってちょっとしたセクハラ発言だけれど。まあ、いいわ。ワンロンさん、わたしは貴方のことをちょっと見直した」

「ボディーガードを増やさんとならんな」

「下手に増やすより、質で選んだ方がいいわよ」

「それはその通りだ」

「ところで」

「何かね」

「おなかがすいたの。朝食、用意してもらえる?」


 ワンロンは「がっはっは」と笑った。


「メイヤさんほどの器を持つニンゲンがいれば、すぐにでも勇退するんだがね」

「女が親分でもいいの?」

「そのへん、わしは気にせんさ」

「ふぅん」

「今のメイヤさんが構成されるにあたり、最も重要なファクターはなんだったんだろうか」

「優しさは他者から教わったわ。けれど、強さは自分で身に付けたの」

「強くある必要があったのかね?」

「ええ。あったのよ」

「そんな強いメイヤさんが、女の部分をさらけ出すことはあるのかね?」

「余計なお世話。そしてそれもまたセクハラよ」

「本当にずけずけと物を言ってくれる。女房でもそんな口は聞かんよ」

「あら、そ」

「見合い相手ならいくらでもあてがってやるんだが」

「要らないわよ、そんなの。いいから、早く朝食を出してちょうだい」

「フグ刺しでも用意させようか?」

「トーストと紅茶で結構よ」


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