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14-5

 夕方になって、ミン刑事が事務所に姿を見せた。コーヒーを淹れると「すまんな」というあたりに、彼の紳士さが窺える。


「おまえと接触していたニンゲン、すなわち公安警備課一係の連中なんだが、やっこさんらはまとめて餌食になっちまったよ。くだんのシーアンって女がしでかしたんだろう」

「公安って、意外と貧弱なんですね」

「そいつはおまえが強いからこそ言える台詞だな」

「気になることがあります」

「言ってみろ」

「公安のニンゲンが狙われたのはわかりましたけれど、その周りの人達、例えば家族や親類なんかが的にかけられたりはしたんですか?」

「いや。あくまでも同僚を狙った犯行だよ。それ以外に被害はない」

「そうですか」

「無駄な手間は省きたいってだけじゃないのかね」

「シーアンはなんらかの信念を持っているように見受けられました。だから、ターゲット以外はらないんじゃないかなって」

「信念、か」

「シーアンは賢い人物に見えたんですよ。そうである以上、彼女には美学があるように思うんです」

「いつかどこかで狼と合流することを望んでいるのかね」

「恐らくはそうでしょう。少なくとも、彼女が狼に魅了されたことは確かでしょうから」

「狼と出くわしたことがない俺からすると、まったく合点しがたい話だよ」

「狼さんは怖かったです」

「それが本音か?」

「はい。微笑みながら、わたしのことをなぶってくれましたから。今なら負けやしませんけれどね」

「あまり無茶はせんで欲しいんだが?」

「無茶をしたくもなるんですよ」

「まあ、おまえのハイキックを食らった日にゃあ、俺だってぶっ倒れちまうことだろうな」

「けれど、わたくしめの大きな胸は邪魔なんですよねぇ」

「胸? なんだ、いきなり?」

「いえ。格闘するにあたっては邪魔なんです」

「そうかもしれんな。だが」

「だが?」

「いや、なんでもねーよ」

「ちゃんとおっしゃってください」

「だったら言うが、マオは案外、胸のデカい女が好きなのかもしれないぜ?」

「おぉ、マオさんはミン刑事にそんなことを匂わせたのですか?」

「ヤツが、んなこと、言うわけねーだろうが。ただ、シャオメイはえらくスタイルが良かったなって思ってな。さて、つまんねー話はしまいだ」


 ミン刑事が席を立った。


「これでめでたくシーアンって女も指名手配だ。とっとと捕まってくれるといいんだがな」

「他力本願なんですか?」

「まさか。俺様のテリトリーをよごすようなら、必ずブタバコにぶち込んでやるよ」

「期待しています」

「任せておけと言いたいな。俺はなあ、メイヤ。こんな腐った街で、おまえみたいな女と出会えたことを、本当に良かったと思っているんだよ。神様に感謝したいくらいだ」

「でも、奥様のことも大切になさってくださいね?」

「そんなこと、当たり前だろうが。歳を食った男にはそれなりにテクニックがある。女をひぃひぃ言わせるなんて、わけないってことだ」

「ドキドキしちゃう話ですね」

「元気でいろ。それだけだ」

「わかっています」

「それじゃあな」


 ミン刑事は事務所をあとにしたのだった。


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