表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/155

15.『ヤクザの大親分より』 15-1

 ボディガードをつけているワンロンが事務所を訪れた。『スーシン』なるヤクザのボスである。彼からは以前、依頼を請け負ったことがある。息子であるソウロンの警護を担ってくれと言われた。だが、護衛の甲斐もむなしく、そのソウロンは殺されてしまった。とはいえ、たかが親分の息子が死んだというだけの話だ。わたしにとっては憂うべきことでもない。それでも若干の心残りもないのかと問われると、あると答えるより他ないのだけれど。


 ワンロンは二メートル近くある巨躯。道中の車中において一服をつけていたのだろう。わたしの嗅覚がそう知らせてきた。葉巻を口にしたまま来るようなら、とっととお帰り願ったかもしれない。訪問してくるにあたって喫煙したままなんて無礼だし、そもそも我が事務所に灰皿などないのだから。


 わたしはワンロンを客人用のソファに座らせてから、正面についた。お茶を振る舞ってやろうとは思わない。腕も脚も組んでふんぞり返る。ヤクザに対して礼儀正しくある必要はないと思う次第だ。


「ヤクザの大親分がなんの用かしら。というか、貴方はヒトを訪ねる立場じゃないでしょう? 部下に命令する立場じゃないの?」

「ヤクザでも礼儀は尽くす。そのへん、理解してもらいたいな、お嬢さん」

「お嬢さんじゃないわ。メイヤよ、メイヤ」

「悪かった。なあ、メイヤさん」

「何?」

「どうやらわしは、命を狙われているようなんだよ」

「敵対組織に?」

「そうらしい」

「貴方ほどのニンゲンでも、狙われるっていうの?」

「わしのような人物だから狙われるんだ。以前にも話した。恐らくはラオファだよ」

「ラオファか。この界隈でいっとう金がかかるっていう殺し屋ね?」

「そういうことだ」

「とはいえ、貴方のところにも殺し屋はいたはずよ。ヤヨイだったかしら」

「そのヤヨイが殺された。海に打ちすてられていた。彼女ほどの手練れをれるニンゲンは限られている。だからラオファの仕業だろうと踏んだ」

「ふぅん」

「察しが悪いのかな、メイヤさんは」

「まさか。守ってくれって言っているんでしょう?」

「ああ、そうだ」

「後ろに並んでいるデカブツ三人は役に立たないの?」

「ラオファをの姿を一目見たら、揃って腰を抜かすように思うんだよ」

「まあ確かに、ラオファって女はちょっとフツウじゃないみたいだけれど。垂直の壁を駆け上がって見せたしね」

「なんとかしてラオフアを仕留めてほしい」

「それが依頼?」

「そういうことだ」

「請け負う理由がないわね」

「あのな、メイヤさん、ウチの傘下の連中は、まだ子供らに麻薬の密売を行っているようなんだよ」

「貴方、まさか決め事を破ったの?」

「そうは言っていない。ただ、末席にある組織にまでは、そう簡単に指示が行き届かないということだ」

「それって約束を反故にしたのと同義じゃない」

「ウチの代紋を背負っているとはいえ、末端は末端だ。だから、懲罰を加えるか、看板を下ろさせるかしようと考えている。追放、絶縁、なんでもアリだ」

「その見返りとして、ラオファを消せと?」

「いけないかね?」

「『四星』のボスとして、そう言っているの?」

「無論だ。あらかじめ言っておこう。わし自身は子供にクスリを売ることは良しとしていない」

「その言葉、信じていいのね?」

「信じてもらうしかない」

「わたしに断る権利なんてないんでしょう?」

「まあ、そうだ」

「だったらいいわ。貴方のかたわらにつくことにする」

「現状、若頭に据えてやるようなニンゲンはいない。補佐を見付けるのがやっとってところだ。だからわしはもう少し長生きせにゃならん」

「ヤクザの論理なんて知らないわよ」

「いいのかね?」

「ええ、いいわ。最近、運動不足だし。そうでなくたって、修羅場をくぐっておいて損はないだろうから」

「報酬の話だが」

「いいわよ、そんなもの。お金に困っているように見える?」

「見えんな。どうしてだ?」

「色々とあるのよ。早速だけど、今日の予定は?」

「夜に場末の『キャバレー』で傘下の連中と定期の連絡会がある」

「連絡会程度だったら、事務所に呼び付ければいいのに」

「そうもいかんよ。それこそ、決め事だからな」

「ラオファは来るかしら」

「やっこさんがこちらの動きを把握しているようなら、必ず現れるだろう」

「ああ、訊くのを失念していたわ。もし貴方のことを守り切れなかったら?」

「わしを慕うニンゲンが、なんらかのかたちでメイヤさんに復讐しようと考えるかもしれん」

「そいういうのは復讐とは言わないの。とんだとばっちり」

「相変わらず、勇ましいことだ」


 ワンロンは豪胆に「がっはっは」と笑ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ