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13-2

 メモを頼りに住所を当たった。『布屋』である。カラフルな布や糸がいくつも陳列されている。壁には大きなパッチワークなんかが展示されていて、非常にアットホームな雰囲気だ。


 わたしはレジの前にまで進み出た。赤茶けた髪をした若い女性が店番をしている。ボルサリーノを取ってお辞儀をしてから、「メイヤ・ガブリエルソンと申します。探偵です」とまず名乗った。それから、「貴女がヒビヤ・ナナコさんで間違いありませんか?」と問うた。


 女性は少し驚いたように、目をぱちくりさせた。


「あっ、はい。ヒビヤ・ナナコは私です」

「ひょっとして、学生さんですか?」

「はい。大学生です」

「羨ましいなあ」

「えっ?」

「いえ。わたしはアカデミックなところとは無縁なので」

「充分、聡明そうに見えますけれど……」

「ありがとうございます」

「それで、探偵さんがなんのご用ですか?」

「フェイ先生というかたから、依頼を受けて訪ねてきました」

「フェイ先生から?」

「そういうことでして。とにかく探偵の出番だと仰せ付かった次第です」

「確かにフェイ先生とはお話をしました。ですけど、何かして欲しいとお願いした覚えはありません」

「それでも、フェイ先生は貴女のことを気にかけていらっしゃるんです」

「そうですか。フェイ先生はお優しいかたなんですね……」

「フェイ先生に何を話されたのか、その点についてお聞かせ願いたいんです」

「用件はわかりました。でも、今いらっしゃるお客様が買い物をされるのを待ってからでいいですか?」

「勿論です」


 やがて、店内は空っぽになった。客らが姿を消した。


「それで、フェイ先生に何を話されたんですか?」

「正直、打ち明けづらいことなんですけど……」

「でも、彼女から引き受けたからこそ、わたしはここにいます。ですから、包み隠さず話していただけるとありがたいです」

「……実は」

「はい」

「ヒトを殺めた人物が、刑務所から戻ってくるんです」

「どういうことですか?」

「あ、いえ。でも、彼がヒトを殺したことには、ちゃんとわけがあって……」

「その文言だけではわからないと言わざるを得ません」

「シージーという親友がいたんです」

「シージーさん?」

「はい。彼女は五年前、五人の男にその、強姦された挙句、殺されてしまいました」

「殺された?」

「はい。父親である男性が男手一つで育てていたんです。それはもう、大切にされていました」

「その娘さんが凌辱され、殺害された」

「路地裏で全身を傷まみれにされて亡くなっていたそうなんです。ゆるせない話でした。だけど、そのことについて、私以上に憤った男の子がいて……」

「その男の子の名は?」

「リンシ君といいます。彼は憤りの果てに殺人を選んだんです」」

「リンシ君が殺したのは確かに犯人だったんですね?」

「それは間違いありません。警察からもその旨の発表がありましたから」

「だとしたら、リンシ君はどうやって犯人を突き止めたんでしょうか?」

「犯人はシージーと同級の男子達だったんです。こう言ってしまうのははばかれるんですけれど、彼女は同年代の女の子と比べると、とても性的な魅力に溢れていました。そういうことから、彼らからたびたびからかわれていたんです」」

「教師に相談しなかったんですか?」

「しても効果はありませんでした。嫌がらせは止まらなかったんです」

「そういった事実はリンシ君にとってゆるしがたいことだった?」

「そうです」

「ということは、リンシ君はシージーさんに想いを寄せていた?」

「それはわかりません」

「一応の確認ですけれど、貴方とシージーさん、それにリンシ君はクラスメイトだった?」

「はい。シージーがいじめられるたびに、リンシ君は止めに入っていました」

「そういった事象から、リンシ君はくだんの五人が犯人だろうと睨んだわけですね?」

「そういうことみたいです」

「順番に殺したんでしょうか?」

「多分、それぞれが一人でいるところを、あとをつけてあやめたのだと思います」

「なるほど」

「シージーのお父様は警察官です。リンシ君はやんちゃさから、たびたびそのお父様のお世話になっていました。これは私の勝手な想像ですけれど、お父様とリンシ君との間には、何か、信頼関係のようなものがあったのではないかと考えているんです。自分が悪さをしたら、きちんと咎めてくれるヒトがいる。リンシ君はそんな状況をを心地良く感じていたように思うんです」

「それはあり得ることかもしれませんね」

「殺人を犯した当時、リンシ君は十五歳でした。未成年とは言え、五人も殺めたわけですから、収監されるのも止むを得なかったんだと思います。でも、そんな彼が、ようやく五年の刑期を終えて出て来るんです。わたしは彼を快く迎え入れてあげたいんです。それって間違いでしょうか?」

「そのあたりのことを、フェイ先生に話されたわけですね?」

「はい」

「彼女はなんと?」

「バッサリ言ってくださいました。リンシ君は英雄的行動を起こしたのだと」

「異論はありません。ところで」

「はい?」

「そのリンシ君に、わたしも会わせていただけますか?」

「えっ」

「思うに、これは依頼ではありません」

「というと?」

「世の中には様々なニンゲンがいるということを、フェン先生はわたしに教えてくれようとしているんです」

「そうなんですか?」

「きっとそうなんだと思います」


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